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00.コロッケは半月型がスタンダード

00.コロッケは半月型がスタンダード。

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「ねぇねぇお母さん!お父さん!」


10畳はない一間に、ちゃぶ台を囲んだ4人の家族いた。

テレビに向かい合って座っているのは小学生の(みのる)


右側に座る父親、左側に座る母親にそれぞれ問いかける。


「わぁ〜美味しそう!これが有名な山村精肉のコロッケなんですね!」


この元気な声はテレビのリポーター。可愛らしい女性リポーターが美味しそうにコロッケを頬張っている。


「コロッケってのは、肉より芋だ。精肉店のコロッケなんて邪道だ」


テレビに向かって愚痴をこぼすのは父。


「あら、カニクリームコロッケですって。本物のカニかしら」


実の呼びかけよりもテレビのカニクリームが本物のカニかどうかの方が今は重要らしい。


「ねぇねぇ兄ちゃん、」


テレビに夢中の両親は答えないと悟ったか、

最後に実が服を引っ張った相手がこの俺、


峰山家の長男、峰山春小(みねやま はるお)(みねやまはるお)だ。


「どうした、実」


時として、子供とは残酷なものだ。

好奇心ゆえに、


「ねぇねぇ、どうしてオジさんっててっぺんだけ髪がないの?」

とか、

「ねぇねぇ、どうしてオジさんは道で寝てるの?」

などと、平気で聞きにかかってくる。


だがしかし、俺は長男だ。弟であるお前の疑問は全て受け止めたいと思う。

さぁかかって来い弟よ!俺は兄として、峰山家の長男として、お前の全てを受け止めてやる!


「あのね、どうしてテレビのコロッケってまぁるいの?」


「な、な、な、なに!?」


確かにそうだ。うちのコロッケは俺がいつもバイト代で買っている1個60円の薄い楕円のコロッケ

・・・を、半分に切ったもの。


4人家族の我が家は2つのコロッケを半分に切れば夕飯のメインが4人全員で120円で済む。

実は・・・まぁるいままのコロッケを見たことがなかったんだ!


「実、兄ちゃんのコロッケと実のコロッケを合体させると・・・」


「わあ!まぁるくなった!」


「そういうことだ」


「でも兄ちゃん、」


そう、子供の好奇心というのは留まることを知らない。

故に・・・


「あの人たちは1人1個まぁるいのを食べてるよ。どうして?」


実、それはウチが・・・


「小さいからよ!!」


カニクリームのカニが本物かどうか気になって仕方なかった母が突然大声をあげる。


「実、アンタはまだ小学生。まだ小さいからよ!」


「でも、兄ちゃんも半分だよ」


「兄ちゃんはいいの!兄ちゃんはもう大きいから!これ以上食べて大きくなったら天井に頭ぶつけちゃうでしょ!」


「そっか!兄ちゃんでけぇもんなー」


いつか家の横を大型のトラックが通った時だ。

その揺れに耐えられなかった我が家の一部は斜めに崩れかけた。


俺はいつもこの居間から台所へ移動するとき、

斜めになった仕切りに頭をぶつけながら移動していた。


「実、」


意を結した俺はなるべく誠実に伝わるよう実に話しかける。


「多分だ。多分だけど、兄ちゃんの感覚だと、多分我が家はびん・・・」


「貧乏なんかじゃありません!」


またしても母親が大声を上げる。


「・・・・・・」


思わず長男でも口を開けて止まってしまった。


「・・・うちは、貧乏じゃありません」


再び母が口を開きその沈黙が破られる。


「・・・今時、同じ机囲んで、同じご飯を食べる家族も減ってるの。でもうちは、毎日みんなで顔合わせて同じご飯を食べてる。こんな豊かな生活のどこが貧しいもんですか」


そんな母の言葉に応えるよう、顔はテレビに向けたままの父も口を開く。


「そうだ、うちは貧乏なんかじゃない」


「どの口が言ってんのよ!」


これが、決して貧乏じゃない峰山家の今の話。


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そして、


「やっぱりカニクリームコロッケはカニバサミがついた本物じゃないとね」


「やっぱりコロッケはジャガイモより肉だ」


「兄ちゃん!コロッケがまぁるいよ!」


これが、決して貧乏じゃない峰山家の来月の話。


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