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たくさんのお菓子とおしゃべりと

女子会ですよ。

「女子会?」


 担当さんとの打ち合わせがあるから、と出かけていった神様が戻ってきて一言。相変わらず金髪はさらさらしているし、整った顔立ちも変わっていない。絵画から抜け出してきた、と言われたって納得するその美貌には、まだというかこれからも慣れるような気はしていない。そんな神様から告げられた言葉が似合わな過ぎて、思いっきり聞き返してしまった。


「うん、料理もだけど、一緒にたくさん話したいって希望してるらしいんだ」


 聞き間違いではなかったらしい。それどころか、わざわざ詳細まで教えてくれた。女子会という言葉が分からない訳ではなくて、それをここで言われるとは思っていなかったから問い返してしまったんだけど。


「担当とも話しているけど、やっぱり感覚違うから。春那(はるな)、お願いできる?」

「あたしでもいいのかなあ。女子会の定番って、恋バナでしょうに」

「恋バナ?」


 オウム返しのように繰り返す神様がちょっと可愛く思えてしまったけど、今度はあたしが詳細を教えないといけないだろう。


「恋愛の話。それとお菓子と飲み物があれば、女子はいつまでだって話せるって言ってた」

「言ってた?」

「あはは。ほら、あたしはさ、料理が大好きで、他の事にはあんまり興味を持っていなかった、というか」


 神様が疑問に思うのはもちろんだろう。言ってた、なんて他人事のように答えたんだから。

 女子会に誘われたことがない訳ではない。ただ、場所とお菓子の提供をしてあたしの役割は終わりとばかりに聞き役に徹していたことがほとんどだったから、いざ自分が話すという姿が想像できないだけで。

 クラスの友達が誰がかっこいいとか、俳優さんを挙げて好きなタイプの話をしていたときに、あたしはこの食材からどんな料理が作れるのか、ということを考えていたから。友人が、あたしの興味の方向性を否定せずに、むしろ話を広げてくれるような人達だったから上手く付き合ってこれたんだろう。本当に、周りの人に恵まれていたと思う。


「うーん、とりあえず料理は頼むよ。女子会っていうのは、その時に春那が判断してくれたらいい」

「分かった。女子会前提で料理は考えるね」


 あたしが答えを濁したことに気づいているだろうに、そこを追求するでもなくさらっと流してくれる神様には、頷いておいた。連絡を入れに行ってくる、とまた空間を出ていった神様には、何か好きそうな物を作っておこう。まだアイスのブームは終わっていないみたいだから、ちょっと高級なものを用意しておこうかな。


「とは言ったけど、女子会ってあたし何食べてたっけ……」


 そう、問題はそこだ。神様の事だから、返事だけではなくていつ来てもらえるか、まで話を詰めて来るだろう。だから、用意にはそこまで時間をかけられるわけではない。だけど、あたしの家の和室でみんなでダラダラしていたのは思い出せるんだけど、何を食べていたかと聞かれたらはっきりしたものを思い出せない。


「お菓子、メインだったよね。みんなでわいわい言いながら買い込んで」


 テレビをつけながら、映画を流していたような覚えがある。あたしだったら、なんて話をして、映画のヒロインの行動一つ一つにあれこれ話していたような。その時に摘まんでいたのは、映画だからって理由でポップコーンだったはずだ。

 そうだ、ひとつ思い出したら次から次へと出て来たけれど、どれもスーパーとかコンビニで買ったお菓子ばかり。さすがに、ここでそれだけ、というのはちょっともったいない。日持ちしそうなお菓子を作れる時間はあるはずなんだから。


「パイと、クッキー、それから何にしようかな」


 やると決めたらさくさく動ける。パイは葉っぱの形にして、お砂糖まぶしたものにして、同じ生地でタルト台も作ってしまおう。神様が戻ってきて、時間が決まっているのならクリーム絞ってもいいし、まだならナッツとキャラメルを混ぜたものを敷き詰めて焼いてしまえばいい。

 クッキーは生地を冷凍しておけば、必要な時に焼くだけで食べられるし。ポップコーンは当日に作ればいいだろう。マシュマロを溶かしてキャラメルにするものと、お塩、あとはカレー粉とか、コンソメ、青のりだって捨てがたい。

 なんだか楽しくなってきて、あれこれとたくさん作れるような気がしてきた。うん、美味しいお菓子があれば、っていうのが少しわかったかもしれない。用意しているだけで、こんなにわくわくするんだから、実際に目の前にあったら絶対楽しい。話す内容は、恋バナだけだと決まっているわけではないのだから。



「初めまして、よろしくお願いします」


 それから、作ってくれるのなら今からでも、とかなり熱烈に押されたらしく、神様がちょっとだけ疲れた様子で帰って来た。

 日持ちするものから作ろうと思ってあれこれしていたけれど、別に今食べちゃいけないものでもなかったから、それに了承したら即座に神様が返事をしてくれた。

 どうやら、あまりの熱量の高さにさっさと終わらせてしまった方がいいと判断したらしい。

 そうして連れてきてもらったのは、そんな熱心に女子会の開催を希望したようには見えない女性だった。

 いやね、そう聞いていたからもっと初めからがっつり来るのかと思っていたから身構えていたんだけど、ここに来てすぐに丁寧に挨拶してくれるし、ゆっくりと頭を下げてくれるしでちょっとだけ気が抜けてしまったんだよね。


「こちらこそ、よろしくお願いします。事前の希望が女子会ということでしたので、料理はお菓子メインで揃えてあります」


 カウンターでも、テーブルでもたぶん希望の女子会、という雰囲気にはならないので神様にお願いしてこたつを置いてあるところをそれなりに改造した。

 こたつを別の場所に持って行ってラグを敷いてクッション置いただけなんだけど、隠れ家レストランのような雰囲気の空間には似つかわしくない、ファンシーで可愛らしい一角が出来上がった。そこに作り置いた料理を並べて、担当さんが連れてきた女性を案内する。

 神様と担当さんにはテーブルを使ってもらうようにお願いしてあるし、二人の分のお菓子と飲み物はもう、そっちに置いてある。ちょっと離れたところだし、女性には二人を背にするところを案内したから、様子が気になる、なんて事はないはずだ。

 神様も神様で、女性があたしの作った女子会用の一角に向かったのを見送ったらささっとテーブルに座っていたし。


「うわあ、嬉しい! あ、わたしのことは史織って呼んでね」

「史織さん、ですね。春那です」


 さっそくクッションをひとつ抱いた史織さんが、並べた料理を見てキラキラした目をしている。

 お腹に溜まるようなずっしりしたものはないけれど、パイやクッキーはあとから存在を主張するし、ポップコーンだって同じく。チョコレートにナッツやマシュマロを入れて固めたチョコサラミだって、中身がみっちりしているから食べ応えはあるはずだ。

 しょっぱいものが欲しくなるから、フライドポテトと、一口サイズに切ったピザトーストも置いてある。

 それから、紅茶にコーヒーは自分で好きなものを入れられるようにしたし、炭酸だって用意してある。ジュースで割ってもいいし、果物を適当に切ってあるからそれを入れたってかまわない。

 このくらいあればきっと大丈夫だろう、という量は用意した。もし、途中でなくなったらそれが切り上げるタイミングという事だろう。


「春那ちゃん、これ全部作ってくれたの!?」

「まあ、半分くらいです」

「嬉しすぎる! ありがとう! 一緒に食べよう」


 年齢が同じでも、喜ぶポイントはやっぱり違うんだな、とは思ったけど。でも、どれを見てもかわいいとか、写真撮りたい、なんて言ってくれる史織さんの喜んでいる様子は、あたしも嬉しくなる。


「史織さんはどれから?」

「自分で取るから大丈夫。それより、ここのこと、聞かせて?」


 ポップコーンを適当に持って来て、クッキーとパイは全部乗せて。そんなお皿を持って来た史織さんがクッション片手にごろりと寝そべった。人の体に合わせて沈み込むタイプの一度座るとなかなか立てない、魅惑のクッション。それに背中を預けてだらっとしているあたしも、気づけばこの時間を楽しんでいる。


「あたしはここで料理を作ってるだけですよ。いろんな人の話は聞けるから、楽しいですけど」

「そっかあ。うん、春那ちゃんいい顔しているもんね。わたしさ、これから役割があるって聞いたけどそんな力が自分にあるとは思えないんだよねえ」


 ぎゅっとクッションを握りしめた史織さんは、不安そうに瞳を揺らした。これからどこか知らない世界で役割を果たしてもらいます、なんて言われたとして。あたしがこの空間で目を覚ました時の事を思い出す。あの時に、そんな事を言われたって素直に受け入れられたとは思えない。

 ここの記憶だって覚えていないかもしれないんだから、いきなり自分が違う世界に来てしまった、と考えるのが大半なんだろう。


「だけどね、ここで美味しい料理作ってもらって、こうやって話す事も出来て、わたしが出来ることがあるんだって思えるようになったの」


 女子会、なんて言いだしたのは、不安だったから。それで、あたしがこうして料理を作って旅立つ人達に提供しているのを聞いて、ちょっとだけでもいいから話しておきたいと思ったそうだ。

 こちらの人達が女子会という単語を知らなかったのは、ちょっとだけびっくりしたそうだけど。担当さんに説明した時にもいまいち理解をしてもらえなかったから、神様が向かったときに逃がしてなるものかとばかりに気持ちが昂ってしまったらしい。

 今思えば、あの時の自分の事は恥ずかしいそうで、神様にも謝りたいからと思ってここに来たそうだ。

 だから、最初は話を聞いていたような態度でなく、静かに来たのかと納得した。


 それからは、もうただ他愛もない話ばっかりした。同い年だと分かってからは、どんな学校に通っていたとか、合唱は何を歌ったのか、とか。お菓子の話ではきのことたけのこどっち派だとか、ポテチはコンソメとのり塩どちらが好きか、とか。

 きのことたけのこは決着がつかなかったけれど、のり塩は歯にのりがつくから、ということで意見が一致した。味は好きなんだけど、のり塩。

 あまりに盛り上がったものだから、神様と担当さんを交えてどれが一番好きか、なんて言い出したり。

 神様はシンプルに塩が好きで、担当さんはどれも美味しいと選びきれなかった。そもそも、自分の味の好みなんて考えたこともなかった、と。それを聞いて、あれこれ食べさせていた史織さんが、どうにも親戚のおばちゃんのように見えてしまって。ポロッと口から零れたそれを聞き逃さなかった史織さんに、お詫びとしてクリームと果物もりもりにしたタルトを献上したり、それを羨ましがった神様にも作ったりして、あっという間に時間は過ぎてしまった。


「頑張って来るね、春那ちゃん」

「うん、行ってらっしゃい。史織」


 晴れやかな顔をして旅立つ友人のこれからに、たくさんの幸せがありますようにと祈りながら。



みんなでわいわいやってるのって、何を話したか覚えていなくても楽しいんですよね。

ちなみに、大地を讃える合唱、歌ったことないと言ったら驚かれます。演奏はしたんだけどな…


お読みいただき、ありがとうございます。

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