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ショートショート5月~2回目

乗り換え

作者: たかさば

肩こりがひどすぎて涙が出てきたので、なじみの整形外科に駆け込んだ。


「うはあ!また派手なの乗っけてんなあ、何やってんの。」


私の右肩には、大きな大きな黒い影がのっかっている。

実におどろおどろしい、私怨と怨念その他もろもろでこってこてに武装されたちょっとやそっとじゃびくともしないレベルの悪霊である。


「うっかり目合わせちまった、なんとかしてちょうだい、マジ頼む……。」


私の顔なじみのこの整形外科の先生は、実にこう、見える人仲間であり、常日頃ボチボチ助け合ったりしていたりするのだが。


「今俺なにもついてないんだよ、残念だったね。対症療法しかできそうにないけど、良い?」


うぐぐ、今回は助けてもらえそうにないぞ、なんてこった。

思惑がド外れして、がっくり肩を落とす私。

しかし、私の肩の上に乗った人は滑り落ちる気配はない。


見えはするが、ただの一般人である私と先生は除霊する力を持っていない。


だが、馬鹿と鋏は使いよう、取り憑きやすい霊も使いようってね。


実に憑かれやすい私と先生は、たまにお互いに憑いているもの同士を見合いさせてミラクル効果を起こし、まとめて同時昇天させることがボチボチあるのだ。


例えば、孤独な若者の霊とおしゃべりなおばちゃんの霊を会わせて仲良くなったところで一緒に成仏してもらったり。

例えば、自分語り好きなおじさんの霊と無気力な少女の霊を会わせて盛り上がったところで一緒に成仏してもらったり。

例えば、誰かを攻撃したくてたまらない子供の霊と子供が大好きなお母さんの霊を会わせて感涙に浸ったところで一緒に成仏してもらったり。


「痛み止めとシップ、あとリハビリと称した全身マッサージよろ……。」

「出すけどさあ、それどっかで下ろしてきた方が早いんじゃないの、ぽっくり寺の和尚さん、昨日来てたんだけどタイミング悪かったね。」


「ぽっくりさんは別に除霊できないじゃん、あの人は生きてる人間上げるだけでしょ……うググ、いてて……。」


ミラクルが起こせなかったら、痛み止めを飲んで乗り切るしかない。

頼んだところで霊は飛んでってはくれない。

私の肩に乗って満足している以上、自主的に移動してもらわなければずっとこのままなのだ。


「まー、注射打っとくからさあ、しばし歓楽街でも歩いてくるんだね。」


しつこい霊をどうにかするには、街中を歩くのがよろしいのだな。

ものすごい神々しい人にすれ違った際に、霊があっちの人の方がよさそうと思ってくれたら大成功。

するりと乗り換えをしてくれて、一瞬で肩こりが消えるのである!


が、この方法、気を抜くと別の霊が乗り込んでくる可能性もあるので実に使いどころが難しい。

まあね、今回は被害の方が大きいから、出歩く方面一択で。

多分この霊一人で五人くらいの重量がある。


「じゃあ、お注射打ちますから処置室へどーぞ!」

「あ、シップ多めに出しといてね!!」


「へいへい、お大事に。」


注射を打ってリハビリ室へ向かうと、これまた顔なじみの理学療法士の先生がいらっしゃる。


「あれ、また肩こりですか。も~、ストレッチちゃんとやってって言ってるのに!」

「いや、まあ、やってるんだけどね、それを上回る負担がね?」


何も見えない先生は少し顎を引いて、こちらを嗜めるような目を向ける。

私は何も悪いことはしていないわけなんですけれどもね?


「じゃ、ここに横になってください。」


ベッドに横になり、マッサージを受ける。

凝り固まった筋肉がほぐされて、血液が循環してくるのがよくわかる。

やはりセルフストレッチだけではここまでコリは解せんわなあ……。


「ぎゃはは!!明日はなあ、わしハワイなんや!!はよコリほぐしてや!!」」

「はは、頑張って急ぎますけど、ええと

「ゴルフ三昧やでな、肩が凝ってはイーグルも狙えんわ!コンディション整えんとな!!」」

「あまり無理はされない方が

「夜は豪華客船でディナーや!かわいい姉ちゃんにシャンパン注いでもらうとな、まあうまいのなんの!!」」

「お酒の飲み過ぎは筋肉の

「明後日はカジノではした金バラまいて、何千倍にもして持ち帰るんやで!わし前歯金色にしよう思うてんねん!」」


隣のベッドから、やけに豪快な声が聞こえてくる。

ちらりと見ると、左手に金色の指輪が三本、腕にはゴテゴテの時計が二つもついている。

ものすごい成金の様だ、これはすごい、あんまり見た事ない人種だ、私みたいな貧乏一般人が隣にいてもいいものなのかしらん。


「豪華客船の上から見るサンセットはな、ほんま絶品なんやで!兄ちゃん見たことあるか?」

「いや、ぼくはないですね、みてみ

「あれくらいみんと人生は損しとるな!死ぬ前に一回はみとかにゃ!!」

「いつか見たいですね、右腕上げますよ、

「こんなとこでくすぶっとらすと、世界を見なあかんで、しかし!!!」


隣が派手に騒いでいるので、無言でマッサージを受ける。

いつもだったら、整形の先生の悪口を言って盛り上がるところなんだけどさ。

……黙ってマッサージ受けてると、わりと気持ちいいな。

怒りで筋肉が硬直しているから効きが悪かったんだろうか。


「はい、では次回のご予約入れてお帰り

「せやな、また一か月後やな!あんがとさん!」


隣の騒がしいおっさんが帰って行ったようだ。


「どうします、マッサージ終わりましたけど、電気流していきます?」

「うん、やってくわ、ありがと……。」


自分の施術も終わり、ベッドから降りて電気治療の椅子へと向かう。


……うん???


めちゃくちゃ、肩が、すっきりとしている。


……いなくなってる!!!


さっきまであんなに私にへばりついていた霊が、いなくなっているではありませんか。


極上のマッサージを受けたから、昇天した?

いやまさか、そんな程度で上にいくようなやつではなかったはずだ。

だとしたら、別の誰かに乗り移った可能性が……。


げえ!!


電気治療の椅子に座りつつあたりを見渡すと、会計窓口にあの霊を見つけた。

さっきの成金おじさんの肩にしっかり乗っとるがな!!!

よーく見ると、小さいのが結構乗ってるな、大人気じゃん、あのおっさん。

派手に自慢話してる人ってのは、ホントいろんなもん乗っけてるな。


……さっき、おじさんめちゃめちゃ自慢してたもんねえ。


おじさんにのっかったら、死ぬ前に一回は見ておきたいサンセットが見えると思ったんだね、きっと。

まあ、死んじゃってるんだけど、見たくなったんだね。

見たら成仏できるかもしれないねえ。

おじさんにのっかってたら、一般人の知り得ない成金ワールドを楽しめそうだもんねえ。

ひもじいババアの右肩よりも、そりゃあ魅力を感じますわなあ。


いやあ、なんかいい感じにうまくまとまったな!


私は軽くなった肩をグルングルンと回しながら、大量に処方してもらったシップと痛み止めを片手に、帰宅したのであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アイディアがすごい [気になる点] まさかの成金、いやーやっぱ地味で清楚なのがいいですぜ [一言] セリフラッシュがうめえ
[一言] うーん、今回は色々と考えさせられました。 割りと良く聞く「悪霊怨霊も成仏したがっている」とか、見るからに煩悩塗れの俗物な感じの成金のオッサンが実は陰徳を積んだ菩薩さん、あー、布袋さんとか、…
[一言] 成金おじさんもたまには役に立つんですね。 にしても、この話のデジャビュ感が半端ないのです。
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