集落の朝と春の貴婦人
その日、ウリカはいつもより早く目が覚めた。
まだちょっと空気が冷たい。鼻がツンとする。
もうちょっと寝ていようかと思ったけれど、何度も目を閉じても眠れない。
このままこうしているのも嫌だったから、ウリカは"春の貴婦人”に会いに行くことにした。
ウリカを小さな頃から可愛がってくれるカイサさんである。
カイサさんは此処シルヴァリアの集落の外れに住む、中年の女性だ。
集落の外れと言っても、ウリカの家からほんの少し歩いただけだが。
カイサさんとウリカはいつも朝食を一緒に食べる。
カイサさんの作るパンケーキはこの世界でいちばん美味しい。
ウリカの世界はシルヴァリアしか知らないが。
ウリカはカイサさんが大好きだ。
いつも優しい、春のにおいがする。
カイサさんにそのことを伝えると、カイサさんは自分のことを”春の貴婦人”と呼んで頂戴、と云った。
ウリカは春は大好きだったので解ったが、貴婦人については解らなかった。
ウリカはいつも思う。カイサさんがウリカの本当のお母さんなのではないのかと。
でもウリカは何だか気恥ずかしくて言えないのだ。
ウリカの家から出て数分後、カイサさんが見えてきた。
「カイサさん、おはよう。今日も元気?」
「あら、ウリカちゃんお早う。今日も元気よ。
今日は早起きしたのね。偉いわ!
じゃあウリカちゃん、今日は早起きして偉いから豪華な朝食にしましょうか。」
カイサさんはいつものようにウリカの手を取り、彼女の自宅へ向かい入れた。
いつものように、二人で”朝の歌”を歌った。
その日の朝食は本当に豪華だった。
いつもより沢山焼いてくれたパンケーキ、ウリカの好きな木苺のジャムに肉汁が溢れるミートボール。何よりマッシュポテトだ。これはウリカは初めて食べた。
「ウリカちゃんこれ初めて食べたの?
この辺りじゃとっても定番なのだけれど。
そういえばウリカちゃんはいつも朝食以外はどうしているのかしら?
まさか、朝食しか食べていなかったりして...!」
「わたし、朝食しか食べていないわ。
カイサさんは朝食以外も食べているの?」
「ええ。食べているわ。
ウリカちゃん、朝食しか食べていないなんて驚きだわ。お腹はすかないの?
そうだわ。此れから一緒に昼食や夕食も頂きましょう。そうしたら私たち、もっと沢山会えるわ。
ウリカちゃん、そうしない?」
「わたし、ずっとそうしたいと思っていたわ。
とっても嬉しい。今日から来ても良いかしら。そしたらわたし、カイサさんの娘みたいだわ。」
ウリカはやっと言いたいことが言えてすっきりした。
けれどカイサさん呆然としていた。
カイサさんはハッとしたような仕草をして応えた。
「そうね。本当に私の娘みたいだわ。
今日から来て良いわよ。いつも以上に此れから腕を奮っちゃうんだから。楽しみにしていてね。」
カイサさんは微笑んだ。
ウリカも真似するように微笑んだ。
その日の朝食は豪華なこともあったこともあるが、ウリカにとっていつもより美味しく感じた。
それからウリカは家に戻ってカイサさんとの食事を楽しみに、学校へ向かった。
カイサさんが案じる、ウリカの行く末など知らずに。




