無くした記憶
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目を覚ますと見覚えのない場所で仰向けに倒れていた。
目に映るのは空だ。空色はとても良く、青かった。
そんな綺麗な青空をしばらく見上げていたが半日が過ぎた頃、もう飽きた。
とりあえずは、今までのことを思い出してみよう
んー…………あれ?
覚えていることはひとつだけだった。
Mattuo
「私は人間である。そしてマカイ=ダヴという名である。」
Mattuo
この言葉だけはなぜか覚えていた。
それ以外は全て忘れていた。
自分自身がどこからやってきたのか?
年齢は?ここはどこ?
さまざまなことを考えるが何も思い出せない
何かを思い出そうとするとチクッと頭に痛みが走り何かを思い出そうという気力は出てこなくなった。
考えても思い出せないものは仕方ないと割り切ることにした。
「どこかわからんがとりあえず歩いてみるか」
こんなにいい天気なんだしね。歩かないともったいないですよね。
マッツオ♪マツオ!マッツオ♪マッツオ♪
おっといけない。ついテンションが上がって歌ってしまった…誰かに聞かれてしまってないだろうか…
聞かれてたらちょっと恥ずかしい。気分はルンルンなんだけどね
そんなことを考えながら歩いていると色々な発見があった。
Mattuo
まずは人の足跡
つまりヒトが生活している可能性が高い。
村とかが見つかるまでとりあえず歩くモチベーションが出た。
そして、小鳥の囀
動物もいることがわかった。でも村とかが見つからなくてお腹が減ったら最悪食べちゃうかもしれない…
ごめんよ…
整備された道もある
とりあえずはこの道に沿って進んでみよう
しかし気になるものが一つある
ー獣の鳴き声ー
たまに聞こえる鳴き声はまるで俺を狙っているかのような気がする。これ以上は我々の縄張りだと言わんばかりに呻いている。
「ここは少し危なそうだ、早めに安全なところに行きたいもんだがどうしたものか……」
俺はいつの間にか恐怖と戦っていたため周りばかり見ていた。しかし空を見上げてみると全てが燃えているかのように夕日だった。
綺麗だ。
そんなことを考えていたが次の瞬間には命の危機に晒されていた。
Mattuo
「ガルうううううう!」
草むらから突如飛び出してきたドス黒いナニカに襲われた。
「クッ!なんだこいつ!」
呻き声を上げつつこちらを威嚇してくるナニカはただずっとこちらを見てくる。
後ろを向いて逃げてしまえば無防備な状態を背中から襲われるのでは?
しかしこのドス黒い物体を注視しながらでは走ることはできない。
怖い。得体のしれない生き物だからどうすればいいのかわからない。
しかし日が暮れることで先ほどとまでは違った光景が浮かんでくる。
そう。光だ。
ヒトが照らしているであろう光だ。
「あそこにヒトが生活しているのか!」
こうなったらもうどうにでもなれ精神でドス黒いナニカに背をむけ全力で走った。
腕を噛まれ血を垂らしながら必死に逃げていくうちにどんどんと近づいていく。
Mattuo
「! ありゃ町に違いない!助けを呼ぼう」
急いで走っていくと異変に気づく。
後ろにいたはずの黒いナニカはいつの間にか姿を消していた
しかし黒いナニカの代わりに周りには大量のヒト
「こりゃ、歓迎されてるわけじゃなさそうだな……」
俺は両手を上げて無抵抗の意思を示した。
Mattuo
再び目を覚ますと見覚えのない牢獄で仰向けなら倒れていた。
両手を上げた後、なぜか急な眠気に襲われ、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
先ほど噛まれた腕は止血されており痛みだけが残っていた。
「あれはなんだったんだ…人間のようにも見えたが明らかに様子がおかしかった、それに・・・人にしては黒すぎる。」
闇そのもののような、触れれば飲み込まれてしまいそうな、黒色のナニカは思い出すだけでも戦慄する。
Mattuo
とりあえずここがどこか知りたい。
助けてくれたのかただ捕まってしまったのかもよくわかってない。
「誰かいないのか〜目を覚ましたぞ〜助けてくれ〜」
てきとうなことを言いつつ起きたことを知らせてみると看守が来て俺の処遇をどうするかを相談し始めた。
「こいつをどうする?」
「この町以外の人はほぼ全滅したと聞いている。どこかの村の生き残りなら生かして他の村の状況を聞くべきではなかろうか」
「だが、真黒の仲間かもしれん。とりあえず姉さんが帰ってくるまではここに入れておくしかできなさそうだな」
Mattuo
全滅?生き残り?マクロ?
どういうことだ?
しかし、思い出そうとすると先ほどと同様に痛みが走り、なにも思い出せない。
Mattuo
「おい、お前ら!全滅ってどういうことだ?ここはどこだ?ここらへんに他の人間はいないのか??」
「やはりお前はここら辺の者ではないらしいな。どこからやってきた?なにしにここへ来た」
「俺は何も覚えていない。気づいたらそこらへんの道端に倒れていたんだ。覚えていることは1つだけ私の名はマカイ=ダヴ!」
「そうか、だがそれが真実かどうか、お前がどうなるのかを決めるのは私たちではない。全ては姉さんの前で話しな」
そう言い残すと看守たちはどこかへ行ってしまった。
とりあえずあねさんとやらに頑張って命乞いしよう。
あわよくば飯も食いたい…腹減った
Mattuo
しばらくすると大きな女が目の前に立っていた。
身長は俺の2倍くらいあるだろうか、長髪の金髪にモデルのようなスタイルの良さ。
しかし鍛え抜かれた身体は素人の俺にもわかった。
「こいつが噂の『ヒト』かい?」
俺を見定めるような目つきに薄ら笑い
これから始まるのだろうか
ー拷問ー
Mattuo
しかしそんなことは杞憂だったようだ
「あんた記憶がないんだって?」
「ああ、何も覚えてない。唯一覚えていることは、俺がマカイという名であることだけだ」
Mattuo
「ふ〜ん、あんたの名はマカイって言うんだ。覚えておくよ
ちなみに私の名前はマリ=ウォルだ。よろしく。
とりあえず私たちはあんたを殺そうとは思っていないから安心しな。どうなるかはあんた次第。
あんたはマクロに襲われて逃げてきたらしいけどそのマクロはどこへいった?」
「わからない。無我夢中で走っていたらこの町の光を見つけて助けてもらえるかもって思った時には化け物はいなくて周りを人に囲まれてた」
「それに噛まれたのは腕だったと。ん~不思議だね~」
「何が不思議なんだ」
「そのあたりはまた今度話すよ。それよりもあんたはこの辺りのことを理解しちゃいないらしいから少し説明しといてやるよ」
この辺りについて説明してくれるってことは俺は生きる資格を得られたのだろう。やったね!
Mattuo
「この町は人口5000人ほどのウェルカという町だ。この付近に他の町や人々はもうない。全て壊滅した。
昔は多くの人々が暮らしていたと聞いていたが約1200年前のある日、突如現れた真黒っていう怪物に襲われるようになっちまった。 それに対抗するために、偉大なる力『シキ』を使ったと言われている。シキとは一部の人にのみ扱うことのできる特殊な力だ。
Mattuo
ちなみに私の力は、武の神が宿っている。私より強い奴はこの世界におそらくいないだろうね。
そして私を含む戦闘に特化した者を集めて一時的に危機は去ったが今も怪物どもは周辺を闊歩している
”シキ”についてはまた後で詳しく説明をしよう。
それよりも今大事なのは、あんたが私たちにとって利となる存在か、害となる存在か、だ」
おっと、まだ俺が生かしてもらえると決まっていたわけではない。
俺は問われているのだ。
この世界で生きる術を。
Mattuo
「あんたは、どうしたい?」
妖艶な笑みを浮かべつつこちらを品定めでもするかのように聞いてくる。
しかし俺は俺自身がなんなのかも分かっていない。
だから答えることができない。
「俺は、ここから出たいんだよ〜」
俺は泣きながらすがるように言った。
ようやく出てきた言葉は答えを先延ばしにする曖昧なものとなってしまった。
Mattuo