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2. (悲報)誰も助けてくれない



 本当に誰?!


 確かに目の色は同じで、声も聞き覚えがあって私の名前を知ってるけど、それ以外まるで何も共通点がない。

 記憶に残る幼い姿はもっとぽやんとしたイメージだった。こんなしゅっとした背の高いイケメンではない。ん? でも私の名前も知っていて私もなんか声に聞き覚えがあって……(注:二回目)やっぱり幼馴染? 混乱のあまり安易な結論に走りそうになったけど、冷静な自分がそれを止める。


 いやいやまてまて。

 

 落ち着け私。本当に幼馴染だったら貧乏農家だ。貴族ではない。貴族と平民には超えられない壁があるんだから。そこまで良くない頭だけどフル回転で何とかする方法を考える。


 実は、私は今だに店の通路でイケメンにギュっとされたまま。頭の中は大忙しだけど、体はイケメンに固定されている。


 何この状況?


 私達は今、空気になっている。なんだそれと思うかもしれないけれど、誰からも冷やかされないし、どかされたりもしない。まさに空気。お店はもちろん満席状態だし、がやがやと話し声も普通にするけれど、誰も私たちのことには一切触れない。


 そりゃそうだ。特大の厄介事だよ。


 冒険者だから日々命は張ってても、こんな色恋沙汰に首突っ込んでお手打ちにされたら浮かばれない。


 それでも誰か助けてくれる人居たら良いなぁと半分諦めモードになりながら、周りを見回そうと顔を動かした。


 顔を動かしたせいで、私の耳のすぐわきをイケメンの唇がかすめた。自業自得とはいえ、そのくすぐったい感触にびくっとなって少し身じろぎをしたとき、イケメンの腰に差してあるロングソードの柄に腰が当たる。地味に痛い。


 でも、明らかに高そうなロングソードはよく騎士の人達が持っているそれに似ていて、貧乏農家の幼馴染が持てるようなものでない。


 イケメンの顔は見えないけれどものすごくご機嫌になっているのが何となく伝わってくる。イケメンは私の背中を左手だけで支えて、右手で軽く私の頭をなぜながら髪に指を入れてそっと遊びだす。軽く背中に触れているだけのような左手だけれど、意外と力が強くて逃げ出すことが出来ない。触れられたところが熱く熱を持つような気がする。あの幼馴染以外にこんなに男性が至近距離に居たことなんてなかった。


 すっかりイケメンのペースにはまっているけどこんな通路の真ん中に突っ立ってるのは邪魔でしかない。どうにか穏便にどいてもらおう。貴族を下手に怒らせたら、殺されるかもしれない。でも絶対勘違いとか人違いだろうけど、とりあえずいきなりぎゅっとしてくるくらい好意があるなら殺されないよね?怖いけれど根性を振り絞る。


「あ、あのすみません離してください!」


 言い方。失敗したー。自分でがっかりする。私は自分が思っている以上に冷静ではなかったらしい。もっとソフトな言い方とか色々あったと思うけど、出た言葉は何のひねりもない直球だった。


 だからもてないんだよ。はぁ。


「……何で? せっかく会えたのに。そんな言い方するの?」


 イケメンから出た言葉は私の予想とは違っていた。怒ってはいなそうだけれど、ちょっと不満げに片眉をあげて私の目を覗き込んできた。


 うわぁイケメンだな。


 素直にかっこいいとは思うけれど相手は貴族。下手なことは出来ない。その整った顔が私の顔にぐいっと近寄ってくる。鼻と鼻がわずかに触れ合うようなそんな距離。傍から見たら恋人同士のイチャイチャのような甘い雰囲気にしか見えないんじゃないか。


 いまだに誰だかわからないけど!!


 もちろん、こんなイケメンにこんな迫られた経験なんていまだかつてない。

物凄くドキドキしてる。でも! ここが店の通路じゃなくて、仕事中じゃなくて、ちゃんと知っている人と部屋とかで二人っきりだったらまだしもさぁ! 神様ちょっとあんまりじゃない?いろんな意味でドキドキだよ!(号泣)



「あの、申し訳ありませんが初対面ですよね?」


 出来るだけ顔を遠ざけるように、後ろに下がろうとするんだけど、背中に回されたイケメンの左手がそれを許してくれないし、イケメンはあろうことか、離れようとした私の雰囲気を察して、もう一歩分、私の足の間に踏み込んだ。さっきよりも近い腰と腰がぶつかるゼロ距離。明らかに初対面の距離ではない、親密さを感じられるスペースに入られたことに言葉を失ってしまった。私は、真っ赤になって口を馬鹿みたいにパクパク開けた。言葉が出ない。


 イケメンは、そんな私を見ながらとても綺麗な微笑みを浮かべた。愛おしい相手に対してするように、右手の指先で私の頬から顎まですうっとなぞると、私の唇を指で軽く封じた。そして、慈しむような優しい声で、笑えないセリフを私に向かって囁いた。



「初対面なんて笑えない冗談をいう子にはお仕置きしないとね」



挿絵(By みてみん)


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