1-20:5年前の約束
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20話:5年前の約束
オレと母と父は今、王城の謁見の間にいる。
全員が揃ったことで、早速、陛下が話始める。
「本日は5年前に約束した通り、ハイデルブルグの長子であるアレンと我が騎士団との模擬戦を執り行うこととする。当初は王国騎士団との模擬戦を予定していたが、皆も知っている通り、新しい騎士団を創設すべきではないか...という声が上がっていた。騎士団は精鋭中の精鋭であり、騎士を増やすのは賛成だが、数だけが増え質が低下してしまう恐れがあるため、その声には否を通してきた。しかし、この度のアレンとの模擬戦にて、その実力があると判断した場合は、騎士団の増設を認めて欲しいという臣下の強い薦めもあった。そのため、此度の模擬戦はアレンと騎士団候補との模擬戦とすることにした。これは既にアルリード男爵へも通知をしているが、それでよいな?」
陛下がこちらを向きながら問いかけてくる。よいな?と質問をしているが、この返答は是としか返せない。否という選択肢はもとからないのだ。
「陛下、それでかまいせん。それとひとつ、今回の模擬戦ですが、エレンも参加致します」
「それは誠か?」
「はい」
この父の発言はこの場に集まった貴族たちを驚かせるには十分だった。一気に周りがざわつき始めた。
それを聞いた陛下と宰相、そして軍務卿は驚きを隠さず、代表して陛下が話を進める。
「それは...珍しいな。模擬戦であろうとも今まで頑なに戦闘行為については否を出していたエレンが参加をするとは、どういうことだ?」
「私も思うところがあるものですから。それにこの5年で、精霊とも意思疎通がうまくいってまして、模擬戦であれば問題ないという判断です」
「なるほど。それではエレンの参加を歓迎しよう」
「お待ちください、陛下!」
あの侯爵が待ったをかける。この5年でまた太ったようだ。少しは運動したほうがいいとおもうけどな。
「どうしたサボル侯爵?」
「今回の模擬戦は、あくまでもそこの子供と騎士団との模擬戦です。そこに男爵...いえ男爵夫人が参加されるというのは話が変わります!」
「良いではないか。それとも自信がないということか?」
陛下がサボル侯爵を煽ってる。
陛下としたら、精霊術を軽んじてる侯爵はその筆頭であり、この騎士団候補たちは侯爵の息が掛かってるようだから邪魔な存在なんだろう。
さて侯爵の反応は?
「自信がないわけではございません。ですが、陛下が一度決められた内容を違えるのは問題であるのではないか...と申し上げているのです」
「だが、【精霊術師】の実力を軽んじている者たちも、ここには多くいるだろう。その実力をエレンも見せてくれるというのだ。この機会を逃すべきではないと思うが?それに5年前、貴公も実力を図るべきだ...そう言っていたであろう。あの言葉は嘘だったのか?」
「いえ、そのようなことは...」
侯爵の勢いが減ると、侯爵の隣にいた者が侯爵になにやら耳打ちをする。
父にあの者が何者なのかこっそり聞いてみると、サボル侯爵派のズリーノ伯爵というらしい。要は腰巾着というやつだ。
(サボル侯爵、この話受けるべきです。他国からも優秀な【魔法士】を数人雇いました。中には上級威力を使える【魔法士】もいます。精霊術の攻撃など襲るに足りません。それに【精霊術師】は接近戦ができません。騎士団の人数も多いです。物量で押せば騎士団の圧勝間違いなしかと。今さら下級精霊と契約している【精霊術師】が一人増えたところで、我らの勝利は揺るぎません。それにあの女も負けたら軍に入れて、ハイデルブルグは貴族としての価値なしとし廃爵させる...という手が使えます)
すると侯爵が笑みを浮かべて話を続ける。
「それであれば...騎士団が勝利した場合、子供は騎士団へと入ることになっております。エレン男爵夫人も参加させるということなら同じ条件で、ということでいかがでしょうか?」
「それは騎士団が勝利した場合は、エレンも軍へと入れるということか?」
「はい、その通りでございます。騎士団に負けるという事であれば、貴族として領を守る力にも不安が残ります。それが【精霊術師】なら尚更です。それであれば、その力を軍で鍛え、王国へと貢献できるようにするべきであると具申致します」
この模擬戦で負けた場合、王家が考えているような強さはないという証を立てて、代々の貴族位を剥奪させ軍で扱き使おうという考えなのだろう。だが、その考えは正しくない。そういうことなら、他の貴族も守る力があるのか疑問だ。自分で自分の首を絞めている言葉だと気づかないのだから、自分勝手な貴族なのだろう。
それにしても貢献か。うちは今、かなり王国に対して貢献をしているんだけどな。既に内々で、子爵へと陞爵するという話を受けている。
それを知らないというのは正直に言って、滑稽だ。というか侯爵もうちからの恩恵を得ているはずなんだがな。知らないのか?もしくは知ろうとしていないのか。
どちらにせよ侯爵という立場であるのに知らないというのは問題ではないのか?
「エレンはそれで構わないか?」
陛下が確認のために母に話を振る。
「わかりました。もしこの模擬戦で私とアレンが負けるようであれば、私も軍へ参入することを誓いましょう。ですが陛下・サボル侯爵、一つお忘れではないですか?」
陛下もサボル侯爵も何を言っている?という顔をしている。そのまま母が話を続ける。
「本来であれば今回の模擬戦ですが、私たちが受けるメリットがございません。私たちは負ければ軍へと加入します、それであれば私たちが勝った場合、どうしていただけるのでしょうか?」
その母の話に対して、サボル侯爵以下数名の貴族が反発してきた。
「陛下に対して無礼だぞ!」
「対価を求めるとは貴族としての矜持はないのか?!」
「男爵風情が調子に乗るでない!」
「黙って命に従えばよいのだ!」
おぅおぅ、随分な言い様だ。対価を求めるな...と言いつつ、そちらは負けたら軍に入れという対価を求めているというのに。これがこの国の貴族ということか。
さすがに付き合っていられないな。母と父の顔を見たが、二人も同じ考えのようだ。
ハイデルブルグ家はこの国の端だ。我が領は自給自足ができているようだからな、王都からの影響などほとんどない。
ここの貴族はバカばっかだ。いっそ、王都へ来るのはこれで最後にしたらどうだろう。なんて思っていると、陛下が話し始めた。
「静まれ!確かにエレンの言う通り、ハイデルブルグがこれを受けるメリットはない。そもそも、この模擬戦はサボル侯爵が提案したことだ。そして騎士団が勝利した場合、軍へ入れというのもサボル侯爵含め複数の貴族からの嘆願があったため、ハイデルブルグ側の了承をとらずに一方的に決めたことだ。ならばハイデルブルグ側でも、それに応じる為の対価を求めるのは何ら不思議ではない。むしろこのまま模擬戦をしていれば、王国が不当に男爵を陥れたという風評が出てしまう所であった。そうであろうランドール宰相?」
ここで陛下は宰相へ確認するように話しかけた。
「陛下のおっしゃる通りでございます。このままでは王家への信頼が揺らぐところでした。ならば、ハイデルブルグ男爵側にもそれ相応の対価を示す必要があると存じます」
「うむ!そうであれば対価としては何が適切であろうか?」
「ハイデルブルグ家は代々、男爵の位を授けております。その最大の理由は【精霊術師】の力が強大であるということでした」
「そうだな。しかし、近年の【精霊術師】の力は懐疑的なものへとなっているぞ」
「そこで騎士団候補に勝てるようであれば、その実力は本物であると言って差し支えないでしょう。なにせこの騎士団候補は、優秀な人材を他国からも雇い入れ、一軍にも引けを取らないと、サボル侯爵、ズリーノ伯爵を筆頭に豪語されているようですから」
「ほう。それは面白い!」
「一軍にも引けを取らない騎士団相手に勝てる者を、男爵という地位に留めておくなんて判断は見る目がないと他国に笑われてしまいます。それにハイデルブルグは近年の農業改革で、我が国全体に対して多大な貢献をしております。ここ2年は天候不良を除いて不作という報告は上がってきておりません。あのレシピを導入してからは例年以上の豊作となっているのが、その証拠です。それだけでも陞爵するには問題ないと判断します」
「ふむ。であれば対価としては子爵へと陞爵させるというだけでは足りないな。そうだな、では今後ハイデルブルグには軍へ入れという話は一切しないということでどうだろうか?」
「はい。それであれば釣り合いは取れるかと。なにせ、そもそもの原因が軍へ入る入らないという話でしたから」
話がトントン拍子に進んでいく。周りの貴族も呆けている状態だ。これは陛下と宰相は事前に打ち合わせしていたみたいだな。
うちを子爵へと陞爵させる流れを作るための一芝居と言った具合だろう。この流れなら他の貴族からも反対はされにくい。
もししようものなら、自分の爵位を賭ける必要が出てくる。そんな危ないことをしようとする貴族はいないだろう。
「アルリード男爵、そしてエレン、その対価でどうだろうか?」
「「それで構いません」」
父も母も即答で返した。二人もこの流れは知っていたのだろうか?それともそうなるとわかっていたのだろうか?
腹の探り合いではないんだろうが、オレはちょっとこういうのは苦手だ。国に仕えるっていうのは大変で面倒だ。
話はこれで終わりかと思ったが、軍務卿が割って入ってきた。
「サボル侯爵、一つお聞きしたい。騎士団候補と言えど、騎士団が負けるというのは醜聞に悪い。その点は大丈夫であろうか?もしよければ私から王国騎士団に話を通すが?」
「リュウセン軍務卿、ご心配頂きありがとうございます。しかしその心配は不要だ」
「そうですか。それは申し訳ない。気を悪くしないでもらうと助かる」
サボル侯爵は騎士団候補が負けるとは考えていないようだ。
この国は【精霊術師】よりも【魔法士】の方が有能であると考えられているからな。
【精霊術師】は欠陥職、【魔法士】は有能職と呼ばれている。まぁそれはどの国も同じか・・・
こうして騎士団候補との模擬戦が正式に決まった。
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