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ピグミの物語  作者: ソノ
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ドワーフの村 (2)

 




「宴会が整うまで、まずは村を案内させて頂戴。私達は旅人が来てくれることがお祭りなの。この村を知って旅の途中にでも広めて欲しいのよ」


 さっきの母親のドワーフと子供達に案内され、村の施設や歴史をいくつか紹介された。子供たちは便利な森の植物を次々持ってきてくれ、とても詳しかった。あどけなく、恥ずかしがらず快活だ。


「私達がいつの頃からこの場所に住んでるかは正確にはわからないわ。ただ昔から街から街への中間地点として旅人を歓迎し、この村の存在を世間に忘れられないようにしてるの」


 滝の下流は綺麗な沢が流れていて、動物の姿やモンスターの足跡もあった。


「最近首都の近くの森ではモンスターの魔狂いなどが報告されているが、ここは?」


「いいえ、ここは自然と共存する集落。モンスターに必要な魔石も自然も私達は取りすぎたりしない。そうすれば彼らの生息域である森であっても私たちの住処を荒らさないでくれる。

 魔狂いになってしまったモンスターの素材は毒を持ちすぎて使えないじゃない。彼らに行き届かないほど、魔石だけに頼りすぎてしまっている現代はよろしくないわ」


「……もっともだ」


「私達ドワーフは土の民、肥沃な栄養を持つ土を作り出すのは自然や生き物のおかげと知ってるの。旅人さんたちには是非覚えて帰って欲しいのよ」


 沢の流れに沿って進むと、小屋がいくつか点在していた。そこでは川で洗い物をするものや、大量の紐や布を乾かすドワーフたちが笑いながら作業をしていた。


「おおー! 旅人か、今日はいい日だな。早速案内ありがとう」


「ええ、ちゃんと村の物産を説明してね」


「任せろい!」


 ドワーフが親指を立てて向ける。その爪は濃い青色に染まっていた。小屋に案内されるとドワーフ達が桶で何かを漬け込んだり洗ったり作業をしていた。クローサーは興味深げに桶の中を覗き込んだ。


「藍染か……」


「おーさすが旅人さん。染色作業をご存知か。今の時代は魔水で合成的に染色出来るが、藍は世界最古の染料であり、布を染めることにより虫を寄せ付けず肌荒れも防いだ。

 戦士が験担ぎに勝ち色と呼んだ褐色にも通づる。青は初めて人が世界に付けた色だな」


 得意げに話す職人風のドワーフの影から、子供が顔を出した。同じようなクルクルの茶髪をショートカットにした女の子は鮮やかなグラデーションの服を着ていた。


 その服に私は心奪われた。深みのある黒に近い濃い青から鮮やかなブルー。女の子が動くと裾のレースが揺れて、その紺は鮮やかに世界を動かした。着るものにあんな形のものがあるなんて。


「親父! ここだけの技術を教えないと!」


「ああ、そうだな! 娘なんだが年頃で怖くって……えーと、我々ドワーフは土魔法を種族の特性として女神様からギフトをいただいている。その力は畑や鍛造、建築なんかにも役立つ。

 我々は土を愛し大地を踏みしめる木と育つ。その土や木からも染色出来ることをこの地から受け継いだ」


 外に案内され、石で囲われた場所に連れていかれる。そこではドワーフの男たちが灰色の泥水に浸かり、一心に糸の塊を擦っていた。泥から出したものを沢で洗い、干す作業を笑顔で行うドワーフ達。


 風に揺れる糸はカラフルで、この住民みんなが着ている色だ。私が着ている奴隷服も同じような糸の集まりだという。同じような布でも、粗悪でごわついているようにはとても見えなかった。


「テーチ木と言われる樹皮を煮出したもので染めたあと、さらにこの地の土で作った泥水に漬けると不思議と深みのある色に染まる。我々は泥染めと呼んでこの地の名産としてる。この子が着てるワンピースがその色だな」


「どこか優しく力のある褐色だ」


「ありがとう、ヒューマンのお兄さん。この地の土でないとダメなのよ、不思議よね。上手く説明出来ないけど私この大人っぽい色とても好きなの。強い晴天のような青ではないけど、恵みの雨の前のような、そんな色。ワンピースはお母さんが時間をかけて仕立ててくれたのよ」


「とても可愛いよ」


 私はクローサーのその言葉に反応してほとんど衝動的に動いていた。クローサーの肩掛けのアイテムバックに駆け寄り、腕を突っ込んで中を漁った。アイテムバックは肩まで突っ込んでも底に当たらず、顔を突っ込んだら引き剥がされた。


「ピグミ! アイテムバックに入っては行けない、気が触れるんだぞ。絶対にダメだ! 一体何を探してるんだ、思い浮かべば手に届く」


 言葉を理解してまた腕を突っ込んだ。次は指先に目当てのものが見つかり、全部引っ張り出して胸に抱えた。採取したカイコガイの糸は乾くと発光もなく、柔らかな半透明の糸くずになっていた。


「これも糸でしょ、あれにして」


「ほほお! こりゃ貝子糸じゃないか、見つけたのか?! こんな貴重品どこで買い付けたんだ? 七年に一度の高級素材だぞ」


「欲しいのなら色と交換だ」


 私は口を曲げて職人のドワーフを見上げた。戸惑ってクローサーと私を見比べなかなか受け取ってくれなかった。


「あーこの歳で、商談かい? 旅人さん、どうしたら」


「ピグミが見つけたものだ、私は構わない。それにピグミがいいのなら受け取ってもらいたい。私は金を持たん吟遊詩人で、食事や宿の礼はできない」


「いやいや、吟遊詩人の人だとわかっていたさ。それに我々は見返りは求めていない。この染色の出来る地を一人でも知ってもらいたいだけだ」


「できるの? できないの?」


 口をあんぐりと開けたままのドワーフの女の子を指さした。女の子は驚いて自分の服を見下ろした。


「これはあげないよ! お父さんとお母さんがつくってくれたんだもん」


「いい。ピグミはもっと可愛いの着る」


 案内のおばさんは声を上げて笑い、クローサーの腰を叩いた。


「可愛いやきもち屋さんじゃないか。染めることはむしろこっちは嬉しいことだが、糸から布にするには私達にはとても時間がかかる。そこまで滞在出来るのかい?」


「いや……そうもいかない」


「私達は素材は用意出来ても、いけすかないがエルフのように機織りの技術はそこまで高くない。お嬢さん、染色して布にしやすいよう下ごしらえまではしてあげれるがそれでもいいかい?」


「……わかった」


「嬢ちゃんその歳でわかってるなぁ、この色がいいんだよ。よし任せろ! おじちゃんがしっかり仕事しよう、その代わりこの村の技術をしっかり広めてくれ。上等な素材は久しぶりだ、腕がなるなこりゃ」


「ああ。任せたぞ親父、しっかり頼む」


 藍色の指を真似して親指を立てた。周りは吹き出すように笑い声を上げた。クローサーは少し困ったような顔をして笑みを零していた。


 そうか、素材だけではあれにならないようだ。服というのは工程があるのか。私は機嫌を損ねて口を曲げた。


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