ピグミの歌 (6)
妊娠中のつわりは理由がよくわからないのだそうだ。母親の体が子供を異物として吐き出そうとしているや、子供の体の成長についていけず、胃が圧迫されるなどと言われている。自分の意思になく、押し寄せてきた。
クエストに成功して祝杯を上げる二日酔いの朝みたいだと感傷に浸った。隣で眠る彼の清潔な匂いでさえも、引き金になって八つ当たりをしたのを思い出す。
フッと一人でもの思いにふけりながら、木に登る彼を見上げた。完熟しかけの柑橘類の木を見つけ、つわりで苦しむ私に採取してくれている。というか、私がせがんだ。
ギリギリと腕を伸ばし、果実を掴んだ瞬間バランスを崩して彼が目の前の地面に落っこちてきた。クローサーの身体能力は低い。
小さく悪態をつく彼が落ちてくる葉っぱを払うのを私は頬杖をついて見ていた。
「ヒモが、働いてる……」
「うるさい」
彼は賃金をもらうことを吟遊詩人になってから、ずっとしていない。人の施しでしか生きていかないと決めているからだ。
「赤ちゃんが、今はママに休んで欲しいからつわりがあるんだって。パパ」
擦り切れた腕の血が落ちないよう、彼は舐めとった。一瞬目を私に合わせた彼はまた視線を戻し、傷口に吸い付く。自分の血が大地に落ちるのさえも烏滸がましいと、君はまだそう言うの。




