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ピグミの物語  作者: ソノ
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森 (1)

 




 ドワーフの集落を出てまた森を進んだ。布だけを巻いていただけの足と違い、サンダルは足の裏を守り疲れにくく移動が楽になった。


 クローサーのために獲物を探しながら周囲を警戒しながら進むのは変わりはなかった。


 たまに大型のモンスターが出て私が立ち向かおうとすると、クローサーは私を抱きかかえて逃亡した。彼はあまり戦おうとはしなかった。回復役のいないパーティーメンバーでの狩は危険だという。


 夜の森でもクローサーは火を絶やさなかった。


「夜の森で火を絶やさなければモンスターや凶暴な植物に襲われることはない、火は我々の最初の魔法だ」


「肉を焼かない火は魅力がないな」


「仕方がないだろ、ここは森だ。植物の多い場所は捕獲出来るモンスターのレベルも高いんだ」


 ドワーフ達が教えてくれたこの森の木の実や植物で腹を満たし、最低限の食事を済ますと二人で木の根元や洞窟で丸まるように寝た。クローサーは私を隠すように体で包んで眠る。その背中はいつも出口側に向いていた。


 その日は森を下っていた。途中森の空気が変わり、私は鼻を空に向けた。森の植物の香りと違い、初めて嗅ぐ匂いだ。クンクン鼻を鳴らし、私は木に飛びついて登った。


「おいピグミ! 危ないぞ、やめろ」


 彼の忠告を無視して私は木を跳ねるように駆け上がった。頂上の枝で周りを見晴らすことができた。


 進む先の緑の海が途中で境界線が引かれたように濃い青の森になって輝いていた。植物ではない。匂いの正体はあれだろう。


 水の森だ。


「クローサー、森が青になってるー!」


「ああ! 海だ! 危ないから降りて来い、私ではそこまで登れない」


 あの水の大地を海というのか……クローサーが心配する声がしたが、海を眺めていた。輝く青い森の一角が、岩礁なようなもので不思議な形に囲われている。その中にポツポツと何かがある。


「海の真ん中にピンクの岩で囲まれた所がある! 中になんかある」


「そうか! それはサンゴで囲まれた環礁というものだ、中にあるのは人の家だろう。いいからおりて来い」


 水の上に人が住んでるのか、しばしばその不思議な集落に見入っていた。


 クローサーがうるさいのでそろそろ降りようと足場を確認すると、隣の木に大きな鳥の巣を見つけた。巣の中には大きな卵が三個ほどあり、私は飛び移って移動した。


「ご飯……」


 まだら模様の卵は水汲みのバケツより大きく、抱えて降りるのはなかなか大変だろうがクローサーがまた喜んでくれるかもしれない。


 卵を抱えようとした時、上空から強い風が吹いて辺りがいきなり暗くなった。


 違う、上空に何かいる。私が見上げると空に翼を広げた巨大な怪鳥がいた。赤い翼を持つモンスターは極彩色のとさかを広げ、ルビーのような嘴を開け私を威嚇して耳を劈く声で鳴いた。赤透明の鉤爪を光らせ、私に向かってきた。


 獣の本能だろうか、とても敵わないと判断して命を優先して背中を向けたが間に合わず皮膚を切り裂かれた。巣から飛び出し枝にぶつかりながら地面に猛スピードで落ちて行く。地面に落ちた衝撃で転がり、茂みで止まった。


「ピグミ!」


 私を呼び、駆け寄ってきたクローサーが覗き込んできた。周囲を警戒しながら、起き上がれない私の体を調べた。


「背中をやられたな、急いでこの場を離れよう。血の匂いで魔物が反応する。少し我慢しろ」


 私を背中に担ぐとクローサーは駆け足でその場を離れた。上空からはまだあの怪鳥の声が聞こえる。怒った声は卵を守ろうと警戒している。私は魔物を舐めていた。体の大きな魔物は力だけの鈍重なものもいてスピードなら負けてなかった。


 だがあの怪鳥は素早い飛行も行え、鋭利な武器も持っていた。私は戦闘に適している亜人の身体能力ではない。


 捕獲や偵察にしか向いていないのだとその悔しさを負担の増えた移動をするクローサーの辛そうな息を聞いて噛み締めた。


 日が沈んでもクローサーは移動を続けた。汗だくの体は休むことなく、私の体を常に心配して声をかけ続けてくれた。意識が朦朧としながら、背中の振動に身を任せた。


「背中の痛みはどうだ……?」


「燃えて……いたい」


「爪に毒を持つモンスターだったのかもしれん。立ち寄るつもりはなかったが、ピグミが見た集落に行こう。ヒーラーがいるかこの辺りの薬草に詳しいはずだ」


 体力を使っていないのに私の呼吸は乱れていた。汗をかいてるのにひどく寒い。そのぶんクローサーの背中が暖かい。


 地面を踏む足音が水分を含んでいるのか泥から精一杯足を引き抜いているようだ。まぶたの重さが限界を迎えた頃、前方に揺れる松明の光を見た。


 森の息吹が薄い。代わりに鼻の奥を刺激する強い香りと雑音のような音が寄せては引いて聞こえる。その音が、同じリズムを刻む心臓のようで気持ち良くて目を閉じた。


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