虹が架からない話
「ということがあったんだ」
「やったあ。いよっしゃあ。ざまぁみろ。おおおらるらああ」
七宮と仲違いしたことを話すと、大橋さんは手放しで喜んだ。
この子、いい性格してるよな。
七宮の前では猫を被ってたんだろうか。
「それで、どうするの?」
「どうする?」
僕は訊き返した。
だって、この街では一度仲違いすると仲直りできないのだ。
どうしようもないじゃないか。
「私だったら、仲直りできないからってすぐに諦めるような人は、好きにならないよ」
「そうかもしれない」
でもいったいどうやったら七宮と仲直りできるんだろう。
この雨の止まない街で。
「で、どうして喧嘩したの?」
「仲違いした、ってところしか聞いてなかったんだね」
「うん」
僕はもう一度事情を話した。
大橋さんは多少バツが悪そうな顔をした。
「あれ。それって私いま、彼氏を寝取った悪い女だと思われてる?」
「かも」
「仲直りしなさい。絶対。誤解ときなさい」
「例のこと、話していいの?」
「だめ」
どうしろって言うんだよ。
「川が土色なのがいけないのよ」
大橋さんが明後日の方を見てぼやいた。
和田から電話がかかってきた。
「なあ。おまえ浮気したの?」
「どこからそんな話を?」
「七宮さんから電話きた」
いつのまに連絡先を。
和田、恐ろしい子。
「してない。んだけどちょっとややこしいことになってて」
「ふうん。ならいいんだけどさ」
「七宮は僕のことをなにか言ってた?」
「全然思うように、うまくいかないって」
「?」
「自分は恋愛なんてもっとうまくやれるもんだと思ってたんだって。でも好きになってみると全然思ったように振る舞えない。伝わらない。つっけんどんになるし、かわいくなれない。あんなこと言うつもりじゃなかったのに。こんなのおかしい、雨のせいだわ。って、ずっとキレてた」
「あはは」
七宮らしいや。
「なぁ」
「うん」
「もったいないぜ。なんかくっだらないことなんだろ。このまま終わるなよ」
「わかってる」
わかってるんだけどなぁ。