傷が治らない話
僕と七宮は食堂で昼食をとっていた。僕は唐揚げ定食を、七宮は煮魚定食を頼む。
「僕には和田って名前の友達がいるんだけどさ」
なにげなく僕は切り出した。
「えぇ!? あなたって友達がいたの!!?」
七宮は大げさに驚いた。
僕のライフポイントが80ぐらい減った。
「そいつはとにかくモテるんだ。なんか知らないけどなぜかムカつくくらいモテるんだよ。高校の頃に僕が女の子に話しかけられた理由は大抵“和田君の連絡先を教えて!”だった。僕はあいつの太鼓持ちみたいに思われてたんだ。それは嫌だったんだけど。悔しいことに和田はいいやつだったし、和田の隣は居心地がよかったから僕らはずっと友達だった。
でも高校三年の二学期くらいで、和田は病んで引きこもっちゃったんだ」
「どうしてまた?」
「あいつのところにはいろんな女の子がやってきたんだけど、みんな評判につられてっていうか、和田に勝手な幻想を抱いてたんだ。だから実際に和田と恋人になってみて、等身大の和田を知ると幻滅しちゃうらしくて。和田は律義に付き合う女の子を毎回好きになってたから、あいつは年中失恋してたんだよ。ほら、この街では、傷がなかなか治らないだろう?」
「なるほどね」
七宮は頷いた。
「一度、その和田君に会ってみたいわね。あなたと友達になれる奇特な人なんて興味があるわ」
「僕は会わせたくないな」
「どうして?」
「彼はモテるし、この街では傷がなかなか治らないからだよ」
七宮はくすくすと笑った。
僕らは食堂を出て、それぞれの次の講義に向かおうとする。
不意に七宮が僕を呼び止めて、僕は振り返る。
「でもきっとあなたを傷つけるようなことにはならないわよ」
「え?」
相変わらず雨が降っていたから、呟くような七宮の小さなその声は僕に届かずに打ち落されてしまう。