仲違いの話
七宮には書道部の友達がいる。一度、僕と引き合わせてくれた。礼節正しくてよくおどけてみせる、場の空気をやわらげてくれる女の子で、名前は大橋さんといった。
大橋さんがいなくなってから、僕と七宮はファミレスに入った。七宮はハンバーグセットを、僕はグリルチキンセットを頼んだ。
七宮は大きなため息をついた
「私ね、彼女のことが嫌いなの」
七宮は言った。
「すごくいい子なのよ。悪いところなんて全然ないの。きれいな字を書くし、いつもニコニコしてるわ。おおよそ人に嫌われる要素なんて一つも持ってない子よ。
例えば、会社の入社試験で私が面接官だとするでしょう? あの子が面接にやってくるじゃない? あの子は、あのニコニコした調子で感じのいいことを話すのでしょうね。私は一発であの子のことを気に入るわ。きっと採用するでしょうね。そういう子なのよ。
でも友達としての私はあの子のことがきらいなの。こういうのって、わかってくれる?」
「なんとなく」
僕は言った。
「でもどうしてきらいなのに一緒にいるんだい?」
「しょうがないじゃない。だってここでは一度仲違いしたら仲直りできないんですもの。それってさみしいわ」
「なるほど」
ハンバーグセットとグリルチキンセットを食べ終えた僕らはファミレスを出る。
相変わらず雨が降っていたから傘をさす。そのせいで僕らは手を繋ぐこともできない。