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第壱幕 主人(マスター)はじめまして。あたしが貴方の使い魔です

新たな主人マスターを求めて日本に向かうサキュバス。


彼女は無事に彼…酒谷大輝さかみやたいきの使い魔となれるのか?

(ふむふむ…)


あたしは漆黒の羽根をぱたつかせながら日本へと向かう。


シュゴーッ!


「おぉっと!危ないわね!気をつけなさいよっ!」


軍用ジェットはあたしの真横を音速のスピードで通り過ぎて行った。人間の科学力程度のレーダーじゃ、あたし達魔族を察知するのは不可能だ。なので、こっちが油断していたらぶち当たる。ま、死にはしないけど。


「よっと」


ボウッ!


あたしは手にしていたフィオル…もとい、酒谷大輝さかみやたいきという少年についての情報をまとめたファイルを燃やした。暗記したのだからもう必要はない。サキュバスの記憶力は人間のそれと比べて半端じゃない。何せ、寿命が1000年あるのだから。

ルシファー様の話によると、自分はサキュバスの第3984代目にあたるらしい。しかし、大半の歴代サキュバスは寿命が尽きる前にルシファー様の宿敵サタン軍と交戦し亡くなったそうだ。


(はぁ、ルシファー様がサタン封印してくれたお陰で長生きできました。ありがとう、ルシファー様)


もし、未だサタンが健在ならば戦争に駆り出されていたのは間違いない。


(さて…そろそろ日本に着く頃かしら?)


転生していたフィオルの魂を持つ少年、酒谷大輝さかみやたいき明勇学園めいゆうがくえんという高校の一年生らしい。偶然にも、あたしの以前の主人マスターはこの近くに住んでいる。


(時間が出来たら挨拶に行ってみようかな)


そんなこんなで、あたしは酒谷の自宅上空にたどり着いた。時刻は深夜2時に差し掛かる前。私達、魔族が暗躍する時間だ。


(さて、どうしよっかねぇ?)


とりあえず、様子を確認する事にした。あたしは透明化の魔法を使い、窓をすり抜けあっさり侵入。案の定、彼は布団を蹴飛ばし、お腹を出したままぐっすり眠っている。


(あら。風邪引きますよぉ…っと!違うって!)


さりげなく布団を掛け直すとこだった。


直近のあたしの目的は彼の使い魔になる事だ。


あたしは盟約によりルシファー様の配下として仕えていた。その盟約とは、誰にも転生前のアリサの名前や素性を話さない事。もし、迂闊に喋ってしまうと魂そのものが消えてしまうらしい。


その為に彼の身近にいる事で、彼自身が前世の記憶を取り戻す為の手伝いをしなければならない。


(でも、それって今の彼の生活を壊してしまうのかな)


ダメだ。弱気になるなあたし。フィオルにお礼をいうためにこの魂をとどめていたんだ。何も間違っていないはず。


(よっし、とりあえずやってみますか)


あたしは部屋の隅っこに簡易魔方陣を設置した。単に指先に魔力を込め、床をなぞるだけのお手軽魔方陣。処女の生き血だとか、山羊の首だとかは人間が作った大嘘なのだ。


作戦はこうだ。


壱、ちっちゃなお人形サイズになる。


弐、魔力で寝ている大輝を起こし、さも、今魔方陣から召喚されました演出を演じる。


参、目覚めた大輝にあたしの存在を認めさせる。


四、晴れて使い魔として契約完了。


(ざっとこんなもんでしょ?)


しかし、壱と弐は問題ないと思うけど、参と四はかなり自然に受け入れられるのは難しい。まず、彼が悪魔を完全否定する人格、もしくは悪魔に対して警戒心を強く持たれてしまうと、その時点であたしの計画は水の泡。


その為に綿密に作戦を立ててきた。


それがこの『あなた寝言で召喚しましたよ』作戦だ。


別名、『知らないうちに召喚してくれちゃってどうしてくれんのよ。こうなりゃ、無理にでも主人マスターになってくれなきゃ、実力行使でいくわよ』作戦ともいう。


「うーん…」


ビクゥ!


彼は大きく寝返りをうった。


(今、起きられたらまずいわ。早くしなきゃ)


幸いな事に寝返りで顔は魔方陣に向いている。今しかない。


(魔方陣発動っ!)


光が渦を巻き、風を呼び起こす。


彼は目を細め、こちらを見ている。


(よし、今だっ!)


「こんばんは、マスター。今日からあたしサキュバスはあなたの使い魔でぇす。よ、ろ、し、く!」


「はぁっ?」


し、しまった。ノリが軽すぎたかな。もう少し悪魔の威厳を持って登場した方がよかったのかも。


(ええぃ、ままよ)


「だぁかぁらっ!あたしを呼んだのはあなたでしょ?とぼけないでよ」


彼は明らかに怪しい者を見ている目付きだ。


(くうっ、予想してたとはいえ、やりづらいよ。どうしよ?)


あたしは目を閉じ、腕組みして考えた。


(昔の人間の偉いお坊さんは、こんな時、確か指に唾をつけて頭にくるりとすれば閃き…いや、逆に怪しまれるぅ!)


悪魔がパニックを起こしてどうすんの。落ち着けあたし。


その時、以前元マスターが家族で運動会の様子を録画して見ていた事を思い出した。


(そうだ!テレビがあるじゃない!)


下から見上げると、ガラスのテーブルの上にリモコンがあるのを見つけた。


(よし、あれを使って)


あたしはテーブルに向かって飛び、リモコンがある場所に着地する。そして、今の自分の身長ほどあるリモコンを抱き抱えた。


「えっとぉ、これでテレビ…だっけ?つけてみて?」


明らかに怪しさが増した目で訴えてくる。


(早く見て見てっ!)


あたしは精一杯ちぎれんばかりに尻尾を振った。


観念したように頭を掻きながら、彼はスイッチを入れる。


(今だ!疑似映像ダミービジョン発動っ!)


テレビのモニターにはベッドで布団を抱き抱える彼の光景が映し出された。


(な、なんだよ?もしや盗撮されてた?)


彼の心を読んで正解だった。やっぱり疑ってる。


「違う違うっ!ほら、よく聞いてよ…ほらここっ!」


疑似音声ダミーボイス発動っ!)


彼の聴覚に魔法で全く別の言葉を差し替える。


「ん…む…にゃ、にゃ…こん…ぐらちゅ…れぇ…しょん」


ちなみに元の寝言は、「好き好き如月ちゃん、むちゅう」だ。何の夢を見ていたのか気になった。


(ま、今はそんな事より作戦その四まで行かなきゃ話にならない)


「ほら、悪魔召喚の言葉を唱えているわ」


あたしは適当にホラを吹いた。嘘は悪魔の常套手段だ。


「いや、寝言だろ?これ?しかも、コングラチュレーションなんて言うか普通?」


(な、何て頑固なの。…あ、フィオルと遊んでた時も、昔こんな言い合いしてたっけ。こんなとこだけ、似てるなんて)


あたしは作戦遂行の為に語気に力を入れ言い放った。


「偶然だとしてもあなたは召喚を行ったの。その結果、あたしがここにいる。これは紛れもない事実なの。受け入れなさいよ」


(とんでもない押し掛け悪魔だ)


やっぱり嫌がられてるよ。でも、押し切る。


「はいそうですよ。押し掛け悪魔で失礼します、ご主人様マスター


「んで、お前はどうすんの?こういうのって、大抵悪魔が召喚した人間の願いを叶えて、代償として魂を頂くって寸法じゃなかったっけ?」


(何だ。そんな事、心配してたんだ。そりゃ、人間からしてみれば悪魔の存在は恐怖の対象だからね)


「そんな古い人間の妄想を信じてたの?そんなの要らないわよ、大して美味しくないし。あたしが欲しいのは…」


あたしは彼の右肩に飛び降り耳元で囁いた。


「あなたの運気をいただきたいの。あなたの運気が全てなくなった時にあたしはあなたの魂を刈り取るの。まぁ、結果的には死ぬんだけど。それまで、あなたの為に使い魔として側にいるわ。それが契約よ」


と、全くのデタラメを話した。そもそも人間の運気なんて、流石のあたしでもどうしようもない。


(ま、とりあえず運気を見る事はできるから見てみようかな…え?)


ゼロに等しいほどない。いや、仮に普通の人間が百の運気を持っているとすると彼はゼロだ。見事にプラスの要因がない。今まで多くの人間と出会ったが、こんなに残念と言わざるを得ない人間は初めてだった。


「あら…あらあらあら、ないわ。運気が一つもないわ!」


彼はガッツポーズをとる。


(いや、貴方は勝っていませんよぉ)


「ま、いっか。どうせ魔界に帰ろうにも契約達成しなきゃ帰れないんだし。久しぶりの人間世界を楽しんじゃおっと」


魔界にはもう戻るつもりはない。あたしはフィオルにお礼を言えればそれでよかった。


「え…帰らないの?」


(そこは話せません)




そして、彼との奇妙な日常生活が始まるのであった。



嘘は悪魔の常套手段。


名言ですね。


あ、皆さんも心辺りありますか?


実は悪魔だったりとか(笑


今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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