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オープニング

お越しいただき、ありがとうございます。


本作は『悪魔召喚士あくまつかいの逆転人生』に登場するサキュバスという悪魔の視点から捉えた外伝作品です。


あの時、実は裏ではこんな事があったとかがお伝えできればいいなと思います。


相変わらず拙い文章と表現ですが、よろしければパソコン、スマホが汚れない程度にお菓子でもつまみながら気楽にご覧ください。

魔界。


それは大魔王ルシファー様の手により統治された悪魔達が住む世界。


けして人が足を踏み入れることの出来ぬ地下深くに存在している。


今、あたしが足を運んだ『魔王宮まおうきゅう』はルシファー様の居城である。


玉座に腰をかけたルシファー様はこの世のモノとは思えない見目麗しい美貌をお持ちだ。


「お呼びでしょうか。大魔王ルシファー様」


「うむ。サキュバスよ、今は私一人だ。気にせず、普段の話し方でよい」


ルシファー様は寛容な方だ。


第3984代目であり、人の魂から転成したあたしにも他の悪魔と同様、いや側近の四大魔王以上に好意的な接してくれている。


「およ?ベルセブブ様やアスタロト様もいないんですね。はぁ、あたしあの魔王様達苦手なんですよ」


ルシファー様は高笑いした。その声は誰しも想像する恐怖の大王魔王てはかけ離れた透き通るような美しい声だ。元々、ルシファー様は天使でいらっしゃったそうだから当たり前ではあるが。


「はっはっは。その話し方、人間の時のお前を思い出すな。その方がお前には似合っているぞ」


「そうですか?随分、昔の事だから忘れてました」


あたしがルシファー様と出会ったのは300年近く昔の事だ。永遠に近い時を生きてきたルシファー様にとってはつい最近の事のようだけど。


あの頃は、人間界では魔女狩りが行われていた。かくいうあたしの母も、魔女に仕立て上げられ、処刑されたのだ。


父はあたしと妹を抱えて逃げたけど、つまずいてあたしを放り出したまま走り去ってしまった。いや、恨んではいない。ああでもしなければ、妹までも追っ手に捕まって殺されてしまうとこだったから。


今でも妹は無事だったのか不安に思う時がある。だけど、ルシファー様にそれを聞くのはおこがましい気がして聞いたことはなかった。


あたしは昔の記憶を呼び起こしてみる。






「お、お父さんっ!」


(アリスを連れて逃げて!)


あたしは自分の事よりも、体の弱い妹のアリスを心配していた。


アリスは父に抱えられ、泣きながら必死に手を伸ばしている。


すぐにあたしは追っ手の兵士達に捕まった。


「お!お嬢ちゃん可愛いね」


酒臭い息を吐きながら、雇われ兵士はあたしの顎を掴み顔を引き寄せる。


「このまま殺すにはちと惜しい気もするが、少し遊んでも…」


側にいた正規兵らしい男が言う。


「そうなったらお前も魔女の娘と関係を持った罪で死罪だな」


「ちっ。面白くねぇ。別に手当てもらえるもんじゃないし良いだろ?くそ真面目な兵士さんよ」


雇われ兵士は自分より遥かに年下の若い正規兵を軽んじていた。


「無礼な奴め」


「なんだと!若僧のくせしやがって」


互いに殴り合いの喧嘩になった。周りの兵士達も二人を止めに入る。


(今しかない!)


あたしは隙をついて大人の足下をかいくぐり走った。


「あ、逃げたぞ。追えっ」


いち早く気付いた兵士の手が伸び、あたしの髪を引っ張った。


「痛いっ!」


「いてっ!」


同時に兵士の痛みを訴える声がして、髪を掴んでいた手が離れる。


「逃げろアリサ!」


(!?)


あたしが見上げると、木の枝に腰かけて、追ってくる兵士達に次々と石を投げつける少年の姿があった。幼馴染のフィオルだ。


「ここは任せて逃げるんだ」


「無茶しないで」


あたしは礼を言う暇もなく、父とアリスの後を追った。


しかし、いくら同じ世代の子達よりもかけっこが得意といえ、森の中は鬱蒼と木々が生い茂り、光を遮って思うように前に進めない。この森は別名迷いの森といい、地理に詳しくないものは大人でも抜け出せなくなる。


しばらく歩き続けると、やや開けた草むらに出た。


(!?)


草むらの中に倒れた巨木があり、その上で鎧を着込んだ人間が倒れているように見える。


(兵士かな…でも、鎧が凄く立派だし…)


恐る恐る近付いて見ると、女性のような美貌と男性のような逞しさを感じさせる不思議な人物が苦痛に呻いている。腕から流れ出した血が巨木の一部を濡らしていた。


「だ、大丈夫ですか!腕から血が!」


うっすらと片目を開けた人物はその場を飛び退いた。


「サタンの手下の生き残りか。人間の娘に化けるとは狡猾な奴だ」


彼…彼女?は声高に叫ぶ。


「ち、違う。あたし、普通の人間だよっ!」


あたしの必死の反論も虚しく、魔法の言葉を耳にする。


「大地の精霊よ。我に暫しの力を与え給え。ジ・アース!」


(あ…)


空白の時。何も起こらなかった。


「サタンの封印に魔力を使い過ぎたか…」


膝から崩れ落ちる鎧の人。あたしはカーディガンを脱ぎ適当な大きさに破ると、包帯の代わりに出血した腕にぐるぐる巻きつけた。慣れない事なのであまり上手くはないけど。


「な、何をする人間!?」


「あなたが誰かわからないけど、誰かに追われてるんでしょ。あたしも同じ立場だから、よく分かるよ」


信じられないといった表情であたしを見る。


その時、背後の森の中から兵士の声がする。


鎧の人は一転、表情を固く強張らせた。


「大丈夫。あなたはここにいて。あの人達が探してるのはあたしだから。…最後に人助け出来て良かった」


精一杯の笑みを浮かべ、あたしは兵士の来る方に走った。


(あの人も見つかったら酷いことされちゃう。先にあたしが見つからないと)


背後から鎧の人が何か言っていたが、聞き取る余裕はなかった。


あたしは兵士達に再び捕まった。


縄で縛られ、村の中央に設置された処刑台に連れて行かれる。群衆が煽る声に兵士達の荒々しい声。


十字架に張りつけにされ、足元に火が焚かれた。


素足に痛みを感じる。


(熱い…痛いよ…)


とめどもなく涙が溢れた。


(お母さん、何も悪いことしてないのに。なんで…)


涙でにじむ視界を通し、最後に目にしたのは、処刑台の下から複数の大人に掴みかかられてもがき続けているフィオルの姿だった。




(あたし…死んじゃったのかな)


気がついたあたしは真っ暗闇の中にいた。不思議な浮遊感にあたしは自分の足元を見た…はずだった。何もない。いや意識はあっても体がないのだ。


(魂…だけになったんだ)


「あぁ、気がついたか。アリサ…」


いつの間にか、目の前にあの時の鎧の人がいた。今は兜を外し、長く美しい髪をなびかせ、きらびやかなローブをまとっている。


「あ、あの時の人…人じゃないのかな。もうどうでもいいけど。あたし、どのくらい眠っていたのかな?」


眠っていたという表現はおかしいと思いつつ、あたしは聞いてみた。


「ふっ。では、これを見るといい」


手の平に水晶玉が浮かび上がった。


(手品かな?)


村にもよく旅の奇術師が芸を披露しに訪れていた。だが、それとは全く違うことに気付く事になる。


「これ!?何なの!?」


水晶には一人の青年が写し出された。彼はその場にいる民衆や貴族、王族に囲まれながら熱心に何かを語っている。歳は二十歳ぐらいだろうか。


「彼に見覚えがないかな?」


「え?二十歳ぐらいの知り合いの人…?」


覚えがない。何せ、村では二十歳前になると男子はみんな街に出稼ぎに行き、顔を合わせることが少ないからだ。


「でも…何か見た記憶が…あ!」


「そう。君の幼馴染、フィオル=エクストールくんだ」


面影があった。いつも何かに真剣に打ち込んいた時のひた向きなあいつのあの目。


「彼は今、戦っている。人が起こした罪を自らが終結させる為にね」


「戦っている?」


「そう、彼は己の命をかけ、人の作ったルール…裁判で血を流す事なく魔女狩りを終わらせようとしているんだ」


水晶玉には拍手喝采の民衆達が写し出された。王の命令により、落胆している一部の貴族達は、どこかに連れて行かれた。


彼は泣いていた。そして叫ぶ。声は聞こえないが確かに分かった。


「アリサ、やったよ」と。


魂のみとなったあたしは涙は流せない。心も空っぽだ。でも、フィオルのあの姿に揺さぶられた。


会いたい。


人の姿に戻ってフィオルに会いたい。


あたしの気持ちを察したのか、水晶を懐に戻し、ローブの人は口を開いた。


「君には私も命を助けてもらった恩がある。そこでだ。君が望むなら、私の部下に魂を失った者がいてね。その体に君を移してやる事ができるのだが」


「ほ、本当に?」


例え自分の体じゃなくてもフィオルなら気付いてくれるはず。


「ただし、部下として働いてもらう事になる」


(部下…って何なの?働くって?)


でも、今のあたしに選択肢はない。魂のままではどうにもならない。体が欲しい。


「わかった。あたし、あなたのいう通りにする」


ローブの人は声高々に笑い、あたしを指差した。


「私は大魔王ルシファー。魔界を支配する者だ。アリサ、お前には人間の名を捨て、新しき名サキュバスを与える。いずれ、時が立てばあのフィオルという人間の生まれ変わりに会える日が来るであろう。その日まで、お前の魂は私のものとなる」


「え!今会えないの!?」


話が違うという時間さえ与えられず、あたしの体は死して魂を失っている悪魔サキュバスへと乗り移る事になるのであった。





「それで、ルシファー様。昔話を語る為にあたしを呼んだわけではないですよね?」


大きく首肯うなずく。


「約束を果たす時が来た。輪廻転生により、現世人間界にフィオルの魂を有する者が現れた」


あたしの魂が震えるのが分かる。


(フィオル…フィオルに会える日が来た)


「お前も馴染みの深い日本という国の少年だ。ほら、見てみろ」


「はいっ…え?」


水晶玉に映る少年は、鼻くそをほじりながら美少女ゲームに熱中している。


「やったな、サキュバスよ」


「あ、あはは…ルシファー様、今までありがとうございました。では、行ってきまぁす」


ふらふらと力なく羽根をパタパタさせて飛び立つあたし。


背後からルシファー様の声が。


「幸せになれよ、アリサ」


なれたらいいんですけどね。



次回予告


期待と不安が入り交じる中、転生した幼馴染フィオルの魂を持つ少年の元へ向かうサキュバス(アリサ)。


しかし、ルシファーとの契約により、自分の正体や少年の事実は伝える事ができない。


彼女の未来に希望はあるのか。


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