第7話 織田信長、また来た武将ゲーマー後編
「……ふうむ。すると三河殿がリアルマンかのう」
「左様ですね。徳川殿は、リアルマンですが望むプレイできた戦は少ないですが」
信長と秀吉は、楽しそうに当時を振り借りながら語る。
「筑前殿、殿、俺もリアルマンですかね?」
「おぬしはそうよな。それと和マンチも発症しておろう」
確かに、とコウ太は頷く。今回のキャストも最大ダメージを追求する形で、攻撃がかすったら死ぬという設計だ。『ナイトメア』のダメージはチャート制で、21点以上ダメージが出れば相手は死ぬのだが、鬼武蔵のキャストは最大で40点近くダメージが出せるデータ構成である。
ただ、それだけではなく〈芸術:ハーモニカ演奏〉を1レベルで持っていて、過去を思い出して演奏するという感傷的なロールプレイもしていた。1レベルだからやはり失敗するのだが、「……ちっ、もうハーモニカも吹けやしねえ」と、戦士の哀愁を見せるかっこいいロールプレイをしつつ、いらないカードを捨てていい札を確保するクレバーさも光る。さすがはインテリジェンス殺戮モンスターである。
「私は、ルーニーなんですよ。相手が笑ってると楽しくなってくるんです」
秀吉の自己分析である。しかし、その笑っているうちに距離を詰めて味方に引き込むので、油断ならない。今日のセッションでも、女子高生がネカマの振りをしてプレイヤーがネカマっぽいロールプレイをするよくわからないキモさがあったが、コウ太は腹を抱えて笑ったのだ。
秀吉は、関白を辞して太閤となってからも瓜畑遊びという遊びを楽しんでいた。諸大名が庶民に扮して劇をするのだが、蒲生氏郷が路茶売り、家康があじか売り(あじかとは駕籠のようなもの、釣り人が魚を入れたりするあれ)、信長の弟の織田有楽斎が老僧、有馬則頼が宿屋の主人を演じるのだが、秀吉はそこで瓜売りをユーモラスに演じたという。
元々、針売りをしていたという話もある。これは伝説の域を出ないが、行商の経験もあるとは思われているので、瓜売りのロールプレイはハマったであろう。
「殿下は人を笑わせても、ときどき恐ろしいことをしでかすので油断なりません」
「おいおい、よしてくれ。もう戦国の世でもないんだからそんなことしないよ」
江雪斎にそう答える秀吉であるが、やっぱり油断ならないと思うコウ太である。
秀吉はルーニーであるが、人が笑う隙を伺っているのは間違いない。
その隙をついて、いつの間にやらセッションの主導権を自分が握るタイプだ。
江雪斎は、秀吉の御伽衆として仕えたのだからこの分析は間違いないだろう。
「そういう殿は、リアルロールプレイヤー寄りですな」
「かもしれんのう。武器はポールウェポンが好みであるが」
「ああ、尾張の三間槍ですもんね。柴田勝家とかも、リアルマンですか」
「権六は、どちらかというとリアルロールプレイヤー寄りよ」
「えっ、そうなんですか? “瓶割り柴田”なのに意外ですね」
柴田修理亮勝家《しばた しゅうりのすけ かついえ》といえば、織田家中でも猛将として名高い。権六というのは権六郎という彼の幼名だ。
瓶割り柴田、鬼柴田とその勇猛ぶりを讃えた異名もある。
後がないことを兵に示すために、水瓶を割ったから瓶割り柴田だ。
「柴田殿は、猛将を演じていたところもありましたからねえ。案外ロマンチストなんですよ、彼。お市様もその辺に惹かれたんでは?」
実際に刃を交えた秀吉も言う。今度、いっちーさんに聞いてみよう。
「じゃ、戦国一のマンチキンといったら?」
「わしにそれ聞くと、義昭公って答えるしかないぞ……」
困った顔で信長は言う。義昭公、つまりは第十五代足利将軍義昭である。
信長は彼を支えるために上洛して平定したのだが、その義昭は信長の統制から離れて謀略を練り、信長包囲網を形成することになった。
たしかに信長からすれば、困った行為である。
「将軍様は、殿のGMと相性悪かったんでしょうね。私からすると、そんなに困ったお方ではないですし」
「まあ、人に相性があるように、ゲーマーにも武将にも相性があるわけじゃな」
「じゃあ、戦国一のルーニーは秀吉さんですかね」
「いや、それは違うとおもうよ」
「そうさな、筑前殿より上がいるぜ」
秀吉と鬼武蔵も、その意見には否定的だ。信長も江雪斎も、戦国一のルーニーが誰なのか、どうやら一致を見たらしい。
「じゃ、誰なんですかね? 戦国一のルーニーって
「「「「古田織部」」」」
武将ゲーマー四人の声が揃った。
古田織部正重然は、織田家中の武将にして千利休の弟子、利休七哲のひとりに数えられた茶人武将である。
秀吉の茶頭も務め、彼が指導した美濃焼は織部好みという新たな作風を生んだ。
現在の日本家屋の様式である数寄屋造りも彼の影響で広まった。
利休の茶道が玄妙にして無駄のない洗練されたものであるのに対し、古田織部は気軽で楽しい茶である、とされる。“ひょうげもの”というひょうきんな作風を愛したのだから、なるほどルーニーなのかもしれない。
そしてまた、この四人は全員面識あるらしく、きっとそうなのだろう。
戦国武将にも、いろいろあるのだなと思ったコウ太であった。