表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLOOD STAIN CHILD ~OTOSHIDAMA~  作者: maria
6/7

ミリア、お手伝いをがんばる 2

 そして翌日、起き抜けからミリアはもうワクワクが止まらなかった。走って学校へ行くと、ミリアは机の中に入っていた折り紙を颯爽と取り出し、はさみと糊で小さな袋を創り上げた。その表には少し考えて、「りょうのおとしだま」と書いた。ただの「おとしだま」でもよかったが、せっかくリョウが初めてお年玉を手にするのだから、きちんと「りょうの」と書いておきたかった。誰の物でもない、リョウのものだとはっきりさせておきたかった。やがて登校してきた美桜もそれを見て、素晴らしい出来だと褒めてくれた。授業もそこそこに、学校が終わると、歩くのももどかしくミリアは美桜と一緒に、争うように駆け出していった。

 「シズおばあちゃん、待ってるかなあ!」

 「うん! 腰、治ってるといいんだけど!」

 そんなことを叫びながら二人はまずミリアの家に行き、ランドセルを玄関先に置くと、美桜の家に行きロビンを連れて、そのまま老婆の家に走った。

 インターホンも押さず、美桜は颯爽と庭を過ぎリビングの大きなガラス戸に顔を寄せる。

 「シズおばあちゃーん!」美桜が叫ぶと、中から杖をついた老婆が笑顔で出てきた。

 「おばあちゃん、立てるようになったんだ!」

 「そう。大分腰は良くなってきて、杖をつけばこうして歩けるようになってきて……。」

 「でもジョンの散歩はできないでしょ。今からロビンとジョンの散歩行ってくる。」美桜は元気いっぱいに言った。

 「ありがとうねえ。」老婆が奥に向かって、「ジョーン!」と呼ぶと、嬉し気にジョンが駆けて来た。昨日のことを覚えているのであろうか、尻尾を大きく振りながら真っ先にミリアに飛びかかって来る。

 「ジョーン!」ミリアは叫んでジョンを抱き締めた。

 老婆は二人に小さな袋を渡した。

 「はい、これお駄賃。」

 「昨日貰ったよ?」

 「そうだったかい? 忘れちゃったよ。でも走ったら喉が渇くから、これでジュースでも飲みなさい。」

 美桜とミリアは顔を見合わせる。

 「水道があるよ。」

 「じゃあ、お菓子でも買って食べなさい。子供はお腹が減るから。」

 老婆はにこにこと袋を二人の手に握らせる。

 「大丈夫。お母さんには言っておくから。さ、早く。」

 二人は気まずそうに肯くと、尻尾を振り続けているジョンに後押しされるように、散歩の準備を手渡して貰うと一目散に駆け出した。

 ロビンとジョンはまるで兄弟のように、足並みさえ揃えて二人を意気揚々と昨日の空地へと先導する。

 「また、貰っちゃったね。」ミリアが呟く。

 「うん。今日はお年玉袋に入ってるよ。」

 「シズおばあちゃん、準備してくれてたんだね。」

 「ジョンと遊ぶだけなのに……。」

 「おばあちゃんお散歩行けないから、お礼しなきゃって思ったのかなあ。」

 「そんなの、いいのにね。」

 「……ねえ、これも、リョウへのお年玉にしても、いいかなあ。」

 ミリアは恥ずかし気に口を窄める。「これ、ミリアがジョンのお散歩行くお礼だから、お年玉でもお小遣いでもないから、リョウにあげてもいいかな。」

 美桜はにっと笑って、

 「大丈夫! このお駄賃は、……ミリアちゃんが働いてもらったお金だから、お兄ちゃんにあげてもいいやつだよ。……ジュース買っても、おやつ買っても、お兄ちゃんにあげても、ミリアちゃんが好きにしていいお金だもん。」と言った。

 ミリアの顔がぱっと明るくなった。それと同時に、ジョンが綱をぐいぐいと引っ張りながら、目の前に広がる空き地に一刻も早く辿り着きたいと全身でアピールした。

 美桜は空き地に付くと散歩用バッグからソフトボールを取り出し、高い高い空に向かって力いっぱい放り投げた。太陽の輝きとボールが重なる。ロビンは後ろ足で立ち上がり、ボールめがけて駆け出した。そして次はジョン。二人は昨日よりももっと高く、もっと遠くへボールを次々に投げた。二匹の犬も、じゃれ合いながらそれに飛び付く。


 へとへとになるまで遊び尽くし、二人は昨日同様川面が夕焼けに染まる頃帰途に着いた。

 「私もママへのお年玉にしようかな。」美桜がぼそりと呟く。

 「え。」

 「ママは毎日ご飯作ってくれるし、それとお菓子も、洗濯も、アイロンも、全部やってくれるから。ありがとうって。」

 「……うん。」ミリアも全く同じ思いである。リョウだって、毎日料理も掃除も買い物も、それからギターも教えてくれるし、自分が哀しがっている時には話を聞いて抱き締めてくれるし、朝も寝坊していると起こしてくれる。ミリアはそのことを思い出している内に、泣きたくなった。リョウに一刻も早く会いたくなった。リョウに抱き締めて貰いたくなった。

 二人は申し合わせたように、早歩きになってジョンを帰し、次いで美桜の前で別れ、ミリアは帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ