ミリア、お手伝いをがんばる 2
そして翌日、起き抜けからミリアはもうワクワクが止まらなかった。走って学校へ行くと、ミリアは机の中に入っていた折り紙を颯爽と取り出し、はさみと糊で小さな袋を創り上げた。その表には少し考えて、「りょうのおとしだま」と書いた。ただの「おとしだま」でもよかったが、せっかくリョウが初めてお年玉を手にするのだから、きちんと「りょうの」と書いておきたかった。誰の物でもない、リョウのものだとはっきりさせておきたかった。やがて登校してきた美桜もそれを見て、素晴らしい出来だと褒めてくれた。授業もそこそこに、学校が終わると、歩くのももどかしくミリアは美桜と一緒に、争うように駆け出していった。
「シズおばあちゃん、待ってるかなあ!」
「うん! 腰、治ってるといいんだけど!」
そんなことを叫びながら二人はまずミリアの家に行き、ランドセルを玄関先に置くと、美桜の家に行きロビンを連れて、そのまま老婆の家に走った。
インターホンも押さず、美桜は颯爽と庭を過ぎリビングの大きなガラス戸に顔を寄せる。
「シズおばあちゃーん!」美桜が叫ぶと、中から杖をついた老婆が笑顔で出てきた。
「おばあちゃん、立てるようになったんだ!」
「そう。大分腰は良くなってきて、杖をつけばこうして歩けるようになってきて……。」
「でもジョンの散歩はできないでしょ。今からロビンとジョンの散歩行ってくる。」美桜は元気いっぱいに言った。
「ありがとうねえ。」老婆が奥に向かって、「ジョーン!」と呼ぶと、嬉し気にジョンが駆けて来た。昨日のことを覚えているのであろうか、尻尾を大きく振りながら真っ先にミリアに飛びかかって来る。
「ジョーン!」ミリアは叫んでジョンを抱き締めた。
老婆は二人に小さな袋を渡した。
「はい、これお駄賃。」
「昨日貰ったよ?」
「そうだったかい? 忘れちゃったよ。でも走ったら喉が渇くから、これでジュースでも飲みなさい。」
美桜とミリアは顔を見合わせる。
「水道があるよ。」
「じゃあ、お菓子でも買って食べなさい。子供はお腹が減るから。」
老婆はにこにこと袋を二人の手に握らせる。
「大丈夫。お母さんには言っておくから。さ、早く。」
二人は気まずそうに肯くと、尻尾を振り続けているジョンに後押しされるように、散歩の準備を手渡して貰うと一目散に駆け出した。
ロビンとジョンはまるで兄弟のように、足並みさえ揃えて二人を意気揚々と昨日の空地へと先導する。
「また、貰っちゃったね。」ミリアが呟く。
「うん。今日はお年玉袋に入ってるよ。」
「シズおばあちゃん、準備してくれてたんだね。」
「ジョンと遊ぶだけなのに……。」
「おばあちゃんお散歩行けないから、お礼しなきゃって思ったのかなあ。」
「そんなの、いいのにね。」
「……ねえ、これも、リョウへのお年玉にしても、いいかなあ。」
ミリアは恥ずかし気に口を窄める。「これ、ミリアがジョンのお散歩行くお礼だから、お年玉でもお小遣いでもないから、リョウにあげてもいいかな。」
美桜はにっと笑って、
「大丈夫! このお駄賃は、……ミリアちゃんが働いてもらったお金だから、お兄ちゃんにあげてもいいやつだよ。……ジュース買っても、おやつ買っても、お兄ちゃんにあげても、ミリアちゃんが好きにしていいお金だもん。」と言った。
ミリアの顔がぱっと明るくなった。それと同時に、ジョンが綱をぐいぐいと引っ張りながら、目の前に広がる空き地に一刻も早く辿り着きたいと全身でアピールした。
美桜は空き地に付くと散歩用バッグからソフトボールを取り出し、高い高い空に向かって力いっぱい放り投げた。太陽の輝きとボールが重なる。ロビンは後ろ足で立ち上がり、ボールめがけて駆け出した。そして次はジョン。二人は昨日よりももっと高く、もっと遠くへボールを次々に投げた。二匹の犬も、じゃれ合いながらそれに飛び付く。
へとへとになるまで遊び尽くし、二人は昨日同様川面が夕焼けに染まる頃帰途に着いた。
「私もママへのお年玉にしようかな。」美桜がぼそりと呟く。
「え。」
「ママは毎日ご飯作ってくれるし、それとお菓子も、洗濯も、アイロンも、全部やってくれるから。ありがとうって。」
「……うん。」ミリアも全く同じ思いである。リョウだって、毎日料理も掃除も買い物も、それからギターも教えてくれるし、自分が哀しがっている時には話を聞いて抱き締めてくれるし、朝も寝坊していると起こしてくれる。ミリアはそのことを思い出している内に、泣きたくなった。リョウに一刻も早く会いたくなった。リョウに抱き締めて貰いたくなった。
二人は申し合わせたように、早歩きになってジョンを帰し、次いで美桜の前で別れ、ミリアは帰宅した。