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BLOOD STAIN CHILD ~OTOSHIDAMA~  作者: maria
4/7

ミリア、お駄賃をもらう

 「……ミリアちゃん、やっぱ子どもが働くなんて無理だよ。お年玉は、ミリアちゃんが大きくなってからお兄ちゃんにあげたらいいよ。それまではママも言ってたみたいに、お手伝い頑張ってさ。それだってお兄ちゃん嬉しがるって。」

 ミリアは小さくなって俯く。そうなのかもしれない、とは思う。

 「でも、でも、そしたらリョウ、おじいちゃんになっちゃう。」

 「ならないよ。だって、お兄ちゃん今何歳なの?」

 「にじゅうごさい。」

 「25歳だったら、ミリアちゃんが大人、……はたちになるのに、あと13年でしょ。25たす13は、えっと、……38だからおじいさんじゃないよ。お父さんぐらいだよ。」

 ミリアは救いを求めるように美桜を見つめる。

 「ね、だから大丈夫だよ。大人になったらお年玉あげよ? 私もそうする。ママとパパに、大人になったらお年玉あげる。」

 「まあ、大変!」電話口で美桜の母親が悲痛な声を上げたので、二人は驚いて振り返った。

「ええ、ええ、そうですよねえ。お買い物なんかお手伝いできることがあれば……。ああ、そうなんですの、それよりも、……ああ、ジョンが。」

 「じょん?」ミリアは首を傾げた。

 「ジョンって、隣の隣のシズおばあちゃんちの犬だよ。ロビンとおんなじ種類なの。」

 「じょん、どうしたの?」

 「ううん、わかんない。でも大変だって今、ママ言った。」

 二人はお年玉の議論も忘れ、いつの間にか母親の口ぶりに耳を澄ませていた。

 「ええ、ええ。わかりました。じゃあ、今から美桜を行かせますから。今、美桜のお友達も来てますの。ミリアちゃんっていう、……同級生で、ええ、女の子。じゃあ、二人で? わかりました。じゃあ、今から行かせますわね。よろしくお願いします。」

 ちん、と上品な音を立てて電話は切られた。

 「ジョンどうしたの? シズおばあちゃんの所のワンちゃんでしょ?」美桜が立ち上がって尋ねる。

 「美桜、ミリアちゃん、今からシズおばあちゃんちに行って貰える?」

 「どうしたの?」

 「シズおばあちゃん、ぎっくり腰になってしまったらしいのよ。それでね、今夜はお嬢さんが横浜から来て下さるから、お夕飯とかは大丈夫だそうなのだけれど、ジョンのお散歩ができなくて困っているようなの。おじいさんも昨日から、海外のお孫さんの所に行っていらっしゃって、すぐには戻ってこられないらしくって。」

 「わかった!」美桜は飛び上がった。「ミリアちゃん、シズおばあちゃんはね、とっても優しいの。それにジョンも、ロビンと似て大きいけどとっても優しいの。あ、そうだ! じゃ、ロビンも連れて、ジョンと一緒に散歩連れてってもいい?」

 「ああ、そうして貰えるととても助かるわ。宜しくね。」

 美桜とミリアは深く肯き合って、暖炉の前でくつろいでいるロビンの首輪に散歩用の紐を繋ぐと、美桜は急いでトイレ用のセットを準備し、そのまま家を駆け出して行った。


 シズおばあちゃんの家はすぐ目の前であった。美桜は何のためらいもなく、チャイムを鳴らす。暫くすると、リビングの戸がガラリと開いた。そこには白髪を後ろに一つにまとめた老婆がしゃがんでいて、浮かない顔をしつつ、

 「美桜ちゃん、ありがとう。おばあちゃん、今日は立ってそっちに行けないから、こっちへ来て頂戴。」と手招きをした。

 ロビンを連れた美桜とミリアは、庭を横切りリビングの窓に近寄った。

 「シズおばあちゃん、どうしたの?」

 美桜は、まじまじと座ったままの老婆を見つめた。

 「朝起きようと思ったら、腰が抜けて抜けて。起きられなくなってしまって。」

 「ええ?」

 「それでちょうどさっき、お手伝いさんが来てくれたから、今日はお掃除やめにして貰って病院に連れてって貰ったのだけれど、ジョンの散歩がねえ、とてもとてもできなくって。ほら、だからあそこで拗ねてるのよ。」

 老婆の指した指先を見ると、ロビンと種類どころか、色も大きさも全く瓜二つに見えるジョンがどこか哀し気な目をして、リビングのソファの上で美桜たちを見つめながら尻尾を揺らしつつ寝転がっていた。

 「ロビンの散歩に行くから、一緒にジョンも連れてってあげる。」美桜は意気揚々と言った。「シズおばあちゃんは、おうちでゆっくり寝てたらいいよ。」

 「ありがとうねえ。本当に助かるわ。」老婆は美桜の手を取り、しきりに摩った。

 「こっちのお嬢ちゃんも、一緒に行ってくれるの?」

 「うん。私は美桜ちゃんの友達のミリアです。ロビンの散歩には一緒に行ったことあるから、大丈夫。お庭でもよく遊ぶし。」

 「ありがとうねえ。そうだ。」老婆は何やら思い立って、手で這うようにしてソファに置かれたショルダーバッグを取ると、中から財布を取り出し、小銭を摘まむとティッシュに包んで美桜とミリアにそれぞれ一つずつ差し出した。

 「これ、散歩のお駄賃。」

 「ええ!」二人の声は期せず重なった。

 「お外歩いたら喉乾くでしょう。そしたらこれでジュースでも買って呑みなさい。」

 美桜とミリアは顔を見合わせた。

 「でも……。」美桜がおずおずと手を引っ込めるのを、老婆は、

 「ほら、いいから。おばあちゃんからお母さんにはちゃあんと、言っておいてあげるから。」そう言って無理矢理ティッシュに包まれたお駄賃を握らせた。二人は肯き合い、お駄賃をポケットに忍ばせ、ジョンを連れて外に出た。

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