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BLOOD STAIN CHILD ~OTOSHIDAMA~  作者: maria
3/7

ミリア、お年玉の相談をする

 冬休み明けに学校に行くと、教室ではクリスマスプレゼントとお年玉の話題で持ち切りである。皆口々に何を貰った、幾ら貰ったとそればかり唾を飛ばす勢いで話している。

 ミリアは幾分憔悴したように一人、机に肘をつきながらぼうっとしていた。そこに心配そうに美桜がやって来て、

 「ミリアちゃん、どうしたの。元気ないね。」と小声で呟いた。

 「え、……ううん。そんなことないの。元気なの。」

 「でも、何か、ぼーっとしてる。」

 ミリアは深刻そうな顔つきになり、美桜に顔を寄せた。

 「美桜ちゃん、あのさ、……子どもがはたらく方法って、ないかな。」

 「え。」美桜は目を丸くしてそのまま黙した。ぶるぶる、と口元を震わせると美桜は慌ててミリアの腕を引っ張り、人気のない踊り階段へと連れて行った。

 美桜に請われ、ミリアは自分が数多くのお年玉を貰ったこと、色々なものが買えるのだととても嬉しく思ったこと、でもリョウはお年玉を貰ったことがないのだということを訥々と語った。

 「……だから、リョウにお年玉あげたくて……。でも、ミリアが貰ったお年玉あげるのはなんか違うし、リョウから貰ったお小遣いあげるのもやっぱり変だし、だから、はたらけないかなあって思って。」

 「……そんなの無理だよ、ミリアちゃん。」美桜は哀し気に言った。「だってさ、子どもは働いちゃいけないんだもん。そう、法律で決まってるんだよ?」

 ミリアは唇を尖らせたまま、静かに俯く。

 「……そうだよね。リョウにお年玉、挙げたかったんだけど、子供だもん、無理だよね。」

 その言いぶりがあまりにも寂し気だったので、美桜は思わず、

 「……でも、……ママに相談してみようか。何か知ってるかもしんないし。」と言った。

 「本当に?」ミリアの眉根がみるみる広がっていく。

 「でも、ママも知ってるかわかんないよ。だって法律でダメってことになってるんだから。」

 「うん。」ミリアは小さく肯いた。しかし、それに希望を託す以外になかった。


 放課になるとすぐにミリアは美桜と共に学校を出た。ミリアはランドセルを家に置き、そのまま美桜の家へと赴いた。

 「お帰りなさい。あら、ミリアちゃん。」庭で花壇の手入れをしていた美桜の母親はそう言ったものの、二人の子供の表情が固いことにすぐに異変を察知した。

 「どうしたの、二人とも。」

 「……ママに聞きたいことがあるの。」美桜は意を決して言った。

 母親は軍手を取り、手を洗って二人をいつものリビングの椅子に座らせると、手づくりのクッキーと紅茶を出した。いつもなら目をキラキラさせて嬉しがるミリアも、今日はなんだか陰鬱である。何か学校であったのかしら、美桜の母親は様々なケースを想定しながら二人の前に座った。

 「聞きたいことって、なあに?」

 「あのね、ママ。子どもがはたらける方法って知ってる?」

 「子どもが働ける方法?」母親は案の定長い睫毛で覆われた目を何度も瞬かせ、暫し黙した。もしかすると、ミリアの兄が何か経済的困難にでも陥ったのであろうか、バンドマンなのである。十分にあり得る話だ。だとしたら、まずは民生委員に相談をしてみるべきか、それとも区役所に行くべきか。しかし、それを子供のミリアにどう切り出して聞いていったらよいものか、美桜の母親は早鐘のようになる鼓動をどうにか押し留めるのに必死だった。

 「ど、ど、どうして、働かなきゃならないのかしら……?」

 「ミリアちゃんがね、ミリアちゃんのお兄ちゃん今までお年玉貰ったことないから、あげたいんだって。」

 母親はがくり、と俯き安堵の溜め息を吐いた。

 「あの、ミリアはリョウからもお客さんからもいっぱいお年玉貰って、嬉しかったの。だのに、リョウは貰ったことがないって言うの。」

 すっかり平常心を取り戻した母親は笑顔で、「……子供は働いちゃいけないのよ。お勉強が大事だから。それは、わかる?」と優しく問うた。

 「法律で決まってるって、美桜ちゃんから聞きました。」

 母親はこっくりと頷く。

 「だから……お年玉は、たとえばお金じゃなくって、お手伝いしてあげるとかじゃあダメかしら。お掃除とか、お皿洗いとか、そういうのじゃ。お兄さん、とても喜ぶと思うんだけれど。」

 ミリアは小さく首を横に振る。「こういう、小っちゃい袋に、お年玉って書いてあって、お金が入ってて、そういうのをあげたいの。」

 まあ、当然と言えば当然である。母親は首を捻り、

 「あ! そうだ。じゃあミリアちゃん、私のお料理教室で最後、皆さんで試食会をするの。その時に皆さんの前でギターを演奏してくれないかしら。そうしたら生徒さんたちみんな喜ぶし、演奏代も出せるわ。」

 ミリアは辛そうに眉を顰め、そして俯いた。

 「……ギターはいくらでも弾きます。でも、……ミリアのギターで美桜ちゃんのママからお金をもらうのは、……ちょっと厭。」

 「どうして? いいじゃない。ミリアちゃん、ギターせっかく上手なんだから。」美桜は不満げに言った。

 「ミリアはまだ、ギター下手だもん。リョウとは全然違うんだもん。だからそんなんでお金貰えないもん。それにそれに、美桜ちゃんのママはいっつもこうやっておやつくれるのに、ミリアにお金下さいなんて一回も言ったことない。なのにミリアがギター弾いたからお金下さいって、変。」

 たしかにそう言われればそんな気もしてくる。美桜は途方に暮れた。

 その時である。電話が鳴った。美桜の母親は困惑顔のまますっくと立ち上がり、電話に出た。

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