ミリア、お年玉をあげたい
帰宅をするとミリアは早速「宝物箱」と命名しているクッキー缶に、髪留めとガラス製の猫の置物、それから先日リョウから貰ったお年玉と一緒に、客から貰ったお年玉を丁寧に並べて入れた。
「大事に使えよ。無駄遣いしちゃあ、あいつらだって悲しむかんな。」とはいえ、かつてミリアは無駄遣いなんぞした例はないのである。
しかしミリアは真剣そのものに肯いた。
「まあ、つってもお前の好きに使えよ。お前が貰ったんだかんな。」
「リョウは貰わないの?」
リョウはぶっと噴き出す。「こんなずでけえ男に、誰がくれんだよ。」
ミリアは困惑しながら、「ううん、もっと小ちゃい時だわよう。」と弁明する。
「自慢じゃねえがなあ、俺は生まれてこの方一度もお年玉なんぞ縁したことはねえ。」
「えん?」
「ま、貰ったことはねえってことだ。」
ミリアは目を丸くした。しかし自分とて、リョウの家にやってきて初めて先だっての正月、リョウからお年玉なるものを与えられ、当初は意味が解らなかったものの、ちょうど観客からして貰った説明通りのこと(正月に大人が身近な子どもに与えるものだ)ということを知り、大層驚き、そして嬉しがったものだった。
自分はこれで髪留めでも、猫の置物でも、何でも買える。美桜と相談して一緒に駅前に買い物に行くのも、自由だ。何だってできるのだ。それはとても素晴らしいことのように思える。
それに、冬休みにはクリスマスだってあった。朝起きたら枕元に素晴らしいプレゼントが置いてあったのである。数日すればお年玉。リョウとの生活は何と幸せなのだと、そう強く感じざるを得なかった。でもリョウにはそんな経験はないのだ。貰った経験がないのに、お年玉を与えているのだ。それは何だか気の毒なことに思えた。
――リョウにお年玉をあげたい。ふと、ミリアの胸中にそんな願いが芽生えた。
あげられるものならいくらだってあげればいい。今、自分には封さえ開けていないお年玉が現在14個もあるのだ。これをリョウと半分こしたっていい。7個だって十分すぎる程だ。でもそれは何だか違う気がする。これはお客さんがあくまでも自分にくれたものである。そのまま流用しては、結局はお客さんにもリョウにもどちらにも悪い気がする。
ミリアは気難し気に腕組みをして考え込んだ。
でも自分は子どもだ。働いてお金を貰うことはできない。公園の自動販売機の前で十円を拾ったことがあったけれど、あれは美桜ちゃんが交番に届けなくてはならないのだと言ったので、一緒にお巡りさんの所へ届け、大層褒められた。だから、拾ったお金とて自分のものにしてはならないのだ。ならば余計に、どうすればよいのだろう。
ミリアはますます眉根を寄せて考え込んだ。
リョウにお年玉をあげるにはどうしたらいいのだろう。答えは出なかった。