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BLOOD STAIN CHILD ~OTOSHIDAMA~  作者: maria
1/7

ミリア、お年玉をもらう

 今年初のライブが終了した。リョウたちは心地よい疲労感に浸りながら客席に降り、物販ブースに並んでいる観客たちへの挨拶と雑談に興じていた。

 少々遅れてやって来たミリアの周りに、ずらりと輪が出来た。

 「ミリアちゃん、お疲れ様。」

 「どうもありがと。」ミリアは丁寧に深々と頭を下げる。リョウから、金を払って時間を割いてわざわざ来てくれる客に、決して横暴な態度は取ってはいけないと厳命されている。

 「今日も滅茶苦茶かっこよかったねえ。」

「いい年のスタートを切れたよ。」

「リョウさんのギターにはやっぱミリアちゃんのギターだよなあ。」

観客たちが口々にミリアのギタープレイを褒め称えると、ミリアは堪えようのない笑みを湛えた。

「でも、最初と比べるとミリアちゃん、何か大人びて見えるようになってきた。」

「え、本当?」

「ああ、そうだな。何というか子どもから少女っていうのかな。ソロ弾いてる時の表情とか、とても小学生には見えないって時あるよ。」

「ええ!」ミリアは頬を抑えて飛び上がる。

「もしかして、……好きな男の子でもできたんじゃないの?」

男たちはどっと笑った。

ミリアは恥ずかし気に顔を覆って、俯く。

「え、マジで。」

「どんな子?」

「小学生じゃあ、かけっこ速い子とか? それとも、頭いい子? 面白い子? 優等生?」男たちはからかう。

ミリアは顔を覆ったまま、再び首を横に振った。

「違ぇの。……じゃあ、どんな子?」

「えええ?」

ミリアは指と指の間から男たちを見据え、恥ずかし気に笑った。

「教えてよー。」

「えー?」身を捩って再び顔を覆う。

「内緒にするからさ。」

「うん、するする。」

ミリアはその言葉に勇気を得て、「本当? じゃあ、本当に内緒ね。あのねえ。」と、手招きをした。輪はぐっと小さくなる。

揃った頭を順繰りに見詰めながら、ミリアは囁くように言った。「あのねえ、ミリアの好きな人は、……ギターが上手なの。」

男たちは肯く。たしかに。ミリアにとってそれは大きな魅力になるに相違ない。

「そんでねえ、お歌も上手で、髪の毛が赤くって、」

男たちの顔は固まった。

「背が高くって、優しくって、かっこいいの!」きゃあ、と言いながらミリアは飛び跳ねる。

男たちの脳裏にははっきりと、一人の男の像が思い浮かんだ。その男は、今、物販のブースでまた他の観客たちと談話に興じているのである。

「そ、そ、そうなんだ。」

「内緒だかんね、内緒!」

「わ、わかってるよ。なあ。」

「あ、そうだ。」と言って男の一人が、ジーンズの腰ポケットから小さな袋を取り出した。

「ミリアちゃん、はい、これ。お年玉。」

「へ。」ミリアは恐る恐る手を伸ばす。扇の書かれた和風の小袋には「おとしだま」と書かれていた。

「……お年玉だ。」

驚きの声に、笑い声が広がっていく。

「俺も。はい、お年玉。」

「はい、どうぞ。」

「はい。」

ミリアは目を丸くしながら一つ一つ、お年玉を受け取った。十人以上もの客から、ミリアは思いがけも無くお年玉を貰ったのである。

「わあ、ありがとう。でも、何で? 何で?」ミリアは驚きとも不思議とも取れぬ風に言った。

「いやあ、年の初めは子どもにお年玉上げるものだからね。」

「子ども……。」たしかに、自分は小学校に通う子どもである。たとえ恋をしていたとしても、ソロの最中大人びた表情であったとしても。

「そうそう。これでギターの弦でも買ってよ。」

「ううん。ギターの弦は、リョウがけーひで落とすの。」ミリアは真面目に言った。

どっと笑い声が響いた。

「そうか、さすがリョウさんだな。じゃ、ピック代にでもして。」

「ピックもけーひなの。」

再び笑い声が響いた。遠くで何事かと不審げにリョウがミリアを見遣った。

「じゃあ、……そうだなあ。何かミリアちゃんの好きなもの買ってよ。」

「……好きなもの?」

「そうそう。ミリアちゃん、普段お小遣い何に使ってんの?」

「ちょきんばこにいれる。三毛猫のやつ。」

「貯金箱に入れて、それから何に使うの?」

ミリアは暫し考えた。「……髪どめとか。」

「ほお、髪どめかあ。」男たちは微笑ましく溜め息を吐いた。

「じゃあ、髪どめいっぱい買えるね。」

「うん。それから、ハンカチとか、猫の人形とかも買う。どうもありがと。」

そこに遂にリョウがやって来た。真っ先にミリアが大量に手にしているお年玉袋を目に、「お前、何貰ってんだよ!」と怒鳴った。

「お年玉。」

「何でチケット代以外に金せしめてんだよ!」

自分がせしめた訳ではない。ミリアは困惑して眉をへの字にした。

「ち、違うんですよ、俺らで勝手にミリアちゃんにお年玉あげようって話して、持ってきただけすから。そんな、ミリアちゃんがせびるなんてする訳ないじゃないすか。」

リョウはミリアを見て、それから観客を順繰りに見回した。

「いいじゃねえすか、年に一度ぐれえお年玉くれても。普段そんな機会ないんだし。」

「そうそう。何か好きなモンでも買って貰って。また元気にギター弾いてくれりゃあ、それでウィン・ウィンっすよ。」

リョウは腕組みする。その様は何となく納得の方向へと傾いているように見えた。

「ミリアちゃんギターの弦もピックも経費だから、お年玉はそういうのには使わないって言ってましたよ。」

「お前んなことまで言ったのか!」

「だって、……本当だもん。」

「だから髪どめ買うんだよね。」

ミリアはこっくりと頷く。

「ミリアの好きな水色のリボンのとか。美桜ちゃんのセーターに付いてるみたいな、ポンポンのとか……。」

リョウは仕方ないとばかりに深々と溜め息を吐いて、「……悪いな。わざわざこんなモン用意させちまって。」と呟いた。

「だから俺らが勝手に面白がってやってる所だから、いいんですって。差し入れと一緒ですよ。まあ、リョウさん差し入れもいらねえって言うけど……。」

リョウはミリアを見下ろし、

「ちゃんと礼を言えよ。」と言った。

「言った。」

「ちゃんと言ったか。」

「ちゃんと言った。」

「良かったな。」

「うん。」

男たちは安堵の笑みを漏らした。

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