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需要のない魔法使いと剣士

初投稿です、不束者ですがよろしくお願いしますゥゥゥ。



 魔法使いには需要がない、口々に皆はそう言った。


「うわ、またあの人あんな所でパーティの募集なんて掛けてるよ」

「誰も魔法使いの募集するパーティ何ていきたかないってのによ」

「それよりこれ見てくれよ新しくでた魔道具、瀕死になったモンスターを固定して動けなくしておく事ができるんだ」

「しかも解除した後の行動が少しの間操れるってんだろ?」

「はは!魔法使いよりそっちの方がよっぽど有能だな」


 このギルドの大部屋は中々広く設計されているから後ろでコソコソ喋られると何を言ってるかは基本聞き取れない、だがその内容はもう大体察せる様になった。回りの視線は冷ややかだし、店員は明らかに俺を邪険にしている。

 これが始まればそろそろここももう()()()だ。

 今回はうまくいくと思ってはいたんだがやはり現実は厳しいらしい。これでもう町を渡り俺を拾ってくれるパーティを応募するのも13回目となった。

 まあこんな時代に俺みたいな魔法使い何て言う生きる化石を雇ってくれる所は早々見つからないのは分かってはいたんだが、流石に挫けそうになっているよ。この前何て少し長く居座っただけで誰だか知らない奴に酒瓶を投げつけられた。


「君、パーティを探してるんだって?」

「…ああ、」

「なら俺の所にきなよ、丁度今からダンジョンにいくつもりだったんだ」


 コップに入ったオレンジジュースをちびちびと飲んでいた俺の隣にそっと腰を下ろす茶髪の美男子、腰にぶら下がった高級そうな鞘とそれに収まった攻撃力の高い剣を見れば彼が剣士だと考えるのが妥当だろう。

 身体の節々につけている防具は中々手に入らない素材、ドラゴンの皮あたりを使っている様だ。

 いかにもリーダーって面しているし、彼方側から態とらしく名前を呼びかけながら駆けてくる数人の女性はきっとこの男目掛けて走ってきているのだろう。


「セーヤ!まってよーっ!」

「セーヤもーすぐどっか行っちゃうんだからっ!」

「はは、ごめんごめん紹介するよ、此方魔法使いの…えっと何だっけ?」

「…ミトだ、」

「そうそう、ミトさんだったね、よろしく」


 美少女に囲まれる美男子か、まだ返事もしていないのに仲間に入ると仮定されて話が進んでいる所も含めてこれ以上なくいけ好かないが贅沢を言っている場合でもあるまい。

 俺はその場に立ちあがるとそっとそのセーヤさんとやらに差し出された右手を握って軽く上下に揺さぶってやった。







「セーヤ怖い…」

「せーやぁ…」

「大丈夫だよ、俺の横にいて?」


 今俺はその洞窟とやらの中を見渡しながら歩き続けている。

 目の前には1人の男とその左右にひっしりと組みついている4人程の妙に露出の高い恰好をしている女性の取り巻き。男とは違いそっちの方々は随分とレベルが低いみたいだ。

 確かクエスト内容には吸血蝙蝠とスケルトンが湧いてくるという記載があったのだが、今の所出てきたのはスケルトンから抜け落ちた昇天しかけのゴースト位の物だった。尤、それでさえあの剣士の剣捌きでバッサバッサとなぎ倒れていき俺はそれを眺めるのみだがな。俺はこの中に入ってから剣が振るわれる度々で響く黄色い声に耳を塞ぐ事しかしてない。


「…」

「…えっ」


 と思ったらいつの間にか白髪の女の子が俺の後ろについてきていた。そういえばギルドの時に男の取り巻きの後ろの方で見かけた気がする。

 先程から随分と小柄で無口な物だから気づかなかったが、俺の魔力探知に反応しないという事は自分の魔力を完全に消せているという事だ。もしかして気配消しの魔道具を持っているのか?

 顔立ちは素晴らしいのだが何というか怖い雰囲気を放っている。クール系の美少女、静謐な立ち姿というよりはそれこそゴーストでも見ている気分だ。それにここまで接近していて気づかないのはおかしな話だ。足音まで完全に消せているという事は役職はアサシンあたりと言った所であろうか。


「…貴方、何でギルドであんなに嫌われてるの?」

「あ?お前知らないのか?魔法使いは時代に取り残された存在だからさ」

「時代遅れ?」


 前の集団は時折出てくるゴーストを薙ぎ払いながら前へ前へと進んでいき、男は取り巻きの歓声で俺達の会話している内容が聞こえていない様だ。

 基本的には聞かれたくない内容なのだがあの集団には染まらず俺の方についてきてくれたのは正直言って結構嬉しかった、この小娘に少しだけ昔話をしてやろうじゃないか。


「…昔魔法使いの役目はバフを掛ける事や傷ついた仲間の回復、あとは稀にいる魔法系が弱点のモンスターへの攻撃とかだった。」

「…それで?」

「だがいつからか魔法技術が発達しお前が持っているみたいなとんでもない魔道具がいっぱい出てきた。魔力探知機、振りかざすだけで氷や炎が噴き出る杖、撫でるだけで傷の癒える手袋、その他諸々の魔法使いの役目はそいつらに成り変わられちまったって訳だ」


 白髪の女の子は無口のまま俺の話を聞いていた。…いやただぼーっとしていただけかもしれない、相槌位は打ってほしい物だが、そんな気の利いた事のできる子ではないのだろう。

 俺は飽きもせずに情弱なゴーストを斬り続け、喜び合う集団を眺めながら話を続けた。


「それからは簡単だ。魔法使いってのはそもそもこじれた性格の奴が多い、無駄口叩かず動いてくれる効率のいい魔道具はすぐに各国に散らばり発展していった。」

「…!」

「こうしてお払い箱となった魔法使いは次々に姿を消していき、今に至るって訳だ」


 まるで仮面を被っている様に無表情だった彼女の顔はどこで反応したか俺の言葉に少しだけ驚いた様に目を大きく開いた。

 数十分ずっと横に並んで歩いていて初めて視線が合ったがやはり可愛い、だが一体何にそんなに驚いたのだろう。

 彼女は何か言いたげにゆっくりとその口を動かした。だがその言葉が唇の隙間から吐き出される手前であの美少年の声が洞窟の中を響き渡ったのだった。


「君達ッ!ここからは濃い魔力を感じる、気を引き締めるんだよッ!」

「セ、セーヤ、もっと近くに…!」

「気を付けてねセーヤ…」


 そう言ってあのいけ好かない剣士は取り巻きを引きつれ更に奥へと進んでいった。

 確かに奴の言う通り奥からは濃厚な魔力を感じる。しかもその魔力というのは中々純度の高いモンスターの物だ。この手の魔力を放つ奴は大体起こっているか恨んでいるのが多い、

 うんともすんとも言わない白髪の女の子と共に彼の後ろを付いて行けば、そこには岩に囲まれた開けた空間が広がっていた。風を感じる事が出来るため外と繋がっている穴があるはずだ。

 剣士はポケットから出した魔道具で照明弾を辺りに打ち込んでいく。光源がなく真っ暗だった洞窟の中が次第に照らされていく。


「おおおおおぉおおお…」

「ひッ…」


 そこにいたのは巨大なゴーストの集合体だった。数十体程度の同じ恨みを持った怨念が一処に集まるとああなる。大きな骸骨に透明の羽衣を被った様な姿のまま嘆き悲しむ声を上げ続ける可哀想な連中だ。

 ゴーストは思い切りあげた手を一気に振りかざして勢いよく振り下ろした。その動きはどことなく機械的でまるで誰かに操られているみたいだった。仕方なく体に魔力を溜めて身構えるがしかし、ここで予想外の事が起きる。

 いきなり目の前に現れたイケメン剣士の剣によって俺に届くはずだった骸骨の指先はしっかりと防がれたのだ。


「ふんッ!大丈夫かいッ!?」

「ああ」

「流石セーヤッ!」

「せいやぁ!」


 バリアを張って隣にいた白髪の女の子を庇う。

 岩に脚を掛け勢いよく飛び上がった剣士はゴーストの額を剣で切り裂いた。斬られたゴーストは自らの髑髏を両手で抑え、何ともいえない情けない声を挙げながら後ろにゆっくりと倒れていった。

 晴れて地面に降り立ったヒーローはそっと鞘に剣をしまうと取り巻きの方へ駆け出しにっこりと骨の奥まで見え透く様な笑みを浮かべて女の子の頭を撫で始めた。


「ふぅ、もう皆大丈夫だよ」

「セーヤ今日も恰好よかったです、」

「セーヤ凄いよっ!」

「…おいあんた」


 しかしながらゴーストというのは執念でこの世に存在している物である。つまり恨みつらみが深い程強大な物となっていく訳だ。




「おお、お、おおおおおおおおッ…!!」




「…えッ…」

「せ、せーや…?」

「セーヤッ!どうしたの!?早くしないとやられちゃうよッ!」


 ゴーストは倒れ、消滅すると思いきや更に更に大きさを増して尚立ち上がった。どうやら霊魂が募ってきているらしい、その霊魂の出どころは先程まで俺達が通っていた通路。つまりはあの剣士が切り倒した情弱なゴーストがまた復活して集まり集合体を強化したという訳だ。


「おおおおうぅううう…」

「うわッ!?」


 イケメン剣士は今まで見せなかった様な血の気の引いた顔をするとゆっくりと通路に向かって後ずさりした。

 しかし通路への入り口となる場所にゴーストの巨大な手が振り下ろされて破壊され、崩れた岩で塞がれてしまった。取り巻きは頼りになる男の顔が段々と後戻りができなきなってしまい情けなくなっていくのを見て危機感を覚え始めたらしい、ゆさゆさと男の身体を揺さぶっては男以上に恐怖に塗れた顔を晒している。


「…無理だよソイツには、腰をよく見てみな」

「な、何を根拠にそんな事を…ッ!!」

「こ、腰の…?ってこれは…!」


 俺が近づいてベルトについていた魔道具を引きはがす。

 予想通りだ。()()()()()の魔道具がしっかりと透明になる様に細工が施されて固定されていた。レベル上げ、何て言うが実際の所は自分のレベルが他人の目を通す時に水増しされて見える様になる、という最高にダサイアイテムだ。どうしてもモテたい男が酒場とかで虚勢を張るために着ける代物を腰にひっさげ取り巻きにいい所でも見せたかったのか?

 恨みを持つ存在を優先して攻撃するゴーストが俺を正確に狙ったのも気がかりだ。まだまだこの男を叩けば埃が出そうだが、そのためには死んで貰う訳にはいかないな、


「お嬢ちゃんがた、ちょっと引っ込んでな」

「ま、魔法使い何かに何が出来るってのよ!」

「分かった分かった…」


 体に魔力が溜まっていく。

 奇声を発しながら腕を振り下ろすゴーストの爪先に蹴りを放った。大きい身体はそのまま後ろへと退き、骸骨だから表情は分からないが指先を弾かれ狼狽えている様にも見える。衝撃波で辺りの岩や地面が小刻みに震え、足先から少しずつ体に青色の魔力を纏わせた。

 いきなりの事で完全に力を入れられなかったが今のでしっかりと魔力が溜まり切ったよ。もう次は狼狽える、何てだけでは済まない。


「魔法使いって蹴ったりするの…?」

「し、知らない、肉体強化系の呪文か…?」


 先程の攻撃で彼方も危機感を覚えたのあろう、あくまでも魔法使いを職業にしている俺には洞窟全体の死霊が魔力となって骸骨に集まっていくのが分かった。

 きっとアイツなりの一番の攻撃を以てして俺を殺そうとしてくるだろう、こんな時代遅れの人間に全力を尽くしてくれるモンスターよ、俺は感激しているぞ。

 今まで師匠以外は誰も俺の実力を認めてはくれなかった。自分なりに頑張ったつもりが、それを受け入れてくる人間はいなかった。

 だから感謝の意を込めてお前を精一杯殴ろう。力を込めて叩き潰そうじゃないか、


「じゃあな、」


 こんな時叫ぶ必殺技何てのはないが、俺の拳はそのまま振り上げられた骸骨の拳と一緒にその向こうにあった奴の髑髏を粉々に砕いた。衝撃はそれに留まらず後ろにあった岩壁を突き破り、そこから漏れた日光がキラキラと洞窟の中を照らしていた。







「はい…昨晩雇った剣士達と一緒に洞窟に入り蝙蝠とスケルトンを倒しました…そこから発生したゴーストを集合体にさせて袋叩きにして、瀕死になった所を最近発売された魔道具で固めました…ギルドで嫌われていた貴方を襲わせてそこを斬り倒せばかっこいい所を見せられると思いました…瀕死にさせておいたから簡単に倒せると踏んだのですがまさか復活するとは思っていなくって…」


 あの後俺は出口を塞いでいた岩を吹き飛ばしてそのまま洞窟を出た。今現在は洞窟の外で先程までイケメン剣士だった人間とついでに取り巻きの女性陣を正座させて懺悔して貰っている。

 彼の脳内は現在羞恥が五分、絶望が五分、と言った所だろう。目に涙を溜めながら体を震わすその姿は初め合った時のあの自信満々な表情とは間反対だった。どうした物か、このまま小銭でもせびるかそれとも俺の名前をギルドに広めて貰うか…まあ何はともあれ全員無事だったんだしそこまで責めたててやる事もないか、

 俺はゆっくりと溜息を吐くとその場にそっと膝を曲げて顔を覗き込む。


「せ、セーヤを責めないであげてっ!悪気があった訳じゃないの!」

「そうよッ!根は悪くない子なんだから!」

「き、君達…こんな事をした俺を庇ってくれるのかい…?」

「何言ってるのよ、セーヤは昔からの幼馴染じゃない…」

「わ、私だってセーヤの妹よ…?」

「私だって姉よ!」

「私は母です」


 最後なんかドサクサに紛れてとんでもない発言されたんだけど黙っておこう。

 …いや言いたい事はいっぱいあるのだが絶対に言っとかなくちゃいけない事があるぞ。可愛い取り巻きに囲まれてはいるがコイツはさっきとんでもない蛮行に及んだんだからな。


「…お前なあ、気持ちは分からなくはないが俺の隣にはあの白髪の女の子もいたんだぞ?…ってそういえばあの子どこ行っちゃたんだろ」

「…?」

「おいおいちょっと影が薄いからってそれは酷いんじゃないか?あの小柄な白髪のッ!」

「そ、それってギルドにいる時に貴方の隣に座ってた子ですか…?」

「…は?」


 その瞬間、俺の背中にぞくり、と悪寒が走るのを感じた。

 色々と頭の中で考えが過るが俺は敢えてその思考を全て地面に投げ捨てて何も考えない事にした。耳元で何か囁く様な声が聞こえたが聞こえない。聞こえていないはずだ。よし、もう何もありませんでした。ちゃんちゃん、

 

「なかった事にしないで…」

「きゅぺ」

「?」


 思わず変な声挙げちゃったじゃないっすか。

 後ろを振り返るとそこにはあの白髪のロリっ子が立っていた。いやあよかった、いるじゃないですか。完全に幽霊エンドかと思ったよ。

 溢れ出した汗を服で拭い晴れてもう一度説教でもしてやろうかと前を向き直せば、そこには取り巻きを含めた数人が俺の事不思議な物を見る様な目で見つめていた。

 …なるほどね、分かりましたよ。そういう事ですか、


「幽霊エンド?」

「うん、幽霊エンド」



「きゃああああああああああああああ!!!!」

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