ゾンビ大集合!
朝ーー。
全員で朝ご飯を食べ、また1日が始まった。
みんなは、今までどう過ごしていたんだろう。泰明に聞いてみる。
「ん〜。食べ物集めかなぁ。食料が無くなると困るからね」
「そんなに簡単に見つかるのか?」
「いや、家の中を片っ端から見て回るよ」
「え、それって不法侵入…」
「え、そんなことないよー。だって、誰も人いなかったし、ゾンビなんていたら法律も何もないでしょ?そう思わない?」
「・・・そっか。それもそうだな」
生きるため、だから。もう、ここは弱肉強食の世界だ。強いものが生き残る。俺たちも、なんとかして生き残るんだ。
どこを目指せばいいのか、どこに向かえばいいのかなんて、わからないけど。それでも、俺たちは一生懸命生きるんだ。
と、2階から誰かの走る音が聞こえてきた。玲だ。
「おい、玲。どうした?」
声をかけても、俺を無視して行ってしまう。泰明も不思議そうな顔をしている。なんだ?と思ったとき、追いかけるように、美月が走ってきた。
「お願い!玲ちゃんを止めて!!」
そう叫びながら、階段を下りてくる。が、途中で階段を踏み外し、美月は転がりながら落ちてしまった。
「美月!」
俺は美月の所へ駆け寄った。美月を助け起こし、足などを挫いてないか確認しようとした。泰明もやって来たが、あたふたしている。美月は俺の服を掴み、「玲ちゃんを止めて!」とまた言った。
「どういうことだよ」
「玲ちゃんが!玲ちゃんが・・・!」
「隼人くん!」
泰明が俺の名を呼んだ。その声には、ただ事ではない感じがあった。俺は振り向いた。
扉が開いている。いったい誰が?と思ったが、すぐにわかった。
「玲!」
俺は美月をその場に残し、追いかけた。玲は、もう門の所まで来て、その小さな手で、門を開けようとしている。
何をする気なんだっ!
門の向こうには、1体の女のゾンビがいた。右腕が、無残にも千切られている。ヨロヨロと歩き、走ってきた玲を見た。
「玲!それ以上近づくな!」
俺は叫んだが、玲には聞こえていないようだった。
頼む!開かないでくれ!!
そんな願いも虚しく、門はゆっくりと開いていく。
「駄目だ!玲!」
「ママ!!」
一瞬だった。本当に一瞬。頭の中で、これと同じ状況、風景が映し出された。頭の中で、あっと思う間も無く、ゾンビは、玲に噛みついた。
そこで、無理やり現実に引き戻された。はっとして、玲を見る。玲は、女のゾンビに向かって、駆け寄った。手を広げ、抱きつこうとしている。さっき、脳内で再生された光景と同じように、ゾンビはーー。
玲に噛みついた。
「玲!」
玲は、何があったのかわからないというように、きょとんとしていたが、肩から来る痛みに顔を歪ませた。
「あぁぁぁん!びぇぇぇあああん!うえぇぇぇん!」
手足をばたつかせ、泣き声を上げる。
「やめろぉぉぉ!」
俺はゾンビを殴った。女のゾンビは、1、2歩よろめいた。俺は続けて、蹴りをかます。何度も、何度も。そのうち、ゾンビは動かなくなった。
「玲!」
俺は玲の方へ近づいた。玲は、うっすらと目を開け、俺を見た。首から肩にかけて、大量の血が流れ出ている。
「玲!しっかりしろ!」
俺は玲を抱えようとした。そのとき、俺の肩を誰かが触った。俺はびっくりして、肩を震わせた。
ゾンビ!?と思って振り向くと、そこには泰明が立っていた。泰明は悲しそうな顔をして、首を左右に振った。もう無理だ、というサインだった。
「ふざけんなよ!まだ生きてるんだ!置いていけるわけないだろ!」
「もう噛まれてる!その子も感染したんだよ!助かるわけない!」
「でも!」
「僕だって、最愛の彼女を見捨てた!」
・・・え?
「ヴェァァァグゥゥ」
「ヴヴヴヴヴヴ」
「グェェヴヴ」
気がつくと、ゾンビたちがたくさん集まっていた。数え切れないほどだ。玲の叫びで、集まってきたようだ。
「さあ、早く!玲ちゃんはもう助からない!」
泰明は、俺の腕を強引に引っ張り、走った。俺も、腕を掴まれながら走った。泰明は門を閉め、家の中へ駆け込んだ。俺もその後に続く。
俺は室内へ投げ出され、泰明は扉の鍵を閉めた。
荒い息遣いが、部屋中に反響した。
今までの一部始終を見ていた美月が、崩れ落ちた。俯いて、泣いている。
「美月・・・」
俺はそれを見て、また、すべてが夢であったなら・・・と思うのであった。
「美月、ごめん。ごめん。ごめん・・・」
俺は謝った。もう、誰に謝っているのかさえわからなくなるくらい。何度も、同じ言葉を繰り返した。俺は、謝るしかなかった。謝ることしか、出来なかった。
「あーあーあー。やってくれたな、この野郎」
ふと、俺の謝罪の声の中に、不機嫌そうな声が混じった。階段の上に、龍一がいた。
「あのガキ、ふざけた真似しやがって。俺が死んだら、お前らを恨んでやる」
龍一は、俺と美月を交互に睨みつけた。
「大変!門の前に、ゾンビがたくさん!」
龍一の後ろから、莉子が怯えた顔で言った。
「あいつら、中に入ってくるぞ。あんなガキの肉なんか、腹の足しにもなんねぇだろうな」
俺は、窓から外の様子を伺う。群がるゾンビたちが、門から手を出している。そのたびに、門は音を立てて歪んでいく。その奥で、数人のゾンビが、地面に膝をついて何かをしていた。ちらっと見える小さい体。ゾンビたちは、夢中でその小さい体から、弾力のある柔らかい肉を引き千切っていた。ゾンビが肉を千切ると、そこから激しい鮮血が噴き出す。
俺は、それが玲の体だと思うと、見ていられなかった。
「ドウスルンデスカ?」
いつの間にか、ジェイも来ている。
「逃げるしかないだろうね」
泰明が言う。
「でも、何処にだよ?他に行く当てなんてねぇぞ」
「それは、また龍一くんが窓を蹴破るとかして」
「ゾンビ引き連れて行くってのかよ?」
「走ればなんとかなるよ」
「走ればって、お前。俺は・・・」
そこまで言って、龍一は口をつぐんでしまった。
「ココニイテモ、ゾンビニタベラレルダケデスヨ?」
「んなことわかってる!」
たしかに、ここにいては、門を破ったゾンビが庭に侵入してきてしまう。庭は周りを壁で囲まれている。全員の逃げる時間がなくなるだろう。逃げるなら、早く準備をした方がいい。
「私、荷物まとめてくる」
莉子がそうひと言だけ言って、2階にある自分の部屋へと行ってしまった。
「僕も、食べ物をリュックに詰めてくるよ」
泰明も、そう言ってキッチンへ向かった。続けてジェイも、2階へ上がってしまった。残されたのは、俺と美月と龍一だけ。美月は、まだ赤い目をして、じっと黙っている。
ドン!
いきなり、龍一が壁を殴った。そして、「クソッ」と吐き捨てると、階段を上って行った。俺たちも、早くしなければ。門はいつまでもつか、わからないのだ。
「美月。俺たちも逃げる準備、しよう」
俺は静かに行った。美月は、黙ったまま頷いた。俺たちも階段を上がり、それぞれの部屋へ入った。
俺はリュックの中に、持ってきた物を再び詰めた。始めから、そんなに荷物を持っていなかったため、準備は早く済んだ。
「みんな!急いで!」
廊下の方から、泰明の声が聞こえてた。俺は、リュックを背負って部屋を出た。
「あとは龍一くんだけか」
もう、みんな集まっているのかと思ったが、龍一だけいないようだ。しばらくして、龍一が階段を下りてきた。これで全員だ。
「よし。みんな!行こう!」
泰明の掛け声で、一斉に外へ出る。俺たちが出てきたのを見たゾンビたちが、門をさらに強く押す。その後ろで、肉と骨の塊となってしまった玲の亡骸を、俺は見ないようにした。