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ゾンビと美月と俺と

「美月?」


「隼人・・・くん?」


 怯えた顔で俺の顔を見ているのは、間違いなく美月だった。1週間の間に、随分とやつれたようだ。いつもの元気がなくなっている。


「隼人くん。少しやつれた?」


「そうか?お前こそやつれてんじゃん」


「え、そうかなぁ」


 美月から見れば、俺もやつれて見えるのかもしれない。


「美月、ここで何してんだ?」


 さりげなく訊いてみる。チラッと、床に積まれているゴミの山は見なかったことにした。


「えっと・・・」


「ずっとここにいるのか?」


「うん・・・。5日くらい前から、ここにいる。お父さんとお母さんも一緒だったんだけど・・・」


 言葉が濁る。いなくなった、というより、死んだ、と言った方がいいのか。


「外がゾンビだらけだから、食べ物に困らないコンビニに来たの」


「ふうん。そのときから、こんな有様なのか?」


 店内を見回しながら言う。美月は涙目になりながら言った。


「う、ううん。もっとマシだった。私たちは、コンビニでしばらく過ごそうって話し合って、ここにいたんだけど。やっぱり、食べ物に困る人はたくさんいて・・・。コンビニに来た人には、食べ物を分けてたの。でも、私たちもご飯は必要だし・・・。だんだん、量も少なくなって、食べ物目当てでここに来た人の中に、まだ私たちが隠してるんじゃないかって、荒らしていく人もいて・・・。それで、こんな有様に・・・」


「そうか・・・」


「隼人くんも、食べ物目当てでここに来たんでしょ?」


「うん、まあ・・・」


「ごめんね。私たちが、全部食べたわけじゃないんだけど・・・」


「しょーがねーよ。みんな腹は空くし。量にも限りがある」


「うん。ありがと・・・」


 しかし、食べ物がないとなると、いささか非常事態になる。


「美月は今、腹減ってるか?」


「え?うん、まあ。食べてないし」


「・・・そういや、なんで、美月の両親はここにいないんだ?」


 両親がいないとは聞いたが、なぜいないのか、聞いてなかった。


「・・・あのね。この前コンビニに来た人が、思いっきり棚を倒しちゃって。その音で、いっぱいゾンビが集まって来たの。コンビニの窓をゾンビが割ろうとして、お父さんが、このままじゃ全員危ないからって、外に出て・・・。お父さんを助けようとしたお母さんも、一緒に・・・。うっ、うっ・・・」


 美月は泣き出してしまった。俺は美月の背中をさすってやった。


 そんなことがあったとは・・・。地面が血で汚れていたのは、そのせいか。あの血の量なら、生きてはいないだろうな。今頃、ゾンビになってるか、食われたか・・・。


「朝起きたら、外には誰もいなくて。棚を倒した人もいなくなってた」


「それからずっとここに?」


「うん。外に出るのは怖いから・・・」


 そりゃそうだ。女の子ひとりで、ゾンビに立ち向かえるはずがない。


「・・・なんなら、うち、来る?」


「・・・え?」


 唐突な発言に、美月はキョトンとしている。俺の言葉を理解すると、美月は拒否し始めた。


「いやいやいやいや!ないでしょ!だって、人の家に泊まるなんてそんな・・・。それに、隼人くんのご両親にも迷惑だよ!」


「いや、今親いないし」


「え・・・」


 俺は、努めて無感情に振る舞った。本当は、母さんも父さんも心配だ。もしかしたら、母さんはもう死んでいるかもしれないんだ。


「だからさ!俺ん家来いよ。ここに1人でいるより、2人の方がいいだろ?」


「・・・まあ、そうかも。私も心細かったし。誰かと一緒にいた方が安心」


 美月は同意してくれた。


 よっしゃ!美月と2人っきりか〜。


 こんな状況でも、心が躍る。別に、変なことしようとか考えてないからな!!


 そうと決まれば、すぐに出発する。美月は軽いリュックを背負い、手に包丁を握る。俺もバットを構えて、2人でコンビニを出た。


 顎を吹っ飛ばしたゾンビを指差して、「これ、俺がやった」と言うと、美月は驚いた顔をした。少しは頼れる男に見えただろうか?


 俺の頭には、美月とのラブラブサバイバル生活の妄想が始まっていた。




 俺の家に着くまで2体のゾンビに出くわしたが、俺が早急に片付けた。美月は自分の悲鳴をこらえるのに必死だった。


「少しは躊躇しないの?」


「しねーな。躊躇してたらこっちがやられる」


 そうして、俺の家に着いた。美月は物珍しそうに部屋の中を見回す。


「へー、こんなんだったっけ?すごい昔に来たことあるけど、忘れちゃったなー」


 美月と俺は幼馴染だから、小さい頃はよくお互いの家に遊びに行ったものだ。


 俺は散らかっていた物を片付けた。美月は椅子にちょこんと座った。俺も向かい側に座る。


「・・・」


「・・・」


 窓から差し込む陽の光が、俺たちを照らす。こんなゾンビだらけの状況でなければ、もっと雰囲気はよかったはずだ。家の中の空気が重い。しんと静かで、謎の汗が出る。


 なんでこんなに緊張してんだ?学校でも普通に話してたのに!


「ねえ」


 俺が必死に話の話題を考えていたとき、美月が言った。


「これからどうするの?隼人くんの家に来たはいいけど、食べ物もないし、水も電気もない」


「あー、水ならある。風呂に水を溜めてあるんだ」


「え、すごい!私、そんなの思いつかなかった!私もそうすればよかったなぁ」


 美月は本当に関心しているようだ。でも、顔が暗いのは直らない。


 そのときだった。


「わぁぁぁぁん!!」


 俺たちはびくりと肩を震わせた。外から聞こえた、子供の泣き声。2人で窓を覗き込む。外には、小さな女の子が1人で立っている。その周りを囲むようにして、3体のゾンビがいた。じりじりと女の子に近づく。


「助けなきゃ!」


 美月の声で、はっとする。


 そうだ。助けねーと!


 俺はバットを手に取り、玄関へ走った。その後ろを美月もついて来る。鍵を開け、外へ飛び出した。


 まず、玄関の前にいた奴に1発。背後から頭を殴る。ゾンビはそのまま倒れた。その隙に、美月が女の子の方へ行き、しっかり抱き寄せた。残り2体。俺はバットを振り回しながら、ゾンビに向かっていく。ゾンビは動きが鈍い。手前にいるゾンビの頭を殴って蹴り倒した。そして、もう1体の足に狙いを定め、バットを振った。ゾンビは呻き声を上げ、その場に倒れる。俺は頭めがけてバットを振り下ろした。


 グシャ!


「うわ・・・」


 ゾンビの頭はひしゃげてしまった。だが、まあいいだろう。俺は美月の方を振り返った。美月は、一生懸命女の子を落ち着かせようとしていた。未だに泣き止まない女の子。服は汚れ、剥き出しになった膝は擦りむいている。


「大丈夫だよ。よしよし。大丈夫」


 美月は女の子に声をかけ続けている。たしかに、これはまずい。早くこの泣き声をやめさせないと、ゾンビが寄ってきてしまう。


「美月。とりあえず、一旦家に戻るぞ」


 美月は頷いた。俺は女の子を背負って、家の中に入っていった。

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