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海岸の風景

作者: 齋藤翡翠

昨日の夕立から雨がずっと降り続いていた。


天気予報では、週間天気の欄が全て雨マークで埋め尽くされていた。

天気予報士は「本格的な梅雨だ」と嬉しそうに語っていた。


何が嬉しいのだか私には理解出来なかった。


休みの日は必ず海岸沿いの遊歩道を眺めに行くのだが、これでは行けそうにもない。


と残念に思っていたのだが、夕方にピタリと雨が止んだ。


その隙を見て、「三十分だけもってくれ!」と願いながら海岸に向かった。



いつもこの時間にやっているラジオ番組をイヤホンで聞きながら、海岸を眺めるのが私の定番。


私の好きなシンガーソングライターがやっている番組で、その人の流す曲が良いのだ。彼の曲が多いけど。


空を見上げると曇天。今にも雨が降りそうだ。


だけどちょっとぐらい何て事はない。イヤホンから曲が流れる。


もうそれだけで雨なんかへっちゃらだ。

空も泣き出しそうなのに、雲の向こうに見える日の光を見たら穏やかな気持ちになる。


夕方だから空と海の平行線辺りが紅く染まっている。


ベンチに座り、深く息を吸う。


潮の匂いと雨上がりの土の匂いが混ざりあって鼻の奥にスンと入ってくる。


爽やかな気分。


変なの、重々しい雲とは真逆だ。


雨は好きでは無いけど、たまには濡れても良いと思うくらい愛しい。


何でだろ、「恵みの雨」だからかな?


でも流石に、会社の出勤に降られるのは嫌だけど。



潮が引いている海は満ちている時とは違ってみっともない。


海藻や隠れていた岩が見えて汚ならしい。

時折大きなゴミなんかもある。


だけど、それも私には美しく見える。


満潮の時には見えない海の顔を見ているような気がして、凄く神秘的だ。


長い間海の底に潜っていた彼等が息をしている時。


そんな風に思う。



ここからは南側に干潟があって、干潮の今は地面が大きく開いて広がっている。


晴れた休日には、家族連れがたまにやって来て潮干狩りをやっている。


今日は生憎の天気だから人は居ないだろう。


そう思ったが、目を凝らすと二つの人影が見えた。


寄り添って立っている。


ああ、いいな。私もあそこに行って海に触れたい。



私は干潟にある防波堤にあるものを見つけた。


火だ。火が燃えている。


誰かが何かを燃やしたのだろうか。

小さいが結構長い間燃えている。


誰かが燃やしたのだとしたら、罰当たりなやつだ。


周りの流木なんかに燃え移って、火事にでもなりはしないだろうか。


そんな心配を初めはしていた。


だけどじっとその火を見ていると、私は何故かその火が消えないことを願った。



それは漁火のようで、儚い灯火。


やがて、その火は消えた。


不意に、ポツポツと小さな雫が落ちてきた。


ラジオはエンディングに入っていた。

もう帰らないと。


私はもう一度、海を見渡した。

吸い込まれそうな程、深い海がそこにあった。


風が私の背を押すように、まるで「早く帰れ」と促し急かすように吹いた。



潮風が香りながら、冷たい雨雲を連れてきていた。


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