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手紙2  勇者→大賢者


 こんにちは? こんばんは? 勇者で英雄の武田直人です。お手紙よませてもらいました。君にこんなに愉快な気分にさせられたのは初めてかもしれません。しばらくその場で立っていられないほど笑いました。本当にどのくらい笑っていただろう。たぶん30分ほどは笑っていました。本当につまらない日々に最高のネタを提供してくれた君はなんて良い人なんだろうと改めて思いました。

 だって「自分の家具が家出する」なんていう悩み、恐らくこの世界中で君だけが抱える悩みだと思います。流石は大賢者ミーファと言いたい所ですが、まず答えをハッキリさせてしまいましょう。僕もそんな長ったらしく結論を先延ばしにするタイプではないのでね。確か、僕の家にその怪しい家具が来てないか? というお話でしたよね?


 あいにくですみませんが、独りでに動く気持ち悪い家具なんてものは僕の家には来ていません。

 もう一度書きます。


 僕の家には来ていません。


 安心してどうか別の場所を探しまわって下さい。





 あと、送られてきた手紙に僕の名誉を汚す発言が載っていたので、この際だからちゃんと反論しておきたいと思います。



 まず、歯ぎしりといびきですが、これは僕がしているかは分かりません。こう言った類の問題は寝ている時におこるものでね。

 僕はこの世界で最高の勇者だけど、自分の寝ている姿だけは知りません。ただ、もし、仮にですよ、仮に歯ぎしりといびきをしていたとして……それがどうだというのでしょう。これはひょっとしたら僕が慢性的に抱えていることかもしれませんが、ただの癖と言えば癖です。人にはどうしよもないことがあったりします。それはある種の不治の病と全く同じです。

 たとえばずっと、体が痒い、ということを主張する人がいるじゃないですか。ここの世界じゃ文明のレベルが発達していないので分からないと思いますが、アトピー性皮膚炎といってほとんど治らない病気なのです。君はこんな人に向かってあなたは頻繁に体を引っかくから不快です、って言うのですか? 冗談じゃない。そんな発言あってはならない。もし、そんなことを言う奴がいたら、なんて傲慢で身勝手な奴なんだろう、と僕なら思いますね。

 歯ぎしりだって同じです。

 寝ている時におこるのです。不可抗力です。

 それを言うなんて君はどれほど恥知らずな発言をしているのか分かっているのかと問いただしたいほどです。


 そして、それを言うなら君は寝ながら屁をします。


 ご存じないかもしれませんが、君は寝ながら屁をする女なのです。初めて聞いた時は笑いましたが、僕はそれで不快になったりしませんでした。何故か知りたいですか? 何故なら僕は君より上等な人間だからです。


 君は魔王を倒してから3年と数えるかもしれませんが、僕の場合はこの世界に来てから5年と数えています。本当にこのくそったれ中世崩れの世界はどうしよもなく僕を苛立たせますが、その異文化を乗り越えた経験が生きているのかもしれません。この世界の人々のどうしよもならないところを僕は全て寛容な気持ちになって受け入れてきてやったのです。

 なのに、僕は『感謝しろよ豚共』なんて発言は絶対しません。何故なら僕が謙虚で上等な人間だからです。


 え~と、それと女性に関してはですが……、あちらから寄ってくるし、僕もいい子だなと思う子が多いです。お互いに完全に合意の上です。どこに問題があるのでしょう? 無理やりやっているのではないし、束縛もしません。お互いが気に入らなくなればチャオっと言ってサヨナラするだけです。一体何がどういう風に問題があるのか説明してもらえますか?

 君は以前、この世界は一夫一婦制だから、こういうことは止めた方がいい、と言っていましたが、僕のいた元の世界「日本」は一夫多妻制でした。ゆえに僕の中にその文化的名残があったとしても何ら不思議ではないし、少なくとも魔王と倒した勇者なのだから、その程度は甘んじてこの世界の人々が甘受すべき問題なのだと思います。


 あ、ここ大事ですが、魔王を倒したのは僕です。


 君の手紙を読むとまるで君が倒したかのように書いていましたが、あれは大きな誤解を生む表現だと思いました。トドメを刺したのは君だが、ほとんどボロボロになるまで魔王を追い込んだのは僕です。つまりこれは僕が倒したと表現するのが妥当ではないでしょうか? これでこれ以降、僕の名誉を汚す発言を君はしないものと思います。何故ならこれは完璧な反論だからです。この反論を受け付けない人間は、よっぽどIQが低いか、脳みそが半分吹き飛んだ奴のどっちかです。なんというか、絶対そうに決まってます。




 それと、今思いだしたのですが、よくよく考えると例の家具、


 一度僕の家に来たかもしれません。


 3週間ほど前でしょうか。夕方家に帰ると、見慣れない家具が一個増えてるなぁ、と思ったのを覚えています。その時は「あれ? こんなの買ったかな?」なんて思いながら、とりあえず風呂に入りたかったのでほうっておいたら、翌朝、消えていました。てっきり誰かのイタズラかと思っていましたが、家具が独りでに動くならやっぱりそうなのかもしれません。

 あ~そうそう。確か、それから一週間が経った頃ぐらいから不思議な噂を耳にするようになりました。僕の住む王都の郊外に盗賊団の一味がいるのですが、最近その頭領がおかしな化物に入れ換わったと聞きました。なんでも、体に大きな鉄の引き出しみたいなものがついており、それで攻撃を繰り返す変わった奴らしいのです。噂では「タンスっぽい」奴らしいです。てっきり変な魔物が化けているのかもと思っていましたが、ひょっとするとタンスそのものかもしれませんね。以上、僕からの手紙でした。手紙って書いてみると意外に面白いモノですね。ではチャオ☆



 追伸、そういえば、女性をHな気分にさせる魔術とかあるのでしょうか? もしあればお返事下さい。


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