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手紙1  大賢者→勇者


 どうも大賢者ミーファです。実は困ったことがあり、あなたにお手紙をさし上げました。私の家具がそちらにお邪魔しませんでしたか? すいません。それだけではちょっと何を言ってるのか分かりませんよね。え~私の身におこった事をあなたにお話しするのは気が引けるのですが、そうしないことには話が前に進まないので、ここに記させてもらいます。別に直接お話しても良かったのですが、面と向かって話をするにはこの話はちょっとあまりにも馬鹿げた話なので、手紙という形式を使わざるをえませんでした。


 何から話そう……。ことの発端から話すと、よく私の感情を理解していただけると思いますので最初からお話します。え~魔王を倒してもう3年になりますね。あの時は非常にスリリングでした。私が周りの魔物を打ち払い、あなたは魔王と剣で1対1の勝負をし、傷ついたら私が回復させてあげ、あなたが魔王と1対1で戦えるように他の魔物を撃退し……、こう文章におこしてみると、あなたあまり何もしてませんね。結局、魔王だって私が倒してしまったし。

 あ、そんなことをいいたいのではないのです。


 とにかくあの時、魔王を倒し、私達2人は国の英雄になりました。最高のカップルと国中からあなたとの結婚を勧められたのを覚えています。


 でも、正直、あなたと旅するうちに、その歯ぎしりやらいびきやら女性の尻を無節操に撫でまわす癖をみて本当にあなたに失望しましたの。更に国に戻ってからは手あたり次第女に手をつけ、この国で最低のモンスターと化したあなたに毛ほどの魅力も覚えませんでした。


 まぁその件はいいのです。

 で、それからというもの、私は目標を失ってしまって。なんというか魔王を倒す為に生きてきましたので。自分の中の情熱が消えてしまったと言いますか、わかりますでしょ? あなたも多かれ少なかれそうやって生きてきたのだから。とりあえず1年半ほど王宮でくつろいで生活していたのを覚えています。でも、なんといいますか、その時私が王家お抱えの賢者と大喧嘩したことを覚えているでしょうか?


 私は大賢者と名乗っています。賢者はこの国に私を含めると4人います。でも彼等の言い分によると3人しか賢者はいないのだそうです。何故かと私が聞くと、魔法学校による賢者検定を通過したのはこの3名だけだからだ、というのです。つまり、魔王を倒した私をあろうことかこの愚か者はモグリだと言ってきたのです。確かに私は独学で魔法を学びました。しかし、魔法の世界にモグリもへったくりもありません。あらゆる魔術を使いこなせることこそが賢者の賢者足る証だと思います。だから賢者なのよ私は、というと、その愚か者は全く私の話を聞いてないかのごとく『賢者という称号を撤回しろ』と言ってきましたの。もう本当に腹が立って。ならば決闘をして、どちらが上か決めればよい、と私が言ったところ。


『そんな野蛮な決め方はできない』と言いましたの。

 御笑い種でしょ? 完全に私にビビっていましたの。なのに、よくもそんな恥知らずな事を言えたものだと思って、私は全力で魔法を披露しましたわ。愚か者は死ぬ程ビビってましたわ。無様におしっこも漏らしていましたしね。そして最後に『すいませんでした』と愚か者が謝る姿をみて私は本当に胸がスーっとしたのを覚えています。


 ただ、何事にも代償というものがありまして、私は全ての魔法を披露する代わりに王宮を半壊させてしまいました。


 当時の出来事を今でも鮮明に覚えています。泣き叫ぶ人々と走り回る人々が群れをなして王宮から逃げ出したのを……。人々はまた魔王が復活し、襲いかかって来たのではないかと思ったそうですね。あの時は本当に申し訳なかったと思います。ただ、そのせいで私は王都に居ずらくなり、逃げるようにして山に籠りました。


 思えば、あの賢者がそんなことを言いだす前から兆候はあったのです。


 なんというのでしょう。魔王存命時、私達は本当に敬われました。色々な人々が尊敬の眼差しで私達のことを見て……。絶対に魔王を倒して下さい、尊敬しています、などと声をかけて下さったものです。思いだすと少し泣けてきました。今思うとアレが一番良い時期でしたね。魔王が死んでからは、人々は段々と私達に敬意を示さなくなってきましたわよね。あなたが手当たり次第に女を抱くから私の評判まで下がったせいもあると思うのですが、むしろ王都や国では私達二人のことをやっかいな奴等と見る向きが強くなっていったのだと思います。だから私は山に籠り自給自足を始めてみました。まだ色々読みたい本があったし、ちょうどいいや、などと自分を元気づけたのを覚えています。

 で、本当に人っ子一人いない山奥ですので、家具に魔法をかけたんです。家具に意思をもたせ自分で思考し行動できるように。

 フライパンは自分で調理し、斧は巻き割をし、本棚は私に読んでもらいたい本を選択し、私のベッドの脇に置きました。カーテンは夜と昼を覚えて自分で開け閉めを判断するようになりましたし。全てが全自動で行われるようになりました。

 でも、まぁ多少出来の悪いのもいて、何度も間違うものですから今度間違えるとこうなるわよ、っていうのを実践したのですよね。あ~つまり燃やしてそれを他の家具に見せたのです。いわゆる「見せしめ」というヤツです。


 これがいけませんでした。


 私は寝て、次の日とても早い時間に起きたのを覚えています。光が私の顔を照らすのですよね、やけに。私はきっとカーテンが早く開けすぎたのだと思い、窓の方をジロリと睨みました。するとどうでしょう。そこにカーテンはありませんでした。私はちょっと意味が分からないなぁ、と思って。寝ぼけ眼をこすりながら当たりを見回してみましたの。なんというか、これほどの衝撃はありませんわよ。私の家の家具が全て無くなっていましたの。カーテンはもちろんことスリッパからタンスからテーブル、ハサミ、マグカップ、あらゆるものが私の家から消えていましたの。


 つまり、彼等は……家具のことですけどね。私の家から逃げ出したのです。


 だから今、こんな情けない手紙を書いています。私の家具がそちらにお邪魔していませんか? お邪魔していたら引き取りにいきますので是非ともそちらの方で取り押さえておいて下さるかしら。


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