【超短編】催恋スプレー(モテない男と謎のセールスマン3)
モテない男と謎のセールスマン、シリーズ化します。
おんぼろアパートのおれの部屋に、あのセールスマンがまたまたやってきた。
「今度は何を持ってきたんですか。もう何も買いませんよ。帰ってください」
おれはこのセールスマンから買わされた商品でひどい目に遭っていたので、
追い返そうとしたが、男はおれの言葉をさえぎった。
「まあそうおっしゃらずに。今回お持ちした商品は催恋スプレーといいまして、
これを振りかけると、どんな相手でもあなたに恋をしてしまうのです。
街中で見かけた超美人の女性でも、すぐにあなたの恋人にできますよ」
そう言われておれは、もしかしたら今度はうまくいくかもしれないと思った。
「スプレーは一回分ですが効果は一ヶ月です。松竹梅の三種類ございまして、
松は百万円、竹は十万円、梅は千円ですが、いかがですか」
またこれまでと同じパターンだ。おれは警戒して尋ねた。
「ビンボーだから梅しか買えませんけど、ひどい目には遭わないでしょうね」
「もちろん梅でも大丈夫ですよ。多少の質の違いはございますが、ははは」
男はまた奇妙な笑い方をしたが、おれはついつい梅を買ってしまった。
おれはさっそく催恋スプレーを持って、街中へ出かけていった。
すると、とびきりの美人が一人で歩いていたので、おれは後ろから近づき、
横に回って彼女の顔にスプレーを吹きかけた。だがスプレーの勢いは弱く、
霧状の成分は風に吹かれて、後ろを歩いていた大柄な男の顔にかかった。
プロレスラーのような体格の男は、たちまちおれの方に迫ってきた。
「き、きみはなんて素敵なんだ。ぼ、ぼくと、つきあってくれ」
おれは慌てて逃げて、どうにか振り切ることができた。
翌日アパートの近くを歩いていると、その男とまた遭遇してしまった。
「ず、ずいぶん探したよ。こ、この近くに住んでるんだね」
おれはまた慌てて逃げた。これではすぐにアパートも突き止められてしまう。
それから薬の効果が切れるまでの一ヶ月間、おれは逃亡生活を続けたのだった。
やはり自分にはモテない男の情けない話が一番書きやすいということを悟りました。