03.邂逅
車はやがて薄暗い路地の片隅で停車した。
助手席の少女が先に車から降り、俺の両脇の黒服も続いて降りる。その際、黒服の一人が俺を抱え、もう一人はトランクから車椅子を引っ張り出して手際よく組み立てていた。ものの数秒でセットを終えたそれに、俺は丁重に設置された。
作業が一通り終わると、黒服二人は助手席のドアのそばで佇んでいた少女に向き直り、無言で背筋を伸ばした。
「お疲れ様でした」
無機質な少女の声に無言で腰を45度折った黒服二人は、停まったままだった車の後部座席に乗り込んだ。
そのまま静かに走り去る車を見送りながら、あんな車に乗ってきたのか、などと呑気に思考を垂れ流していた俺だったが、少女がこちらへ歩いてくるのを見てそれも中断することになった。
警戒半分、怯え半分で見上げる俺を一瞥すると、少女は車椅子の取っ手を持ち、無言で押して歩き出した。
「……どこへ行くんだ?」
聞くだけ聞いてみる。
「着けばわかります」
聞くだけ無駄だった。
路地を抜け、しばらく進むと大きめの建物が見えてきた。少女の足音が重なるにつれ、だんだんと建物は近づいてくる。目的地に間違いないようだ。
やがてエントランスに到着し、自動ドアのロックを解除すると、少女はエレベーターに乗り込み四階のボタンを押した。
エレベーターという密室で、会ったばかりの少女の二人きり。世の男子にとっては胸の高鳴るシチュエーションだったのかもしれないが、そこに誘拐犯とその被害者という関係性が加われば話は別である。胸の高鳴りも、ときめきなどではなく、不安からくる動悸でしかない。
エレベーターから降り、少女は一番近くの部屋のドアの鍵穴に鍵を突っ込んだ。
車椅子を部屋の中へ突き込むようにして入る。真っ暗な室内にあって、ひとつだけ明かりのついた部屋に俺は通された。
「御影さん、こちらです」
背後の少女の声に振り向くと、少女の後ろには少女よりもずっと背の高い女の姿があった。
「ん、ご苦労様。今日はもう休んで構わないよ」
「では、失礼します」
短い会話を交わし、少女は部屋を出て行った。後には俺と、見知らぬ女が残された。
「さて……」
先に口を開いたのは女の方だった。俺の前に椅子を出してきて、足を組んで座っている。飾り気のないシャツに無地のスカート、おまけに白衣といったいでたちは、教師や研究者を思わせた。
「初めまして、威塚 塔弥くん。メールは読んで貰えたかな?」
切れ長の目だけでニヤニヤと、楽しそうに、実に楽しそうに笑いながら、女はそう切り出した。