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アンダーワールド(仮)  作者: 午前十一時
第1章
4/7

02.アブダクション

スマホを(ゆか)に叩きつけたい衝動に必死に抗いながら読んだメールの内容をまとめると、おおむね以下の通りである。



・外科手術以外の方法で、君をもう一度自分の脚で立たせるための手伝いをしたい。


・ただし、私の研究の一部に協力して貰うことが条件となる。


・もちろん報酬は払おう。割の良いアルバイトだと考えてくれれば合っている。



……等々。

他にもつらつらと書き連ねてあるメールの文面を、親指で上に弾きながら読み進める。


そして。


・ーーちなみに、君に拒否権はない。


最後の一文は、俺を絶句させるのに充分な破壊力を備えていた。


「……あ?」


えーと。

それは、何というか。

そもそも、たかがメールで拒否権をどうこうと言われても。


……だが、待て。

俺は碑崎心理学研究所という場所、あるいは団体に心当たりはない。

ならば、この自称心理学研究者は、どうやって俺のアドレスを手に入れたのか。

もし他の個人情報も押さえられているのだとしたら、それは……





俺が何かに気付きかけたその時。



キュイッ、キィィーッ、パリン、カチャン。



異音は部屋の窓の方から聞こえた。

見れば、お手本のような三角割りをキメた姿のまま、今しがたこじ開けた窓からこちらを覗く少女がひとり。黒いセーラー服をまとい、音も気配も消したまま、バランスを崩す様子もなく座る様は、さながら黒猫のようである。


俺と同い年か、少し年下に見える童顔。

肩口まで垂らしたクセのない黒髪。

何かが抜け落ちたような、(うつ)ろとも言える両目。


どこかで見たような気がするものの、いまひとつ結びつかない。何かが違うような……


人形のよう、と表現するのが相応しい侵入者は、しかし、唖然とする俺を尻目に手にした機械に向かって話しかけている。無線機だろうか。


「ーーはい。確認しました。お願いします」


そう言った少女が無線機をしまうのと同時。

突然部屋のドアが開き、黒服とサングラスを着用したむくつけき男2人がずかずかと入ってきた。ご丁寧にも、2人の手にはそれぞれ拳銃が握られている。逃げ出そうにも、この脚ではそれもままならない。


……もっとも、身体が万全の状態であったところで、この黒服2人から逃げ切れるかどうかは疑問だが。


黒服どもは俺のこめかみにぴたりと銃口を押し付けると、少女の方を向いて動きを止めた。


数秒の沈黙が流れる。


(つば)を呑み込んだ(のど)の音ですら、部屋に反響しそうな錯覚を覚えた。


「では、下に運んでください」


少女の指示に、首を縦に振ることで返事をした黒服の1人が俺を抱え上げた。


「ちょっ、おい!お前らーー」


上げかけた抗議の声は、銃口と、三度目の少女の声に遮られた。


「……騒がないでください」


無機質に言い放つ少女と、無言で頭に銃を押し付ける黒服の組み合わせは、確かな恐ろしさでもって俺を黙らせた。


俺が何度も必死に頷くと、少女は俺に目隠しをした。具体的には、アイマスクを取り付け、上から布を巻き、ニット帽を被せた。いくらなんでも厳重過ぎはしないだろうか。


それが終わり、では行きます、という少女の声がした。

続いて外気の温度、風を切って落ちる感覚、ちょっとした衝撃を経て、最後にバタン、という音と背もたれの感触を得ることで、俺はどうやら車の中に運び込まれたらしい事がわかった。


その過程については想像したくない。


車は静かに動き出し、しばらくして目隠しが取られた。

真っ先に外の景色を確認するが、まるで見覚えのない場所のようである。


俺の両脇には、さっきの黒服2人が座っている。拳銃は持っていないようだが、それでも気が気でないのは事実だ。


挙動不審ぎみの俺を見かねたのか、助手席の少女が声をかけてきた。


「安心してください。危害を加えるつもりはありません」


拳銃まで突きつけておいてよく言う。

返事の代わりに溜息をひとつ。


結局それから少女が話すことはなく、俺の方から話しかける訳もなく、車がとまるまでの十数分の間、車内にはエンジンと空調の音だけが漂っていた。


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