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アンダーワールド(仮)  作者: 午前十一時
第1章
2/7

00.イレギュラー・ケース

刀を持った脚無しの人影が完全に砕け散るのを見届けると、白髪の少女は銃を下ろした。


深層世界で奇妙なモノに出会うのは珍しい事ではないが、あれほど人間に酷似した存在は初めてだった。


もしかしたら本当に人間なのかも、と思ったものの、すぐにその考えを振り払う。深層世界への潜入は容易な事ではない。高い適正と補助装置(サポーター)があって初めてなせる(わざ)である。


適正はともかく、補助装置(サポーター)は数が限られている。専門の機関で管理されているため、一般人が入手する事もまずありえない。


つまり深層世界に潜入しているということは、同時に何かしらの機関に属していることを意味する。この少女にしても例外ではない。


と、少女の右耳につけられた小型インカムに通信が入る。


「……んだよ」


不機嫌そうに応答する少女。とはいえ別段怒っている訳ではない。ここでの彼女はこれが平常運転である。


「やぁ、お疲れ様、ツヅリ。偵察の役目は充分に果たして貰った。浮上装置の起動許可はすでに出してあるから、もう帰投して構わないよ」


応えるのは若干低めの女の声。威嚇するような少女の返答にもまるで動じていないあたり、慣れたやりとりであることが伺える。


ツヅリと呼ばれた少女はインカムからの声に舌打ちで応え、浮上装置を起動しようとした。が、思い出したように動作を中断し、再度インカム越しの相手に話しかける。


「さっきのアレ、何だったんだよ?」


さっきのアレ、とはもちろん、刀に脚無しのヒトガタのことだ。ヒトだと断言できない以上、「誰」と言う気は少女にはなかった。


「アレ、とは?」


「寝トボけてんじゃねェ。あたしがぶっ飛ばしたさっきのヤツだよ。刀持ったユーレイみたいなアレ(・・)だ」


「ふむ……」


少しの()をおいて、インカムの向こうから再び声が届く。


「……ユーレイだったんじゃないのかね?」


「切んぞ」


「冗談だよ。だが……そうだな、少なくとも君が日常的に排除している深層棲物(クリーチャー)とは全く異なるモノなのは間違いない。私個人の見解としては、アレは君と同じ人間なのではないかと考えていたりもするのだがね」


「人間……だァ?じゃあアレはどっかの機関のヤツだったのかよ。面倒臭ェな……」


深層世界を研究・探査する機関はいくつもあるが、統括する組織がある訳でもなければ共同歩調をとっている訳でもない。

別の機関所属の探査員を不意討ちしたとなれば、報復の可能性は多分にあるという訳である。ツヅリの懸念もそこにあった。だが……


「安心したまえ。さっきのアレは機関とは関わりの無い者のはずだ。あんなに不完全な状態で深層世界に送り出しても、得られるモノは何もないからね。そのままにしておいても問題なかったくらいだ」


インカム越しに告げられた懸念を払拭する言葉に、素直には頷けないツヅリである。


「だったら尚更問題じゃねェか。一般人がノコノコ深層世界(ここ)に来てる、なんて笑い話にもなんねェぞ?」


さっきのは深層棲物(クリーチャー)だって言われた方がまだ納得できるぜ、とぼやくツヅリに、苦笑する気配と共にインカムからの声が応える。


「アレが深層棲物(クリーチャー)ではないということは、アレを排除した(ぶっとばした)君が一番よく解っているのではないのかね?」


「そりゃあ……そうだけどよ」


深層棲物(クリーチャー)を撃破した際、どのようなものであってもその原型を留めることはなく、やがて深層世界の環境に溶けるように無くなってゆく。しかし先刻のヒトガタの場合、ツヅリの銃撃を受けたのち、粉々に砕けたのだった。手ごたえのない深層棲物(クリーチャー)とは少し異なる。


ツヅリとしても違和感を感じなかったわけではない。だが他に判断材料も無い以上、深層棲物(クリーチャー)以外に心当たりが無いのもまた事実であった。


しかし、インカムの向こうの相手はその限りではないらしい。面白がるような声で喋り続けている。うんざりだとばかりにそれを遮り、ツヅリは浮上装置を起動しながら話しかける。


「んじゃミカゲ、あたしは一旦そっちに戻るかんな。準備、済ませといてくれよ」


「機関に所属していない状態で深層世界に潜入してきた一般人だとしたら……ふむ、なるほどなるほど……ふふふ、素晴らしい……素晴らしいな……」


「……おーい、ミカゲー?はろーはろー?聞こえてンのかァ⁉︎」


「ああ、大丈夫だとも……ふふふふ……早急にログを漁って……まずは住所だな……ふひひひ……」


だんだん壊れだしたインカム越しの相手ーー碑崎御影(ひざきみかげ)の声を聞きながら、ツヅリは溜息とともに浮上装置を起動するのであった。

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