魔王城はアトラクション
この世界において【魔王】は世界維持の役割のひとつに過ぎない。
それでも、多くの魔を統べる【魔王】が多くの人からは忌避される存在であることには違いない。
「はい、っらっしゃいませー。ミント、セージ、パセリ、どのコースはお望みっすか〜」
「ぱ、パセリ?」
問いかけにお客様はおどおどとしつつ、最後に告げられたコースを復唱する。
「はい、パセリコースご案内!」
それを受けた上司が案内を指示するように大きな声をあげる。
「いらっしゃいませっ」
従業員として客(武装した少数集団)にむけて唱和する。
「ひっ」
と小さな声が漏れていたが従業員は慣れている。
「それでは、じっくりパセリコースをお楽しみください。再びお目にかかれますように」
上司はにこにこと言葉を告げて武装集団の後ろで門扉を閉ざす。案内は担当者の仕事だ。
彼はにやにや楽しそうに舞台裏に戻ってくる。
「見たか。あの表情。ぽかんとしてたな」
その手には細いナイフ。繊細な動きでテーブルのささくれを削っていく。手招きされた奴が嬉しそうに寄って行って仕上げとばかりに溶かしていた。
前の客が壊したテーブルの修復だ。
彼は周囲の返事を期待してはいない。
気にせず楽しげに作業する。
パセリコースにふさわしいもてなしをと指示される。
料理に宿泊設備、接客。
重要なのは意外性と安心できるお約束。
そんなモットーに従うために全力を尽くす。
我らが魔王様はおそらく変則的な方だ。
ココは食事処や遊興施設ではなく、魔王城である。
「どんだけ毟れるかなぁ」
パセリコースと言うのは比較的初心者用のコース。一番生存率の高いコースになる。
楽しげに笑う姿に従業員が接客に姿を消す。
あまり人を害する気のない魔王様は先の魔王様を勢いで倒して、「次代の魔王はあなたです」と宣言されて勢いで「おう」と応えた愛すべき方だ。
「うっし、ちょっくら料理に手を……」
魔王様の言葉に空気がざわりと動く。
「魔王様、そろそろ待機願います」
側近様の言葉に厨房の鍋を目指していた魔王様の歩みが止まる。
「おう!」
気持ちよく応え、我々に向け「任せた」などと言われては我々の応えはただひとつ。
「お任せください!」