運命の分岐点1
アレックスは魂が抜かれたように畑に立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
アレックスは背後から声を掛けられハッとした。
振り向くと《ソフィア》が心配そうにこちらの様子を伺っていた。
ソフィアは村長の娘で可愛らしい顔立ちをしている。
ピピット村では一番の娘と言っても良いかもしれない。
アレックスは村の人達の畑仕事や祭の準備等を手伝わなかった…いや手伝えなかったのだ。
そういう事を快く思わない村人も居る。
閉鎖社会である村では致命的だ。
村長や村民は率先してアレックスと関わろうとしなかったがソフィアだけは何かと気遣ってくれている。
アレックスはソフィアの事が好きだった…出来れば一緒になりたいが、こんな生活をしている自分には資格がない。
そう思うと想いを告白をする気にはなれなかった。
アレックスは微笑みながら言う。
「ラットに畑を荒らされちゃったや。昨日採れた鹿で生活が楽になると思ったんだけど…あれの皮を売るしかないか」
(本当は狩りでは何も取れていない)
ソフィアは即答した。
「嘘ね…私に任せ…」
アレックスはドキッとしたが、ソフィアの声に被せて言う。
「本当に大丈夫だよ、今夜のシチューが肉抜きになるだけさ」
ソフィアは不満な顔をしているが、あえて無視をした。
「本当に…本当にどうしようもない時は頼ってよ?」
「わかったよ」
ソフィアはそれを聞くと小走りしながら村の方へ走って行った。
(何かする気なんじゃ…)
そんな不安を抱いていたアレックスは畑の向こうにある森から影が這い出てくる様子が見え、不安は頭から消し飛んだ。
アレックス(ラットか?それなら…)
畑が森に近い事もあり畑仕事を終えた後は狩りに行くのが日課だった。
アレックス(狩りに必要な道具…弓矢は持って来ている!)
深呼吸をして自分をなだめ、アレックスは弓に矢をつがえてゆっくり…ゆっくり…近づいて行く。
アレックス(あれを仕留めれば、本当に何とかなるかもしれない)
アレックスは弓に入れた力を抜いた…いや力だけではなく心まで抜けそうだった。
森から這い出てたもの…それは人間だった。
ボロボロのマントから覗く
一部砕けたブレストプレート
そして両脚の膝から下が潰れていた。
そしてアレックスを品定めするかの様に睨んでいる。
その男は突然口を開いた。
男「村に走って行ったのは誰だ?俺をどうする気だ!」
アレックスは驚き、目を丸くした。
アレックス「あれはお前とは無関係だよ」
男「そうか…」
しばらく沈黙が続いた、兵士は何かを考えているようだ。
そして静かに口を開いた。
男「俺を…匿ってくれないか?お前を自由にする…ただし!俺の事は誰にも悟らせるな!」
アレックスはその言葉を信用していなかった、確かに兵士の装備は金属製でアレックスには買えそうにないが、貴族という感じではない。
自分を解放する為には金が必要だ。
(この男がそんなに金を捻出する事が出来るのか?)
しかしアレックスは危機的状況だ…
(話に乗ってみるか…でもどうやって家まで)
アレックスの目線の先に収穫用に持ってきた荷台が置いてあった