表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年の卒業式  作者: ゆう屋
1/1

芳村 恵梨香の卒業式

初めて書いたものです。

長文・駄文で読みづらいと思いますが感想やアドバイスなど貰えると嬉しいです。

芳村 恵梨香 (よしむら えりか) 3月7日


「芳村 恵梨香」

担任の低く、いつになく丁寧な声が体育館に響く。


「はい」

自分の中で割と大きな声で返事をした。返事が義務教育の集大成だといつか学年主任の先生が涙ながらに語っていた。そんな事を思い出しつつ、私は起立した。


私は立ちながらこの3年間の思い出を走馬灯のように頭に巡らせていた。

胸が熱くなりこみ上げてくる物を感じて、溢れでないように歯を軽く食いしばる。

こうゆう時は大抵泣いてしまうのが私だが今回は堪えた。

なぜなら次は卒業生合唱なのだ。


出席番号が若い順に次々と体形を成していく。

すれ違う人が私の目をみて笑顔を作ってくれたり、つられそうになっているのがぼやけてしまった視界でもわかった。

中にはすれ違いさま「合唱頑張ろ」と言ってくれる香奈のような優しい友達もいた。それによって余計に泣きそうになった。


ただ、例外が1人。少し遠くからすれ違ってくる少年は塩冶 佳業だ(えんや けいご)。


死んだ魚のような目で見てくる。いつもの事だから傷付いたりしてはいない。

ただあいつはいつも冷めてて泣く定番のようなタイミングで必ず泣いていない。今年は先生も含めてほぼ全員が涙した体育祭や合唱交流だった。

そんな時でも涙を凍らすほどの冷たい目で周りを見ている。

私は実はロボットであるのではないかと疑ったこともある。そんな視線に、込み上げてくる物も冷めた。


ロボットは自分のプログラムに無い表情を見たからか、理解不能といった顔だ。

そう言えば卒業が嬉しいと言っていた気がする。あいつにとっては面倒臭い学校が終わる行事は嬉しいことなのかもしれない。それこそ私には理解できない。


全員が整列し終えると2年生の司会のもと答辞を読む生徒が前にでた。

読み終えられた頃には体育館全体が涙したり、堪えたりしているのが空気でわかった。私もその中の1人だ。先生も合唱が始まる前からもう涙している。


次は合唱だ。河口の筑後川を歌う。

この学年は他と比べ合唱に力を入れている。休み時間も練習に費やし、課題点があればクラスで話し合いをした。

合唱のために涙する生徒もたくさんいるほどだ。先生も一緒になって切磋琢磨してくれた。

私はそれが好きだ。

日に日にクラスの合唱は上達した。他のクラスから賞賛を浴びたりすると自分のクラスが誇らしく思えた。

最初はやる気のなかった男子が段々協力的になってくれるのも素直に嬉しかった。


また思い出を頭に巡らせていたら伴奏が始まった。これが最後の合唱かと思うと少し寂しい。


『フィナーレを 鮮やかにかざりながら』

最後だからしっかり歌いきりたい。手を強く握り、歌った。


『水底の可愛い魚たち 岸辺おどけた虫たち』

ああ、本当に楽しい学年だった。はしゃいだ日々。レクレーション。修学旅行。

どんな場面を思い起こしてもみんな笑顔だ。今年の学年主任の先生が掲げた目標は『安らぎ』だった。今思えばそれは後付けしたように私達の学年にピッタリだった。

ニュースを賑わせているいじめは愚か、喧嘩すら滅多に無い学年だった。


『川は歌うさよなら さよなら』

そんな日常はもう終わるのかと思うと信じられない。明日からも普通に登校してみんなと会えるような…それぐらい実感がわかなかった。

だが曲はクライマックスに向かっている。私の中で高揚する気持ちも最高潮に達しそうだ。

私の瞳に溢れてきそうな何かを胸のダムでせき止める。だが頭の中を勝手に巡る思い出は止められなかった。


『紅のハゼの葉 楠の木陰 白い工場の群れよ』

不意に体育祭を思い出した。気温以上に熱く燃えた日だった。

私のクラスは優勝候補だったにも関わらずムカデ競争で転んでしまった。だがその後の走りでは全校一の輝きを見せた自信がある。

最後の円陣で先生が「お前達を優勝へ導けなかったのは俺の責任だ… 本当に申し訳ない」と涙ぐみ話したのが記憶に張り付いている。

それにクラス全体がもらい泣きしたことも思い出した。今思えば私のクラスは全校で1番どんな行事でも栄えたクラスだと思う。


『さよなら さよなら 川は歌うさよなら』

でも…そんなクラスもこれを歌い終えたら…。そんな気持ちが込み上げてくる。だがここからがクライマックスだ。

涙はなんとか抑えられそうになった。充分にブレスで息を吸う。


『筑後平野の百万の生活の幸を 祈りながら川は下る 有明の海へ』

音程が高くて出しにくい部分だ。顔が熱くなった。

首に筋が浮く感覚を感じる。胸のダムが決壊しそうだった。

もう周りの声は聞こえない。私は自分のクラスが大好きだった。

筑後川に負けないほど私にとって3-4が雄大な存在であることを体現したい。視界がまた潤んだ。でももうそんな事は関係ない。

ただただ全身から声を出して歌った。


『筑後川』


もう自分でも声がでているのかわからない。


『筑後川』


もう少しで終わってしまう。


『そのフィナーレ』


でも、最高の3年間だった。


『ああ』

ああ…。この瞬間の事はよく覚えていない。だが満足感に包まれていたのは確かだった。


歌い終え退場を済ませると各々友達と集まり雑談を始めた。私と同じく目が潤っている人が多い。

そんな人混みの中で一瞬驚くべき出来事を見た。

今すれ違った人が涙を流していた。死んだ魚のような目から。

振り返るとそこには誰もいなかった。見間違いかなと思いつつ、塩冶も含めた3-4の思い出に浸っていた。

私はフィナーレを鮮やかに飾れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ