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領地の財務は私にお任せください 一才を見事取り仕切って見せますわ!

1番古い記憶は馬車から身を乗り出し遠のく建物を見つめる私。


これを記憶といっていいのかすらわからなくなるほど朧げで、ただ夢でよく見る、なんとなく胸に支えるそんなもの。

物心ついた頃には誰とも知らない人がそばにいた。

自分が何者なのか、何故そこにいるのかわからない。





パシーンッ


頬を叩く音が響く


「何度言えばわかる!

お前は屋敷で大人しくしておけば良いのだ」


「申し訳ございません」


周りがこちらに目を向けヒソヒソと話し始める。

「またよ」

「このような場で騒ぎを起こさないでほしいわね」

「さすが子爵家、場をわきまえることもできないのか、野蛮だな」


そんな話し声が聞こえる中でも

目の前の男、お兄様は態度を変えない。それどころかワイングラスを片手に香りを楽しんでいる。


“なんとかこの場を穏便に済ませなければ、お父様に伝わってしまう前に”


「ラントお兄様、申し訳ございませんでした。仰る通り屋敷に戻ります。」

「ふんっ、最初からそうしていれば良いものを。

お前は私の人形だ。着飾って公に姿を現す必要などない。さっさと戻れ」


頭を下げ踵を返し会場を後にする


人の気配がなくなり少し肩の力が抜けるとため息が溢れる

“お父様には婚約者を探せと言われていたがあの状況では探すどころか殿方とお近付きになることすら叶いそうにない”



私“セレーネ”が生まれ育ったこの国 “ローゼ王国”は武勲により階級が決まる

我が一族“セレスティール家”は先先代当主が武勲を挙げたため爵位を得たがそれ以降なんの功績も上げられていない。そのため社交会では名ばかり貴族として有名だ。


父“ビンセント”は8年前に武勲をあげようと戦地に赴き負傷。

それにより剣を握るどころか寝起きもままならない状態である。そこに心労が重なればどうなることやら。

兄“ラント”は武の才がなく社交の場に参加するたび貴族女性と遊び、男女間での問題が途切れることはない。


セレスティール領の全てを取り仕切っているのは表向きラントとなっているが実際には私が行なっている。

ラントが遊び歩くことにより示談金が膨れ上がりセレスティール領の運営がままならない状況だ。


“ある程度の地位と財力をお持ちの殿方を捕まえる

それが私の役目だ”





先ほどの社交にて私の求めるものをお持ちの方が3人


侯爵系、次男 23歳

ランバート・デュリガー


辺境伯、三男 25歳

バーナント・モンテヒュート


伯爵家、次男 24歳

ロイド・ベントリッヒ


何の殿方も嫡男ではないため婿養子としてお迎え可能な上、結婚適齢期目前

武の才もあると社交では有名な話

唯一の難点は

下級貴族の私と違い上級貴族であること

さて、どのようにお誘いするのが良いか。



翌日


早速情報収集開始と行きますか!


「レン」

「失礼致します」

どこからともなく姿と現すこの男。

セレスティールの暗躍部隊の一人、私が信頼を寄せている相手だ。

「お願いしたいことがあるの

この方々の情報を集めてほしいの。

普段の生活から衣食の好み、女性関係や金銭的事情も。」

「承知いたしました、、、」


ん?いつもなら要件を伝えるとすぐにいなくなるのに、どうしたのかしら、

「レン?」

「失礼致します。確認させていただきたいのですが、

こちらのリストの方々はどのような関係の方でしょうか」

珍しい。レンが私の依頼したことを詮索することは今までになかったこと。

「私の婚約者にと考えている方よ」

伝えたところで問題にはならないだろうと説明をする。

「レンも知っての通り、セレスティール領の財政がよくないのよ、

作物も育ちにくい痩せた土地、特産物もない

あるのはそこそこの自然と広い土地

逆に広すぎて整備が追いつかない状況

父もあの状態では報奨金の期待はできない。

それどころか兄の抱えた示談金により資金ショート寸前」


“今まではある程度、廃れないように運営すれば良いと考えていたが甘かった。

兄が今まで以上に女遊びに励んでいる。

止めようにも私から声をかけようものならさらにご乱心させてしまう”


「だから、そろそろ潮時かなって

幸いにも私は見た目だけならそこそこでしょ?」


そこそこではない!

“ネイビーブルーのストレートヘアーに夜空のような青い瞳、背は高くも低くもない157cm、上から97.58.92”

たしかに、男ならまず抱きしめたくなるプロポーション

だが当の本人は自信があるのかないのか、その数値がどれほど男を誘うのかを理解していない。


「そうですね、19にして婚約者がいないことを除けば」

「そうなのよね、

とにかくそのリスト、お願いするわね」

「承知いたしました。お任せください」

言い終えるとレンはどこかに消えた。


さて、次は領地視察ね。



3人の身辺調査を依頼した後

屋敷の者に馬を準備させた。

「リナ、視察へ行くわ。馬の準備をお願いね。」

「承知いたしました、お嬢様」


セレスティール領はよく言えば自然豊かな場所だ。

言葉を濁さずに言えば田舎。

その上それなりに広い。

馬車で動いていたらいつになっても終わらない。視察に馬は必需品だ。


お父様に変わり領地を仕切るようになってからは

私が視察を行いお父様に報告。

予算の範囲で運営を行ってきた。

今まではそれでよかった。

だが3ヶ月前に兄が起こした訴訟により我がセレスティール家は莫大な示談金を支払い資金難に直面している。


領民には税を納めてもらい、その代わりに安定した計活を約束するが

今年の予算が示談金で吹っ飛んだ。

一部の領民はそのことをどこからか聞いたらしくセレスティール家を糾弾し、他領へ移り住んでしまった。

当たり前だ。


私が今から行うことは

新たにセレスティール領の特産物を生み出すこと

この領地でしか得られないものを。


今までの経験でわかっていることがいくつかある。

土地が痩せているため農作物の出来はあまり良くない上収穫量も少ないため他領への交流物資としては使えない。

海に面している場所が多く漁業が盛ん。海の荒れている時は漁に出れないため魚を保存食に加工することもある。

他領に比べて北に位置するため一年を通してかなり涼しい。冬には雪も降る。

山が多く正直管理が行き届いていない。調査をすれば多少なりとも鉱石が見つかることもあるかもしれない。



急いで行わなければならないのが山林管理だ。

以前行われたのはかれこれ10年前

そろそろ間伐を行わなければ木々の根の張りが甘くなり大雨が降ろうものなら土砂災害を引き起こす。



領民を集める準備を行うため役場へ馬を走らせる。


ブルルン

「コハク、お疲れ様」


セレスティール領は領城下と3つの村に分かれているそして領城下と村々には各専門機関を設けている。


村長

環境統括管理

産業統括管理

 漁業管理

 農業管理

 交易所

徴税管理者

自警団


これら7つの管理職を設置し、それぞれの分野に精通している者を複数人交代で常駐させる。

それによりいざという時の動きが迅速になる。

領主だけでは知識不足が否めないが

専門家の知識からより最適なものを選択できるのだ。


これとは別に“教会”もあるが個人の宗教の問題であり、領主が管理しているものではない。



役場の門前には自警団が二人

馬を降りると

「お疲れ様です。セレーネ様」

敬礼し門を開ける。


「お疲れ様、ありがとう。コハクをお願いね」

「承知いたしました。」

馬を預け門をくぐる


協議室に入ると

環境統括管理者であるウーゴと目が合った。

「お疲れ様でございます。セレーネ様

此度の山林間伐の件調べております」


手を向けた先には書類の山。

「ありがとう。早速だけど、領民反応は?」

ウーゴの視線が逸れた。言い辛いのだろう

「ビンセント・セレスティール領主が以前間伐を行われたのが10年前

あれから時が立ちすぎているがセレーネ様は領地のことを把握しておられるのかと、反発が起きております。」

「そうよね、私のせいでごめんなさい」

「違います!セレーネ様は3年前に間伐の準備を進めておられたではございませんか!

それを邪魔されたのがラント様です。

あの時はどうしようもなかったのです」


そうだ3年前より準備を進めていた間伐計画。

踏みとどまらざるを得なかったのが3年前、兄ラントによるセレスティール領売却計画。

問い詰めれば他領の女性貴族への贈り物などでできた借金を返すためだった。

公になった頃には売買契約が決まっており、

できたこととすればクーリングオフ制度を利用するくらいだった。

間伐計画の費用はラントが自身の借金を支払うのに使用してしまった。

そのため領民、他領への依頼料が支払えなくなり延期せざるを得なかった。

あれから3年経ったがラントの私物を全て売却。幸いにも宝石や美術品、衣服など思ったよりも高値で買取ってもらうことができ、借金の⅓を返済することができた。

後は私が名義を伏せて行っている事業の収益を当てることで再度計画を進める運びとなった。


「いいえ、それでもラントお兄様が行ったことで本来行えるはずだった計画を、領民の収入を奪ってしまった。

さらには先日の一件です。

領民には真摯に向き合うべき、

ウーゴ。少し時間をください。

父と話し合います。家族のことにこれ以上領民を巻き込むわけにはいかない。」

「承知しております。セレーネ様のために我々管理部がいるのです。」

「ありがとう」

「泣かないでください!」

ウーゴはそう言って笑顔を見せる。


「あっれぇ?セレーネ様!」

「リベルト?」

「そうっすリベルトです!お久しぶりです!

え、泣いてる?ウーゴさん!セレーネ様を泣かせたんですか?」

「違う違う!むしろ逆だ!」

「待ってくださいリベルト、誤解です!それにもう泣き止みました!」

「そうっすか。それなら、、セレーネ様は笑顔でないと!」

歯を見せて無邪気に笑うリベルト


リベルトは環境統括管理者のウーゴの下で働いている。主な仕事は修繕工事だ。

ウーゴ曰く仕事の腕はピカイチでおそらくローゼ王国一二を争うほどらしい。

実際に修繕されたものを見たが壊れる前と遜色ない出来だった。




 ゴーーン、ゴーーン、ゴーーン、ゴーーン



領内の鐘が鳴った。


もうそんな時間なのか。


「ウーゴ、リベルト今日は会えて嬉しかったわ。

間伐の件で二人の力を借りるけど、どうかよろしくね」

「もちろんです」

「頼ってください!」




屋敷に戻りラントお兄様の悪事をまとめる


大きいのは3年前起きた領地売却の件

セレスティール領の山々の間伐資金が全て消えた

金額にすると8,000万ユルト


そして3ヶ月前の示談金の件

金額にすると15,000万ユルト


トータルして23,000万ユルト


領民が1ヶ月で稼ぐ金額が300ユルト

普通の領民が3,800年以上も費やして稼ぐ金額だ

他にも小さなものをまとめるとキリがない。

今までは兄だと甘く見ていたが領民に誠実であるために、私も父も現実と向き合わなければ。


「リナ、明日お父様の元へお伺いするわ。

医師を手配しておいてもらえるかしら」

「医師、でございますか?承知いたしました。

ビンセント様付きの者へ伝えておきます」

リナは訝しげな顔をしつつ答えた。


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