入るつもりのなかった部活
入学した高校は、生徒全員がなにかの部活に入部しろという学則がある。
知らずに入学した私は、部活オリエンテーションの一つに衝撃を受けた。
「ファンコミュニティを観察する会です! よろしくお願いします!」
太い黒縁眼鏡をかけた男性がマイクを持って熱弁していた。司会をやっていた生徒会からは「時間を過ぎてますのでそのへんで」と一度終わったかのようにみえたがそのまま話し続け、生徒会役員にマイクをもぎ取られてしまった。
クラスメイトは笑っていたが、入部する部活に迷っていた私は活動内容の少なさそうな、この『観察する会』が気になっていた。
他に、文芸部や天文部をリストアップしたが、全員入部の条件があるからなのかガツガツ真面目に活動している。
うーん、帰宅部に入りたかったんだけど、それは認められてないみたい。仕方ないから帰宅部的な部活に入りたい。主体性なんてなくていい。部室で趣味の合う先輩とおしゃべりしてから帰宅するぐらいの内容でいい。
ボーイズラブ小説研究会も気になるけど、一度も読んだことがない。いや、でもそれをいったら『観察する会』だってなんなんだ?
「部活決めた?」
「いやぁ、あのなんだっけ、観察する会? 話だけ聞きに行こうかなと思って」
「冷やかし? 行く行く」
よく話しかけてくれるクラスメイトに連れられて、部活棟の二階の端の扉を叩いた。
「入りたまえ」
ステージに立っていた先輩の声だ。
私たちは顔を見合わせ、頷いてノブを回した。
「失礼します。お話だけでも聞きたいと思い……」
「君、ひやかしだね? ひやかしは帰ってもらいたい」
先輩は私の話の途中で隣にいたクラスメイトを帰らせた。
「じゃ、また明日」
「……さて、邪魔者がいなくなったね。オリエンテーションを聞いて来てくれた新入生は君が初めてだ」
「は、はぁ」
そりゃそうだろう。制限時間をぶっちぎってよくわからない話だけしていたのだから。
「部長は僕だが、他に二人部員がいるのでなんとか部活の要件を満たしている。ファンコミュニティを観察し分析するのがこの会の活動内容だ」
「それはなにか、誰かのファンになったことない人でも大丈夫でしょうか」
「もちろん! むしろ冷静な視点を持っている素晴らしい人材だ!」
話が長い。だがしかし、ここなら部室に来て喋って帰っていく、それだけで活動がまわっているんじゃないだろうかと考えた。
先輩の話の内容はまったくわからない。
「それで、入部はどうする?」
「私、入ります!」
こうして入るつもりのなかった部活に入部したのだった。




