第31話 昔話と、言いかけた言葉
「そういえばさ」
ミーナが、何でもないことのように言った。
「私とユウト、幼馴染なんだよ」
一瞬、空気が止まる。
「……え?」
最初に声を出したのはアイラだった。 フレイも、ほんの一瞬だけ目を瞬かせてミーナを見る。
「幼馴染、って……どのくらいですか?」
「物心つく前から。家も近くて、気づいたら一緒にいた感じ」
「ちょ、ミーナ、それ言う必要あった?」
ユウトが慌てて口を挟む。
「あるでしょ。今さら隠すことでもないし」
ミーナは悪びれない。 むしろ、少し楽しそうだった。
「へえ……」
アイラが、じっとユウトを見る。
「じゃあ先輩、小さい頃からあんな感じだったんですね」
「あんな感じって何だ」
「ぼーっとしてて、転んで、すぐ泣いてそうな」
「してない」
「してたよ」
即答するミーナ。
「ほら」
「裏切るな!」
アイラが吹き出す。
「想像通りすぎて……すみません、先輩」
「謝ってる風で全然謝ってない」
その様子を見て、フレイが耐えきれずに小さく笑った。
「……想像、つきます」
「フレイさんまで!」
「すみません。でも、なんとなく……」
言葉を選びながらも、表情は柔らかい。
ユウトは、耳まで赤くなっていた。
「もういいだろ、その話は」
「だめ。まだある」
「あるな」
ミーナが続ける。
「昔ね、ユウト、壊れた魔導具を拾ってきて」
「やめろ!」
「“直せるかもしれない”って、夜まで分解してた」
アイラの目が、ぱっと輝いた。
「それ、何歳くらいの話ですか」
「十歳くらいかな」
「……早熟すぎません?」
「いや、ただの無謀」
ユウトが言うと、ミーナは首を振る。
「でも、ちゃんと動かしたよね」
一瞬、ユウトは言葉に詰まった。
「……まあ」
「そのときも言ってた」
ミーナは、少し懐かしそうに続ける。
「“誰かが困ってるなら、直せたほうがいい”って」
アイラが、ふっと笑う。
「先輩、今と何も変わってないですね」
「それ、褒めてる?」
「はい。たぶん」
フレイは静かにそのやり取りを聞いていたが、 少しだけ声を落として言った。
「……いい幼馴染ですね」
ミーナが、軽く肩をすくめる。
「まあ、長いだけ」
ユウトは、視線を逸らした。
こんなふうに自分の過去を語られるのは慣れていない。 まして、目の前にいる三人は――
全員が、同時発光した相手だ。
笑いがひと段落し、 会話が自然と落ち着いていく。
川の音が、静かに戻ってくる。
ユウトは、少しだけ間を置いた。
「……なあ」
三人の視線が集まる。
「さっきの話、楽しかった。でも」
一度、言葉を選ぶ。
「俺たち、そろそろ――」
そこで、言葉が止まった。
同時発光。 制度。 これからのこと。
軽く切り出せば、今の空気が壊れるのは分かっている。 でも、避け続けるわけにもいかない。
「……同時発光のこと、ちゃんと話さないといけないよな」
誰も、すぐには答えなかった。
沈黙。 けれど、それは重くない。
ユウトは、続けた。
「勝手に……決められる前に」
声は大きくなかった。 でも、その言葉だけは、はっきりしていた。
義務婚が国の制度であることは分かっている。 数値や判断が、必要な理由も理解している。
それでも。
選ぶ前に、決められるのは違う。
誰かを。 あるいは、自分自身の在り方を。
アイラは、ゆっくりとうなずいた。
「……はい。私も、そう思います」
ミーナは何も言わず、ただ視線を向ける。 その表情には、最初から分かっていたという色があった。
フレイは、少しだけ視線を落とし―― それから、静かに顔を上げる。
「……逃げない、ということですね」
その言葉に、ユウトは小さく息を吐いた。
「逃げない。でも、急がない」
答えはまだない。 けれど、逃げるつもりもない。
それだけは、四人の間で共有できていた。
川面の光が、ゆっくり揺れる。
昔話と、 言いかけた言葉。
その両方が、 確かに、今につながっていた。




