第26話 光が、重なった瞬間
会場は、まだ熱を帯びていた。
スクリーンには次の案内が映り、 通路ではスタッフが慌ただしく行き交い、 あちこちから興奮を含んだ声が聞こえてくる。
「すごかったな……」 「いや、ほんとに」
ユウトは会場後方で立ったまま、その空気を噛みしめていた。
(……成功、だよな)
技術者の目で見ても、発表会は文句のつけようがなかった。
新型マギボードの反応、デモ運用時の安定性、
観客のざわめきが、驚きから確信へ変わっていくあの流れ。
数値も、進行も、想定内。
――少なくとも「失敗」という言葉は、どこにもなかった。
隣でミーナが肩を伸ばす。
「正直、想像以上だった。
あそこまで会場が一体になるとは思わなかったな」
「マーケティング的にも、かなり強い演出でしたね」
アイラが続ける。
興奮はしているが、どこか冷静さを保った声だった。
「技術的な詰めも甘くなかったですし……
あの薄型化、内部配線の再設計、相当大変だったはずです」
「だよな」
ユウトは思わず笑った。
胸の奥に張りつめていた糸が、
ゆっくりとほどけていく感覚。
(……終わったんだ)
舞台の上で戦う時間は、もう過去になった。
今はただ、この場が“前に進んだ”という実感だけが残っている。
◇
「そういえば」
ミーナがユウトの腕に軽く触れながら、
会場内を見渡した。
「さっきのプレゼン、写真撮れてた。
記念に残したいでしょ?」
「撮ったの?」
「うん。あとでユウトに送る」
何気ない会話。
何気ない距離。
アイラもマギボードを操作しながら言う。
「ログも保存しておきました。
あとで見返すと、きっと恥ずかしくなりますよ、先輩」
「やめてくれ……」
三人で小さく笑う。
発表会の成功を、
“日常の延長”として受け止められる時間。
そのときだった。
三人の間に、短い沈黙が落ちた。
誰かが言葉を探す前の、ほんの一拍。
――視界の端に、制服の色が引っかかった。
(……あ)
無意識のうちに、そちらへ目を向ける。
会場の端。
出入り口付近。
警備担当の制服に身を包んだ、フレイの姿。
背筋を伸ばし、周囲を見渡す姿は、いつも通り凛としている。
だが、ふと視線がこちらに向いた気がした。
ほんの一瞬。
それだけで、胸の奥がざわつく。
(……話せなかったな)
発表会の最中、
すれ違うことはあっても、まともに話す時間はなかった。
暗闇で手を引いてくれたこと。
あの再会のときの、穏やかな笑顔。
(もう少し、話がしたい)
理由は、うまく言葉にできない。
ただ、このまま別れてしまうのが惜しい。
(……連絡先も、聞けてない)
今なら、まだ間に合うかもしれない。
そう思った瞬間――
「ユウト?」
ミーナが首を傾げる。
「どうした?」
「いや……」
視線を戻す。
「なんでもない」
自分でも驚くほど、声が柔らかくなっていた。
◇
そのとき。
手首に、微かな違和感が走った。
(……?)
ユウトは自分のマギボードを見る。
画面の縁。
淡く、光が滲んでいる。
「……気のせいか?」
次の瞬間、ミーナが声を上げた。
「え?」
同時に、アイラも自分のマギボードを見下ろす。
「……これ」
三人の視線が、自然と重なる。
色は、同じだった。
淡く、温度を持った光。
どこか懐かしく、安心感のある色。
「……発光?」
アイラが戸惑いながら呟く。
「でも、異常通知は出てません」
「俺のもだ」
ユウトの鼓動が早まる。
発光は、次第に強くなっていく。
互いに呼応するように、揃って。
(……なにが起きてる)
そのとき。
視線の先で、フレイが動いた。
彼女もまた、手元を見つめている。
――そして。
フレイのマギボードも、
同じ色に光っていた。
ユウトは、息を呑んだ。
偶然だと、まだ言い切れなかった。
重なった光が、
静かに、しかし確かに、
“次の物語”の扉を叩いていた。




