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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第26話 光が、重なった瞬間

会場は、まだ熱を帯びていた。

 スクリーンには次の案内が映り、  通路ではスタッフが慌ただしく行き交い、  あちこちから興奮を含んだ声が聞こえてくる。

「すごかったな……」 「いや、ほんとに」

 ユウトは会場後方で立ったまま、その空気を噛みしめていた。

(……成功、だよな)

 技術者の目で見ても、発表会は文句のつけようがなかった。

 新型マギボードの反応、デモ運用時の安定性、

 観客のざわめきが、驚きから確信へ変わっていくあの流れ。

 数値も、進行も、想定内。

 ――少なくとも「失敗」という言葉は、どこにもなかった。

 隣でミーナが肩を伸ばす。

「正直、想像以上だった。

 あそこまで会場が一体になるとは思わなかったな」

「マーケティング的にも、かなり強い演出でしたね」

 アイラが続ける。

 興奮はしているが、どこか冷静さを保った声だった。

「技術的な詰めも甘くなかったですし……

 あの薄型化、内部配線の再設計、相当大変だったはずです」

「だよな」

 ユウトは思わず笑った。

 胸の奥に張りつめていた糸が、

 ゆっくりとほどけていく感覚。

(……終わったんだ)

 舞台の上で戦う時間は、もう過去になった。

 今はただ、この場が“前に進んだ”という実感だけが残っている。

「そういえば」

 ミーナがユウトの腕に軽く触れながら、

 会場内を見渡した。

「さっきのプレゼン、写真撮れてた。

 記念に残したいでしょ?」

「撮ったの?」

「うん。あとでユウトに送る」

 何気ない会話。

 何気ない距離。

 アイラもマギボードを操作しながら言う。

「ログも保存しておきました。

 あとで見返すと、きっと恥ずかしくなりますよ、先輩」

「やめてくれ……」

 三人で小さく笑う。

 発表会の成功を、

 “日常の延長”として受け止められる時間。

 そのときだった。

 三人の間に、短い沈黙が落ちた。

 誰かが言葉を探す前の、ほんの一拍。

 ――視界の端に、制服の色が引っかかった。

(……あ)

 無意識のうちに、そちらへ目を向ける。

 会場の端。

 出入り口付近。

 警備担当の制服に身を包んだ、フレイの姿。

 背筋を伸ばし、周囲を見渡す姿は、いつも通り凛としている。

 だが、ふと視線がこちらに向いた気がした。

 ほんの一瞬。

 それだけで、胸の奥がざわつく。

(……話せなかったな)

 発表会の最中、

 すれ違うことはあっても、まともに話す時間はなかった。

 暗闇で手を引いてくれたこと。

 あの再会のときの、穏やかな笑顔。

(もう少し、話がしたい)

 理由は、うまく言葉にできない。

 ただ、このまま別れてしまうのが惜しい。

(……連絡先も、聞けてない)

 今なら、まだ間に合うかもしれない。

 そう思った瞬間――

「ユウト?」

 ミーナが首を傾げる。

「どうした?」

「いや……」

 視線を戻す。

「なんでもない」

 自分でも驚くほど、声が柔らかくなっていた。

 そのとき。

 手首に、微かな違和感が走った。

(……?)

 ユウトは自分のマギボードを見る。

 画面の縁。

 淡く、光が滲んでいる。

「……気のせいか?」

 次の瞬間、ミーナが声を上げた。

「え?」

 同時に、アイラも自分のマギボードを見下ろす。

「……これ」

 三人の視線が、自然と重なる。

 色は、同じだった。

 淡く、温度を持った光。

 どこか懐かしく、安心感のある色。

「……発光?」

 アイラが戸惑いながら呟く。

「でも、異常通知は出てません」

「俺のもだ」

 ユウトの鼓動が早まる。

 発光は、次第に強くなっていく。

 互いに呼応するように、揃って。

(……なにが起きてる)

 そのとき。

 視線の先で、フレイが動いた。

 彼女もまた、手元を見つめている。

 ――そして。

 フレイのマギボードも、

 同じ色に光っていた。

 ユウトは、息を呑んだ。

 偶然だと、まだ言い切れなかった。

 重なった光が、

 静かに、しかし確かに、

 “次の物語”の扉を叩いていた。

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