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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第25話 重なりかけた光

発表会の終わりを告げるアナウンスが流れると、会場を満たしていた熱気は、ゆっくりと形を失っていった。

 拍手は余韻を残したまま弱まり、観客たちは満足そうな表情で立ち上がり、出口へと向かっていく。

 大きな事件も、混乱もない。

 数字の上では、完璧に成功した発表会だった。

 それでも――

(……なぜでしょう)

 フレイは、胸の奥に残る落ち着かない感覚を、無意識のうちに押さえ込んでいた。

 警備担当としての役目は、ほぼ終わりに近づいている。

 魔力反応の警戒レベルは通常値。

 異常通知も、警告も、一切出ていない。

 それなのに、身体のどこかが、まだ緊張を解くことを拒んでいた。

 フレイはゆっくりと視線を巡らせる。

 帰路につく観客。

 機材を片付けるスタッフ。

 談笑しながら歩く技術者たち。

 ――そして、自然と視線が引き寄せられる先。

 会場の一角、まだ席を立たずに残っている三人の姿。

 ユウトと、二人の女性。

 彼らは発表会の余韻に浸るように、小声で話を交わし、ときおり笑みを浮かべていた。

 張りつめていた空気が、ようやく緩んだ後の、柔らかな時間。

(……)

 フレイは、自分でも驚くほど、その光景から目を離せずにいた。

 警備用の端末に視線を落とす。

 魔力反応――正常。

 数値の乱れなし。

 記録上、問題は一切ない。

 それでも、感覚が告げている。

 “揺らぎ方”が、いつもと違う。

 ユウトのマギボード。

 隣にいる二人のマギボード。

 それぞれが、独立した装置のはずだった。

 本来なら、干渉も、共鳴も起きない距離。

 だが今は――

(近い)

 フレイは、そう思った。

 意図して詰めた距離ではない。

 気づけば、自然とそこに集まってしまったような配置。

 ミーナはユウトのすぐそばに立ち、何気ない仕草で彼の腕や背中に触れている。

 長年の距離感が、そのまま残っているようだった。

 アイラは少し控えめな位置。

 それでも、ユウトに一番近い距離を無意識に保っている。

 そしてユウト自身は、二人に挟まれたその位置に、何の違和感も持っていない。

(……偶然、ですよね)

 フレイはそう結論づけようとした。

 偶然だ。

 発表会の余韻。

 感情が高ぶっているだけ。

 だが、視線は戻ってしまう。

 三人の手元。

 マギボードが起動している。

 画面を覗き込み、ログを確認し、波形を指差している。

 技術者同士の、ありふれた光景。

 数値は安定している。

 異常値は出ていない。

 発光もない。

(……正常)

 フレイは端末を操作しなかった。

 記録するほどの事象ではない。

 だが。

 わずかに、空気が揺れる。

 魔力が“反応しようとしている”ような、曖昧な気配。

 はっきりと形になる前の、曖昧な前兆。

 数値には現れない。

 だから、記録にも残らない。

 それでも、確かにそこにある。

 フレイは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

(……おかしいですね)

 制度は、安定を前提としている。

 数値化できないものは、扱わない。

 だから、これも“存在しない”はずだ。

 だが、目の前の光景は、否定できないほど自然だった。

 三人とも、楽しそうだった。

 緊張はなく、警戒もない。

 それぞれが、自分のマギボードを見せ合いながら、同じ時間を共有している。

 感情。

 距離。

 タイミング。

 その三つが、偶然重なっているだけ――

 そう言い聞かせるには、少しだけ、整いすぎていた。

 フレイは、深く息を吸い、警備担当としての意識を立て直す。

 職務は終わっていない。

 まだ、油断はできない。

 視線を会場全体へ戻す。

 出口付近、問題なし。

 魔力反応、変化なし。

 もう一度だけ、三人を見る。

 笑顔のまま、マギボードを操作している姿。

 何事も起きていない。

(……今は、まだ)

 フレイは、そう判断した。

 何かが起きるには、少し早い。

 条件は揃いかけているが、決定的な“引き金”がない。

 だから今日は、ここまで。

 フレイは端末を閉じ、視線を外した。

 拍手の余韻は、すでに会場から消えつつある。

 だが、その奥で、確かに“別の波”が生まれ始めていた。

 それが何かを、まだ誰も知らない。

 ――ただ、重なりかけた光だけが、静かに息を潜めていた。

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