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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第23話 整いすぎた拍手

発表会は、間違いなく成功していた。


 巨大なホールに満ちる光。

 天井から降り注ぐ魔導照明は柔らかく、しかし力強く、

 壇上に立つ新型マギボードを際立たせている。


 スクリーンには安定した数値。

 デモ映像は滞りなく再生され、

 会場のあちこちで記者たちの魔導端末が淡く光っていた。


 拍手が起きる。

 歓声が重なる。

 期待と高揚が、波のように広がっていく。


 誰がどう見ても、理想的な発表会だ。


 だが――


(……妙だな)


 レオン・ヴァレンタインは、壇上から客席を見渡しながら、

 胸の奥に残るわずかな違和感を無視できずにいた。


 数字は完璧だ。

 進行も滞りない。

 想定外の事象も起きていない。


 それなのに、

 どこか胸の奥が静かにざわついている。


(何が……引っかかっている?)


 理屈では説明できない感覚だった。


 成功の只中で感じるには、

 あまりにも不釣り合いな違和感。


 レオンは、自分自身を戒める。


(気にしすぎだ)


 今日という日は、

 自分が積み上げてきた年月の結晶でもある。


 完璧であるべきだし、

 完璧でなければならない。


 だが、その思考を遮るように――

 視線が、自然とある一点に向かっていた。



 客席の一角。


 その青年は、周囲と同じように拍手をしていた。


 手の動きも、視線の向きも、

 特別おかしな点はない。


 だが――

 なぜか目に留まる。


(……浮いている)


 それが、最も近い感覚だった。


 熱狂の渦の中にいながら、

 一歩だけ外側に立っているように見える。


 レオンは、無意識に目を細めた。


 ユウト。

 先代CEO、ハワード・レオンハルトの最後の弟子。


(見事な仕事だった)


 あのプレゼンは、誠実だった。

 技巧に溺れず、言葉を飾らず、

 それでも確かな芯があった。


 自分の思想とは、明確に異なる。


(同じ師に学びながら、か)


 その事実が、胸の奥に小さな棘を残す。


 比較するつもりはない。

 もう、そんな段階は過ぎている。


 それでも――

 心のどこかで、確かに意識してしまう。



 ハワードの技術は、重すぎた。


 それは事実だ。


 誰にとっても。

 弟子であろうとなかろうと、

 容易に扱える代物ではなかった。


 光は、力だった。

 そして、凶器にもなり得る。


 それをどう受け取るかで、

 弟子たちの未来は分かれた。


 レオンは、可能性を見た。


 制御し、管理し、

 世界を前へ進めるための力。


 恐れる理由はなかった。

 危険だからこそ、扱う価値がある。


 だが――


(ユウトは、違う)


 彼は、恐れたのではない。

 逃げたのでもない。


 あの目は、

 力そのものではなく、

 「その先にいる人」を見ていた。


(……守ろうとしたんだな)


 それは、決して容易な選択ではない。


 光を管理するよりも、

 人に寄り添う方が、

 ずっと不確実で、ずっと難しい。



 レオンは、再びユウトへ視線を向ける。


 青年の周囲には、三人の女性がいた。


 特別な動きはない。

 大げさな反応もない。


 ただ、自然に、そこにいる。


 それなのに――

 視線を離せなかった。


(気のせい……か?)


 今は、まだ判断する段階ではない。


 この場は、発表会だ。

 成功のための舞台だ。


 だが胸の奥で、

 小さな警鐘が鳴っている。


(……目を離すな)


 誰に言うでもなく、

 自分自身にそう言い聞かせる。


 拍手は、まだ続いている。


 だがその音の向こうで、

 別の“何か”が、確かに動き始めている気がしてならなかった。

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