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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第22話 揺れる光、揺るがぬ義務

会場は静まり返っていた。


 数千人規模の観客が集まっているとは思えないほど、音がない。

 聞こえるのは、壇上に立つレオン・ヴァレンタインの声と、空調が低く唸る音だけだ。


 フレイは会場最後尾、出入口付近に立ち、背筋を伸ばしていた。

 警備班として割り当てられた位置。非常時には最短距離で人の流れを制御できる、最も重要な場所のひとつだ。


 視線は常に動かしている。

 人の配置、立ち見客の密集具合、機材の死角。

 異変があれば、即座に対応できるように。


 ——それが仕事だ。


 けれど。


 壇上から響く声が、どうしても耳に残る。


「新型マギボードは、より軽く、より薄く。

 そして“日常に溶け込む魔導端末”として設計されています」


 レオンの声は、穏やかで自信に満ちている。

 聞く者を安心させ、同時に期待を抱かせる声だ。


(……さすがだ)


 フレイは内心でそう評価した。

 技術の話をしているのに、言葉は難解にならない。

 魔力の専門知識がない者にも、「便利になる」「生活が変わる」と直感的に伝わる。


 この人は、技術者でありながら支配者の声を持っている。

 それが、レオン・ヴァレンタインという男だった。


 フレイは、無意識に息を整えた。


 この国では、結婚は義務だ。

 恋愛ではない。自由選択でもない。


 魔力の安定を最優先に、数値によって組み合わされる。

 個人の幸福より、国家全体の均衡が重視される。


 冷たい制度だと、誰もが思う。

 けれど、それによってこの国は成り立ってきた。


 魔力は感情に左右されやすい。

 不安定な結婚は、不安定な魔力を生む。

 不安定な魔力は、国を揺るがす。


 だから、制度がある。


 選ばなくていいように。

 迷わなくていいように。


 それが、この国の「優しさ」だと、フレイは教えられてきた。


 ——だが。


 その考えに、別の声が重なった。


(……魔導具は、人の人生に寄り添うものであるべきだ)


 数十分前に聞いた、あの言葉。


 補助魔導具レゾナのプレゼンで、ユウトが語った言葉だ。


 揺れを否定しない。

 数値に届かない人を切り捨てない。

 「できない」を、「できるかもしれない」に変える。


 正しい。

 あまりにも、正しい。


(だからこそ……)


 フレイの指先が、無意識にイヤピースへ触れた。


 選択肢が増えれば、人は迷う。

 迷えば、立ち止まる。

 立ち止まる者が増えれば、結婚は遅れ、魔力は揺らぐ。


 制度は、その揺らぎを許容していない。


 ユウトの思想は、人を救う。

 だが同時に、制度の前提を壊しかねない。


(……扱いにくい光)


 否定したいわけではない。

 むしろ、否定できないからこそ厄介だった。


 フレイの視線が、自然と観客席の一角へ向かう。


 立ち見の最後列。

 三人並んで立っている姿が見えた。


 ユウト。

 そして、彼の両隣に立つ二人の女性。


 一人は、技術者の目をしている。

 説明の要点を逃すまいと、食い入るように壇上を見つめている。


 もう一人は、専門的な話は分からなくとも、純粋な期待を浮かべた表情で聞いている。


(……なるほど)


 フレイは、理由もなく胸の奥がざわつくのを感じた。


 あの距離感。

 あの空気。


 ユウトは、もう一人で光を見上げる人間ではないのかもしれない。


 レオンの説明は続く。


 軽量化された筐体。

 標準搭載された撮影機能。

 日常の記録と、魔力の変動を同時に残す設計。


 生活に寄り添う技術。

 便利で、魅力的で、そして——管理しやすい。


(……対照的だ)


 レオンのマギボードは、社会を安定させるための光。

 ユウトのレゾナは、個人を支えるための光。


 どちらも、間違っていない。


 けれど、同時に存在すれば、必ず軋轢が生まれる。


 フレイのイヤピースが、短く震えた。


『警備状況、どうだ』


「異常ありません。会場内、平常通りです」


 声は冷静だった。

 心の内を、一切含ませずに。


(……今日は、まだ)


 今日、この場で何かを判断する必要はない。


 ユウトの光は、確かに届いた。

 だが、それがどこまで広がるのか——

 それを見極めるのは、もう少し先でいい。


 フレイは視線を正面に戻し、再び警備担当としての顔になる。


 会場は、再びレオンの声に包まれていた。


 だがその静寂の底で、

 制度の下に押さえ込まれていた何かが、確かに動き始めている。


 フレイは、その気配から目を逸らさなかった。


 ——見届けるのが、自分の役目だと信じて。

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