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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第21話 示された“未来の形

観客席に辿り着いたとき、すでに空いている席は一つもなかった。


 ユウト、ミーナ、アイラは最後尾の壁際に並び、立ったままステージを見下ろす形になる。  周囲を見渡せば、同じように立ち見の関係者や招待客が何列も続いていた。


「……すごい人だね」


 ミーナが小さく呟く。  その声には、素直な驚きが滲んでいた。


「ライオネル社の発表会ですから」  アイラは眼鏡の奥でステージを睨むように見つめる。 「それに、今日はレオンCEOが直々に説明すると聞いています」


 その名前が出た瞬間、周囲の空気がさらに張り詰めたように感じられた。


 ざわめきが、波のように広がっている。  期待と、熱と、ほんの少しの緊張。


 そして——


 照明が、落ちた。



 一瞬で、会場が静まり返る。


 次の瞬間、巨大な魔導スクリーンが起動し、淡い光が天井から降り注いだ。  魔力粒子が視覚化され、空間そのものが“演出”へと変わる。


 スクリーン中央に浮かび上がる文字。


〈Λ(ラムダ)シリーズ ― 次世代マギボード〉


 それだけで、会場が沸いた。


 割れんばかりの拍手。  歓声。  記録用の魔導機器が一斉に光を放つ。


 そして、光の中心へ——

 一人の男が歩み出た。


「本日は、お集まりいただきありがとうございます」


 レオン・ヴァレンタイン。  ライオネル・デバイス社CEO。


 派手な動作は一切ない。  だが、ただ立つだけで、場を制圧する圧があった。


「我々は本日、単なる新製品ではなく——

 これからの生活と選択の基準を提示します」


 低く、よく通る声。  一言ごとに、会場が静まっていく。


 ユウトは、無意識のうちに息を整えていた。


(……すごい)


 技術者として。  そして一人の人間として。  その姿に、純粋な憧れを抱かずにはいられなかった。



「まず、お伝えしたいのは“進化の方向性”です」


 スクリーンに、従来型と新型のマギボードが並んで映し出される。


「Λシリーズは、従来比で約三割の軽量化、二割以上の薄型化を実現しました」


 会場がどよめく。


「魔力回路を層構造から流路一体型へ変更し、

 装着感と安定性を同時に向上させています」


 アイラの目が、わずかに見開かれた。


「……層構造、捨てたんだ」  小さく呟く。 「思い切った設計ですね……」


 ユウトも、スクリーンに映る構造図から目を離せずにいた。  理論上は理解できる。  だが、実装難度は相当なものだ。


 一方で——


「軽そうだね」  ミーナは、素直な感想を口にする。 「ずっと着けてても邪魔にならなさそう」


 その言葉に、アイラは小さく息を吐いた。  技術者と一般利用者の視点の差。  それが、はっきりと現れている。



「次に——Λシリーズでは、新たに記録機能を標準搭載しました」


 スクリーンに、映像ログのデモ画面が映し出される。


「映像、音声、そして魔力波形。  すべてを時系列で保存・解析できます」


 再び、会場がざわついた。


「婚活面談、交際過程、トラブル対応。  あらゆる場面で、記録は嘘をつきません」


 その言葉が、ユウトの胸に引っかかる。


(……そこまで、残すのか)


 便利だ。  合理的だ。  だが同時に、逃げ場がなくなる。


「安心できるね」  ミーナは頷く。 「証拠が残るなら、怖い思いしなくて済む」


 それも、確かに正しい。



「そして——最も重要な点です」


 レオンは一拍置き、続けた。


「Λシリーズでは、魔力相性を“固定値”ではなく、

 推移として可視化します」


 スクリーンに、緩やかに変化するグラフが表示される。


「時間とともに上がる相性。  努力しても改善しない相性。  それらを、判断材料として提供します」


 会場は、完全に静まり返っていた。


「未来は固定されていません。

 ですが、変化の方向性は読み取れる」


 アイラは、思わず息を呑む。  理論としては、美しい。  あまりにも。


 ユウトは、拳を軽く握った。


(……人は、グラフ通りに動くのか?)



「最後に」


 レオンは、穏やかに微笑んだ。


「生活リズム、体調、魔力消費。  Λシリーズは、日常そのものを最適化します」


「安定した生活は、安定した魔力を生む。

 それは、国家にとって最も重要な基盤です」


 拍手が起こる。  称賛の嵐。


 ミーナは、素直に感心していた。 「すごいね……こんなの、あったら助かる人多いよ」


 アイラは、何も言わずにスクリーンを見つめている。  ユウトもまた、言葉を失っていた。



 そのとき。


 会場入口付近で、警備に立つフレイが視線を動かした。


(……いた)


 最後尾。  三人並んだその姿。


 ユウトは、こちらに気づいていない。  だが、フレイは確かに彼を認識していた。


 拍手と歓声の中で。  示された“未来の形”。


(……あなたは、どう受け取るんですか)


 フレイは、心の中でそう問いかける。


 レオンの声が、再び会場に響いた。


「これが、Λシリーズです」


 光が、スクリーンいっぱいに広がる。


 その輝きの中で、  それぞれが、違う答えを胸に抱いていた。


 ——未来は、まだ分岐点にあった。


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