第20話 舞台裏の熱
舞台で浴びた光の感覚が、まだ体に残っていた。
ユウトがステージ裏の通路へ戻った瞬間、空気が一変する。
待っていたのは、拍手ではなく――熱だった。
「お疲れさま!」
「いや、すごかったよ!」
「レゾナ……あれは正直、刺さった」
声が、次々に降ってくる。
差し出される手。軽く叩かれる肩や背中。
そこにいるのは、レゾナの開発に関わった者だけではなかった。
別の魔導具班、別の分野の技術者たち。
皆、同じような目をしていた。
それは――報われなかった夜を知っている目。
誰にも理解されない調整を、何度も積み重ねてきた者の目だった。
ユウトはその中心で、少し戸惑いながらも、次第に笑顔になっていく。
「……ありがとうございます」
言葉はそれだけだったが、胸の奥がじんと熱くなる。
――吐き出したのだ。
自分たちが、ずっと抱えてきた思いを。
壇上で、あの言葉にして。
それが伝わった。
それだけで、十分だった。
◇
興奮が収まりきらないまま、ふと視線が動く。
人の波の向こう。
まっすぐこちらへ歩いてくる人物がいた。
金色の長い髪。
穏やかな笑み。
ミーナだった。
人をかき分けるように近づいてきて、ユウトの前で立ち止まる。
「……やっと終わったね」
柔らかな声。
けれど、その表情は隠しきれないほど明るい。
「うん……終わった」
「堂々としてた」
即答だった。
「正直、あそこまで言うとは思ってなかったけど……
でも、あなたらしい」
ミーナは、ぱちぱちと小さく拍手をする。
「誇らしかったよ。
“ああ、この人は、こういう人だった”って」
「……それ、褒めてる?」
「もちろん」
当然のように言って、少しだけ距離を詰める。
「たくましくなったね、ユウト」
その一言に、胸の奥がくすぐったくなる。
「そうでもないよ」
「そう言うところは、変わらないけど」
二人が微笑み合った、そのときだった。
「……先輩」
聞き慣れた声が、割って入る。
振り返ると、アイラが立っていた。
息は少し上がっているが、表情は落ち着いている。
「来てたんだ」
「当然です。
逃すわけないじゃないですか」
そう言ってから、ほんの一拍置く。
「……本当に、すごかったです」
声は静かだが、目はまっすぐだった。
「技術の話なのに、“人の話”でした。
あれ、同じ技術者じゃないとできません」
「……そうかな」
「そうです」
即答だった。
それから、ふっと表情を緩める。
「ただまあ……」
肩をすくめ、少しだけ口調を崩す。
「先輩があんなに堂々としてるのは、
正直、反則だと思いましたけど」
「反則?」
「こっちは必死に追いつこうとしてるのに、
いつの間にか、一段上に立ってるんですから」
「そんなつもりは……」
「はいはい。
そう言うところです」
軽くいじるように言ってから、視線を逸らす。
「でも……誇らしいです。
ちゃんと、評価されて」
その言葉は短く、まっすぐだった。
◇
ユウトは一瞬、言葉に詰まり――それから、隣を見る。
「……紹介する」
二人の間に立つように言った。
「こっちがミーナ。
昔からの知り合い」
ミーナは、にこりと微笑む。
次に、アイラを見る。
「で、こっちはアイラ。
同じ開発チームの後輩だ」
アイラは一礼するだけで、それ以上踏み込まない。
ミーナも同様に、穏やかに頷いた。
そのとき、会場内にアナウンスが流れる。
『まもなく、Λ(ラムダ)シリーズ・マギボードのデモ運用解説を開始します』
ざわめきが、再び会場を満たしていく。
ユウトは、ほんの一瞬だけ、会場の奥――来賓席の方角へ視線を向けた。
そこに、誰がいるのかは分からない。
けれど、なぜか気になった。
「……あの人の話も、聞いてみたいんだ」
無意識のまま、そう口にしていた。
それから、二人を見る。
「一緒に、行かない?」
「はい」
「うん」
三人は並び、再び会場へ向かって歩き出す。
舞台は、まだ続いている。
だが、確かに何かが動き始めていた。
ユウトはその気配を、
まだ言葉にできないまま、胸の奥で感じていた。




