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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
32/50

第20話 舞台裏の熱

舞台で浴びた光の感覚が、まだ体に残っていた。


 ユウトがステージ裏の通路へ戻った瞬間、空気が一変する。

 待っていたのは、拍手ではなく――熱だった。


「お疲れさま!」

「いや、すごかったよ!」

「レゾナ……あれは正直、刺さった」


 声が、次々に降ってくる。

 差し出される手。軽く叩かれる肩や背中。


 そこにいるのは、レゾナの開発に関わった者だけではなかった。

 別の魔導具班、別の分野の技術者たち。


 皆、同じような目をしていた。

 それは――報われなかった夜を知っている目。

 誰にも理解されない調整を、何度も積み重ねてきた者の目だった。


 ユウトはその中心で、少し戸惑いながらも、次第に笑顔になっていく。


「……ありがとうございます」


 言葉はそれだけだったが、胸の奥がじんと熱くなる。


 ――吐き出したのだ。

 自分たちが、ずっと抱えてきた思いを。

 壇上で、あの言葉にして。


 それが伝わった。

 それだけで、十分だった。



 興奮が収まりきらないまま、ふと視線が動く。


 人の波の向こう。

 まっすぐこちらへ歩いてくる人物がいた。


 金色の長い髪。

 穏やかな笑み。


 ミーナだった。


 人をかき分けるように近づいてきて、ユウトの前で立ち止まる。


「……やっと終わったね」


 柔らかな声。

 けれど、その表情は隠しきれないほど明るい。


「うん……終わった」


「堂々としてた」


 即答だった。


「正直、あそこまで言うとは思ってなかったけど……

 でも、あなたらしい」


 ミーナは、ぱちぱちと小さく拍手をする。


「誇らしかったよ。

 “ああ、この人は、こういう人だった”って」


「……それ、褒めてる?」


「もちろん」


 当然のように言って、少しだけ距離を詰める。


「たくましくなったね、ユウト」


 その一言に、胸の奥がくすぐったくなる。


「そうでもないよ」


「そう言うところは、変わらないけど」


 二人が微笑み合った、そのときだった。


「……先輩」


 聞き慣れた声が、割って入る。


 振り返ると、アイラが立っていた。

 息は少し上がっているが、表情は落ち着いている。


「来てたんだ」


「当然です。

 逃すわけないじゃないですか」


 そう言ってから、ほんの一拍置く。


「……本当に、すごかったです」


 声は静かだが、目はまっすぐだった。


「技術の話なのに、“人の話”でした。

 あれ、同じ技術者じゃないとできません」


「……そうかな」


「そうです」


 即答だった。


 それから、ふっと表情を緩める。


「ただまあ……」


 肩をすくめ、少しだけ口調を崩す。


「先輩があんなに堂々としてるのは、

 正直、反則だと思いましたけど」


「反則?」


「こっちは必死に追いつこうとしてるのに、

 いつの間にか、一段上に立ってるんですから」


「そんなつもりは……」


「はいはい。

 そう言うところです」


 軽くいじるように言ってから、視線を逸らす。


「でも……誇らしいです。

 ちゃんと、評価されて」


 その言葉は短く、まっすぐだった。



 ユウトは一瞬、言葉に詰まり――それから、隣を見る。


「……紹介する」


 二人の間に立つように言った。


「こっちがミーナ。

 昔からの知り合い」


 ミーナは、にこりと微笑む。


 次に、アイラを見る。


「で、こっちはアイラ。

 同じ開発チームの後輩だ」


 アイラは一礼するだけで、それ以上踏み込まない。

 ミーナも同様に、穏やかに頷いた。


 そのとき、会場内にアナウンスが流れる。


『まもなく、Λ(ラムダ)シリーズ・マギボードのデモ運用解説を開始します』


 ざわめきが、再び会場を満たしていく。


 ユウトは、ほんの一瞬だけ、会場の奥――来賓席の方角へ視線を向けた。


 そこに、誰がいるのかは分からない。

 けれど、なぜか気になった。


「……あの人の話も、聞いてみたいんだ」


 無意識のまま、そう口にしていた。


 それから、二人を見る。


「一緒に、行かない?」


「はい」


「うん」


 三人は並び、再び会場へ向かって歩き出す。


 舞台は、まだ続いている。

 だが、確かに何かが動き始めていた。


 ユウトはその気配を、

 まだ言葉にできないまま、胸の奥で感じていた。

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