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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第13話 三人の視線が交わる場所で

フレイと話していた僕の耳に、軽い足音が近づいてきた。


「先輩、資料戻りました――って、あれ?」


 振り向くと、アイラが立っていた。

 手には技術資料の束。けれど視線は、僕ではなくフレイへ向けられている。


「先輩、その……こちらの方は?」


「あ、えっと――」


 言葉が詰まる。

 そんな僕の様子を見て、フレイが一歩前に出て静かに頭を下げた。


「婚活庁のフレイ・アステルと申します。

 本日は発表会の警備担当で参りました」


「婚活庁……? ということは、公的機関の……」


「はい。ユウトさんとは、以前 業務の一環で ご一緒したことがあって」


 フレイはほんのわずか、目元を緩めた。

 あくまで穏やかで丁寧な紹介。しかしその一言には、微かな “親しさ” が滲む。


 アイラのまつ毛が、ぴくりと揺れた。


「……先輩の知り合いだったんですね。いつの間に、そんな」


「いや、その……本当に偶然だっただけで」


「偶然、ですか」


 アイラは小さく瞬きをして、気配を整える。


「私はアイラ・ハート。

 ライオネル・デバイス社で先輩の補佐をしています。本日は技術資料のサポートで来ています」


「アイラさん。先ほどお見かけしました。

 慌ただしい現場の中でも落ち着いて動いていらっしゃいましたね」


「え、あ、ありがとうございます……」


 褒められたアイラは、一瞬だけ戸惑ったように俯く。

 その反応が珍しくて、僕は思わず横目で見てしまった。


 フレイは気づいたように、柔らかく微笑む。


「ユウトさんは……とてもお仕事熱心な方ですね」


「えっ」


「資料に向き合う姿勢も、説明も。

 先ほど少しだけ拝見しましたが……真摯な方だと」


「そ、そうですか……?」


「はい」


 落ち着いた声なのに、なぜか胸が熱くなる。

 アイラはその横顔をじっと見つめていた。


(……先輩、そんな顔するんだ)


 言葉にはしないけれど、その視線が確かに語っている。



 そのとき、フレイの耳元で小さな電子音が鳴った。婚活庁専用の無線機だ。


「……アステルです。

 はい、持ち場近くの点検区域にいます。すぐ戻ります」


 柔らかな声なのに、仕事の口調になると凛とする。

 無線を切り、こちらへ向き直った。


「そろそろ本当に戻らなければなりません。

 おふたりとも、お仕事頑張ってください」


 そう言って軽く頭を下げると、僕へ視線を寄せた。


「ユウトさん。プレゼン……応援しています」


「……ありがとうございます」


「楽しみにしていますね」


 多くを言わない。

 けれど静かで温かい“支え”が、はっきり伝わった。


 フレイは優雅に歩き出し、スタッフたちの列の中へ消えていった。



 残された沈黙を、アイラが破る。


「……先輩」


「ん?」


「婚活庁の方と、いつの間にそんな仲良くなったんですか?」


「仲良くって……別に、そんな……」


「“業務の一環で”ご一緒したって言ってましたけど?」


「まあ……ちょっとした出来事があって」


「へえ……」


 アイラの声は、ほんのわずかだけ低い。

 けれど次の瞬間には、いつもの調子に戻っていた。


「ま、いいです。あとで詳しく聞くので覚悟しててくださいね、先輩」


「え、なんで覚悟……?」


「なんとなく! そういう気分なんです!」


 言い放つように言うのに、どこか視線が揺れている。


「……そろそろ持ち場に戻りますよ。次の確認もありますし」


「あ、ああ」


 アイラは踵を返し、歩き出す。

 けれど数歩先でふと足を止めた。


「先輩、その……プレゼン、頑張ってください」


 振り返らず、それだけ言って。


 アイラは再び歩き、スタッフの流れに消えていった。


 胸の奥に、微かな痛みのようなものが残った。


(……本当に、なんなんだ今日)


 揺れた空気のまま、僕は深く息をついた。


 発表会の幕が、静かに上がろうとしていた。


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