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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第12話 静かな再会、揺れる息

その声を聞いた瞬間、胸の奥がかすかに震えた。


「……ユウトさん?」


 振り返ると、フレイが立っていた。


 落ち着いた赤髪が照明を受けてやわらかく揺れ、

 婚活庁の制服が凛とした雰囲気をまとわせている。


 暗闇で隣にいたはずなのに――

 こうして光の下で向き合うと、まるで違った印象になる。


「フ、フレイさん……。本当に……」


 言葉の続きが見つからなかった。


 フレイは、驚いたように目を瞬かせてから、静かに微笑んだ。


「今日の発表会に警備として入っているんです。

 名簿に“カザミ”とあって……もしかしてと思いました」


「そ、そうなんですか……。僕は、その……仕事で」


 説明しようとすると喉がつまる。

 普段なら淡々と話せるのに、今は息がうまくつながらない。


 フレイは、そんな僕を責めるような目で見たりしない。

 ただ、続きを待つみたいに、ゆったりと頷く。


「補助魔導具の開発協力で……少し話す機会があって」


「すごいですね。

 あの時、暗闇で私を導いてくださった方が……

 こうして前に出る役割もされているなんて」


「い、いや……導いたなんて、そんな……」


 否定しながらも、胸が少し熱くなる。


 フレイは目線を落とし、ほんのわずか息を整えてから言った。


「……避難訓練のこと、思い返していました。

 静かだったのに、不思議と安心して……」


 語り口は静かで、控えめで、でも心の奥まで響いてくる。


「僕も……です。

 また……どこかで話せたらって。ずっと、思ってました」


 言葉にした瞬間、逃げ場がなくなる。

 それでも――嘘ではなかった。


 フレイの瞳が、ほっと揺れた。


「……そうだったんですね。

 それを聞けて……本当に、よかったです」


 その声は柔らかいのに、胸に深く落ちてくる。



 ふと、フレイが辺りを見回し、少し表情を引き締めた。


「持ち場からあまり離れられないので……

 あまり長くはお話しできないのですが」


 名残惜しそうなその仕草が、かえって胸を締めつける。


「でも……またお話しできたら嬉しいです。

 あなたとなら、落ち着いて話せそうですから」


「僕も……そう思います」


 言った瞬間、空気が静かに近づいた気がした。



 そして――

 フレイがわずかにためらいを見せたあと、胸ポケットに触れた。


「もし……迷惑でなければなのですが」


 ゆっくりと、マギボードを両手で取り出す。


「連絡先……交換していただけませんか?」


 控えめなのに、確かな勇気。

 押しつけがましくないのに、はっきり伝わる“会いたい”の気配。


「も……もちろんです!」


 返事が強すぎたのか、フレイは目を丸くした。


「ふふ……そんなに急がなくても大丈夫ですよ」


「い、いや……その、嬉しくて……」


「……はい。私も、少しだけ」


 マギボードを合わせた指先が触れる。

 一瞬だけの接触なのに、胸が跳ねた。



「ユウトさんの発表……応援しています。 あなたなら、きっと大丈夫です」


「……ありがとうございます。しっかりやります」


 会話はそこで一度落ち着いた。 けれどフレイは、すぐに離れようとはせず、

 ほんの少しだけ周囲を気にしながら、僕のそばに立ち続けていた。


 終わりにしたくない気持ちが、互いに残っているような静けさ。


 その空気を――


「…………」


 少し離れた場所で、アイラがじっと見つめていた。


 胸に抱えた資料をきゅっと握りしめ、 ユウトの柔らかい横顔と、

フレイの落ち着いた微笑みを、黙って見比べる。


(先輩……そんな顔、するんだ……)


 アイラはひとつ息を吸って、 そしてゆっくりと二人へ歩き出した。


――次の瞬間、気配に気づいたフレイがそちらへ顔を向ける。


 再会の余韻に満ちていた空気が、 静かに、しかし確かに動きはじめた。


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