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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第11話 巨大な会場と、突然の呼び出し

 会場の裏口は、想像していたよりずっと広かった。


 魔力機材を運び込むスタッフ。

 来賓用フロアを整える係。

 天井近くで巨大スクリーンの映像を最終調整している技術班。


 そのすべてが、〈ライオネル・デバイス社〉という巨大企業の本気を物語っていた。


「……すごいな。映像で見るのと、全然違う」


 思わず漏れた独り言に、隣のアイラが小さく笑う。


「先輩、完全に“見学ツアーの人”みたいな顔してますよ」


「初めてなんだから、仕方ないだろ……」


「私は、先輩が緊張しすぎて途中で倒れないかだけ心配してます」


「倒れないって。たぶん」


「“たぶん”はいりません。確定でお願いします」


 軽い会話のラリー。

 それだけで、胸の奥のこわばりが少しほぐれていく。



 スタッフ用通路を抜けると、プレゼン参加者用の待機エリアに出た。


 壁一面の魔導スクリーンにはプログラムが表示され、

 係の人間が次々と時間と順番を確認している。


 魔力安定装置の出力をチェックする技術者。

 全体進行を仕切る監督役。

 どこを見ても、“失敗を許さない空気”が漂っていた。


(……ここで、話すのか。僕も)


 喉が、ひゅっと細くなる。


 そんなとき、袖口をちょん、と引っ張られた。


「先輩」


「……ん?」


「大丈夫ですよ」


 アイラは、いつもの軽口より少しだけ真面目な声で言った。


「レゾナの波形、最後まで追い込んだの先輩じゃないですか。

 あれ、本当に地味にすごいことなんですよ?」


「地味って言うなよ……」


「褒めてます。全力で褒めてます」


 そう言って、アイラは小さくうなずく。


「自信なくなったら、“あの時の調整作業”を思い出してください。

 あれをやれた人なら、今日のプレゼンぐらい平気です」


「……アイラ」


「はい?」


「ありがとな。だいぶマシになった」


「どういたしまして。先輩専属の緊張ほぐし係なので」


「そんな係、正式には存在しないけどな」


「今ここに設立しました」


 ふっと笑い合った、そのタイミングだった。



「アイラ・ハートさん? 技術資料の確認、お願いできますか」


 近くにいた女性スタッフが声をかけてくる。


「あっ、はい! すぐ行きます!」


 アイラはくるりとこちらを振り返った。


「先輩、ちょっとだけ離れますね。……絶対に迷子にならないでくださいよ?」


「ならないよ」


「さっき裏口で『右? 左? どっち?』って言ってた人の言葉とは思えませんけど?」


「あれは構造が分かりづらかっただけで……」


「はいはい、その言い訳はあとでちゃんと聞きます」


 くすっと笑って、アイラは軽く手を振る。


「じゃ、行ってきます。深呼吸、忘れないでくださいね」


「ああ」


 そうして彼女はスタッフに案内され、通路の奥へと消えていった。


 さっきまで騒がしかった周囲の音が、急に遠くなる気がした。



 一人になると、緊張が戻ってくる。


(……深呼吸、か)


 アイラの言葉を思い出し、鼻からゆっくり息を吸って、口から吐く。


 胸の奥で、鼓動がどこか不規則に跳ねた。


(大丈夫だ。やることは決まってる。

 レゾナの仕組みと、ラムダシリーズとの連携。

 それを落ち着いて話すだけ――)


(ここまで来たんだ。逃げる理由は、もうない)


 そう思った、そのとき。


「……ユウトさん?」


 背中に、静かな声が落ちた。


 柔らかくて、少し低めで、どこか懐かしい響き。


 振り返らなくても、誰かは分かる。


 暗闇の通路で、何度も心の中でその声を反芻した。


(……フレイさん)


 鼓動が、さっきまでとは別の意味で、大きく跳ねる。


 ゆっくりと振り向いた先で――


 赤みを帯びた髪を揺らしながら、

 婚活庁の制服に身を包んだフレイが、静かに僕を見つめていた。


 再会は、本当に、いつだって前触れもなくやってくる。

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