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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第8話 試着室のカーテンが開くとき

「じゃあ……行きましょうか、先輩」


アイラが歩き出す。

コンタクトのせいなのか、横顔がやけに大人びて見えた。


(……いや、気のせいだろ)


そう言い聞かせつつ、僕はそのあとをついていく。



王都中心街にある大型モール。

魔導具、衣料、雑貨、飲食――なんでもそろう巨大施設だ。


アイラはいつもより歩幅が小さい。

けれど軽やかで、楽しそうで、どこか控えめでもあった。


「先輩。今日は“仕事用の服”が目的なので……シンプルで清潔感があって、ラムダシリーズの会場に出しても恥ずかしくないやつを選びます」


「そんなに気合い入れるイベントか?」


「入れます。全員入れます。会社も全力です」


「そ、そうなのか」


アイラは真面目に言うが、歩く足取りは少し弾んでいた。


「あと……先輩はシルエットが綺麗に出る服が似合う気がするので」


「え?」


「い、いえ! なんでもないです!」


照れを誤魔化すみたいに、アイラはそそくさと店に入っていった。


僕はよく分からないまま、そのあとに続いた。



紳士服のショップ。


「先輩、これとかどうでしょう」


アイラが取り出したのは、落ち着いたネイビーのジャケットと白いシャツ。


「こういう服、着たことあります?」


「ない。式典用だろ、これ……」


「式典じゃなくても、プレゼンは“顔”になるので」


布地を指でつまんで質感を確かめるアイラの手つきが、妙に丁寧だ。


「ここのラインが綺麗で……肩幅も先輩に合いそうです」


「そんなに分かるのか?」


「毎日見てますから」


「え?」


「っ……仕事で! 同じ部署で! そういう意味ですから!」


アイラは真っ赤になって固まった。


(なんでそんなに慌ててるんだ……?)


とりあえず、言われた通り試着室へ向かう。



カーテンを開けた瞬間、アイラの視線が吸い寄せられるように僕を見た。


「どう、かな」


僕としては、ただのジャケット姿のつもりだったが――


「……」


「アイラ?」


「……似合いすぎです」


「に、にあ……?」


アイラは慌てて姿勢を正し、真面目な声で言い直す。


「す、すみません。えっと……先輩、その……意外とジャケットが……その……」


言葉は途中で消えたが、頬はほんのり赤い。


「似合います。これは採用です」


「は、はい」


「あと……袖を少し折るとバランスが良くなるんですけど」


そう言うと、アイラはそっと僕の腕へ伸ばし――

指先が、シャツの袖口に触れた。


「あ……」


「ご、ごめんなさい! 触るつもりじゃ……その……!」


「い、いや。問題ないけど……」


距離が近い。

職場ではこんなこと、なかったはずだ。


「えっと……続き、見ますね」


すぐに距離を取り、深呼吸するアイラ。


その耳が、ほんのり赤い。


(なんだこれ……)


僕は袖を見て、小さくため息をついた。


(服選ぶだけでこんなに疲れるものか……?)


でも――

アイラが嬉しそうにしているのを見ると、悪い気分ではなかった。


「先輩、次はネクタイ選びです!」


アイラがぴょこっと顔をのぞかせ、ふわりと笑う。


「……了解」


こうして僕とアイラの初めての休日は、

不思議なほど穏やかに進んでいった。



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