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義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
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第7話 休日仕様のアイラ、破壊力が強すぎる

休日の午前。

 待ち合わせ場所の広場に、僕は約束の時間より少し早く着いていた。


 特に理由があるわけじゃない。

 家でだらだらしているよりは、とりあえず出ておこう、くらいの気分だ。


 人通りの少ないベンチを見つけて腰を下ろし、

 マギボードを取り出す。


 ニュースを流し見して、適当に魔導具レビューのコンテンツを眺めていると、

 時間だけはそれなりに早く過ぎていく。


(そろそろかな)


 時計表示に目を落とした、そのとき。


「先輩。お待たせしました」


 聞き慣れた声に顔を上げて――僕は一瞬、動きを止めた。


 そこに立っていたのは、たしかにアイラだった。

 けれど、いつもの職場で見る彼女とは、まるで印象が違って見えた。


 ライトブラウンの髪は、ふわりと内側にまとまるボブに整えられていて、

 いつもかけているメガネはなく、

 くっきりとした瞳がそのまま、まっすぐこちらを見ている。


 白いブラウスは袖がほんの少しだけふんわりしていて、

 紺のミディ丈スカートが足元で静かに揺れていた。

 全体としては落ち着いた服装なのに、不思議と目を引く。


「……アイラ?」


「はい。アイラですけど?」


 当たり前のように返されても、すぐにはうまく言葉が出てこない。


「あ、えっと……その、だいぶ雰囲気違って見えたから」


「そうですか?」


 アイラは軽く瞬きをしてから、

 自分の髪に触れるようにそっと耳にかけた。


「今日はコンタクトなんですよ。メガネなしで出かけるの、久しぶりで」


「コンタクト……なるほど」


 妙に納得してしまう。

 メガネという“枠”がないだけで、こんなにも印象が変わるものなのか。


「変じゃないですか?」


 少しだけ不安そうに、アイラが尋ねてくる。


「変ではない。……というか」


 言いながら、自分でも言葉を選んでいるのが分かる。


「すごく……似合ってると思う」


「……っ」


 アイラの瞳が、わずかに揺れた。


 すぐに表情を整えたものの、

 頬にほんのり色が差しているのは分かる。


「そういうの、さらっと言うのずるいですね、先輩」


「え? なんか変なこと言ったか?」


「いえ。……悪い意味じゃないです」


 視線を少しだけ落とし、

 それから、ふっと柔らかく笑う。


「似合ってないって言われたらどうしようかと思ってましたけど、

 それなら……まあ、今日はこれで正解ってことにしておきます」


「正解だと思うよ」


「ふふ。ならよかったです」


 さっきまでより、少しだけ声のトーンが軽くなった気がした。


「先輩の方こそ、その服、ちゃんとしてますね」


「ああ……アイラに“適当に選んだらダメ”って言われたからな」


「言いましたね、そういえば。

 でも、そのくらいならプレゼン会場でも浮かないと思いますよ」


「それは何よりだ」


「じゃあ――」


 アイラは、商業通りの方へ視線を向けた。


「ここからが本番ですね。先輩の服を揃えに行きましょう」


「……やっぱり逃げる選択肢はない?」


「ありません」


 即答だった。


「せっかくプレゼンに呼ばれてるんですから。

 ユウト先輩には、“ちゃんとしてるマギボード技師さん”に見えてもらわないと」


「“ちゃんとしてない”前提で話してない?」


「普段の作業着を見てると、どうしてもですね」


「ひどくない?」


「事実ですから」


 言葉は相変わらず遠慮がないが、

 口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。


「まあ、おかげで助かってるけど」


「素直に感謝されると、ちょっと照れますね」


 アイラは小さく息を吐いて、

 それから一歩、僕の方へ近づいた。


「じゃ、行きましょう。

 先輩のサイズは、だいたい把握してますから」


「把握してるのか?」


「毎日、同じフロアで見てますからね。

 職業柄、観察眼には自信あるんです」


「……なんか、監視されてるみたいに聞こえるんだけど」


「そんなつもりはありませんよ?」


 そう言いながら、やっぱりどこか楽しそうだ。


 並んで歩き出すと、

 仕事のときより、ほんの少しだけ距離が近いように感じた。


(……休日に後輩と服を買いに行くなんて、考えてみれば不思議な状況だな)


 そう思いながらも、別に嫌な感じはしない。


 ライトブラウンの髪が揺れるのを横目に見ながら、

 僕はアイラと並んで、賑やかな通りへと足を踏み出した。


 ――プレゼン用の服を選ぶための“休日”が、静かに始まった。

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