表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義務婚の国で、君を想う  作者: カムロ
第2章 運命を決めるルーレット
15/47

第3話 光の中で

低く響くアナウンスが、通路を震わせた。


『避難訓練は終了しました。  足元にご注意のうえ、その場でお待ちください』


消えていた魔力灯がぱち、ぱち、と順に点灯していく。


暗闇に慣れきっていた目に光が刺さり、 僕は反射的にまばたきした。


ゆっくり離れていく指先。

そこには、ほんの少しだけ温度が残っていた。


(……なんだ、この感じ)


胸の奥が、さっきより静かに熱い。


「……大丈夫でしたか?」


光の中に姿を現した女性――フレイさんが、 そっと僕を見上げていた。


赤みのある柔らかい髪が肩で揺れ、 静かな瞳は、暗闇では想像できなかったほど澄んでいる。


(こんな綺麗な人だったんだ……)


声と気配だけの存在だった“誰か”が、 一瞬で“フレイという人”へ形を持った瞬間だった。


「あ、はい。フレイさんこそ……」


「ええ。あなたが声をかけてくれたので、助かりました」


控えめな微笑み。

その柔らかさが、胸にじんわりと染みてくる。


「えっと、改めて……

 僕はユウト・カザミといいます」


「フレイ・アステルです。よろしくお願いします、ユウトさん」


その声は落ち着きがあって、

どこか少し照れていて——

僕の心臓は、つい大きく跳ねた。



『退出はペアごとにお願いします』


職員の声に促され、そのまま並んで廊下を歩く。


薄い紫の魔力灯が足元を照らし、 訓練中の緊張が徐々に溶けていくのが分かる。


「暗闇、思ったより怖かったですよね」


「はい……でも、その……ユウトさんがいたので」


フレイさんは恥ずかしそうに視線を落とした。


「それに……水筒は反則でしたね」


「本当に……あれは心臓に悪いです」


ふたりで小さく笑い合う。


この空気は、訓練中にはなかったものだ。



出口前のスロープに差しかかったところで、 フレイさんがふっと足を止めた。


「……あの、ユウトさん」


「はい?」


「今日は……その。ありがとうございました」


頬が、少しだけ赤い。


胸の奥が、不意に熱くなる。


「こちらこそです。同じペアで良かったです」


言った瞬間、自分でも驚くほど心臓が跳ねた。


フレイさんは目を瞬かせ、 それからふわりと笑う。


「……はい。また、どこかで」


その微笑みは優しくて、柔らかくて、

間違いなく僕の心に残った。



「…………あれ?」


急に視線を感じて振り返った。


少し離れた場所。

金色の髪が、魔力灯の下で静かに光を返している。


すらりとしたシルエット。

落ち着いた佇まい。

どこか懐かしい目元。


(……誰だ?)


記憶のどこかを揺らすような気配。


その女性は、僕とフレイを見つめたまま、 ゆっくりと口を開いた。


「……ユウト、なの?」


声を聞いた瞬間、胸の奥がくっと締まる。


この声を、忘れるわけがない。


「……ミーナ?」


幼馴染。

何年も会っていなかったはずの。


ミーナ・ローレンスは、目をわずかに見開いた。


「やっぱり……ユウト、だったんだ」


その一言が、

静かに、しかし確実に——

物語の次の扉を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ