第7話:白衣の影の正体
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夜、人気のないアパートの一室。
カーテンは厚手で閉ざされ、机の上には古びたノートPCと乱雑に積まれた書類。
空気はわずかに消毒液の匂いが混じっている。
真鍋透と名乗るその男は椅子に座り、正面の二人を見据えた。
真鍋は無意識に首をカクッと傾ける癖がある。それが暗い廊下で“幽霊”に見えた理由だった。
「……俺は一週間前から病院の中を探っていた」
低い声だが、どこか擦れた響きがある。
「昼間は人が多すぎる。夜だけが、奴らの本当の顔を見せる時間だ」
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朝比奈が腕を組む。「あんた、何者?」
「元・臨床研究部。……今は、記録上存在しない人間だ」
真鍋はわずかに首をカクっと傾けた。その癖に蓮司の背筋が粟立つ。
「妹がいた。健康診断で再検査になって……入院して、数日で急変した」
声が一段低くなった。
「搬送ルートは非公式、カルテは真っ白。死因は『治験失敗』——」
蓮司は眉をひそめる。「それ、第7病棟で……?」
「そうだ。あそこは治療の場じゃない。人体実験の箱だ」
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真鍋は机の引き出しから、小さなフォトフレームを取り出す。
そこには笑顔の若い女性——妹の姿。
「最後に会ったとき、腕に点滴痕とは違う針跡があった。……あんたらの知ってる人と同じだ」
麻由の弟のケースと、確実に符号する証言。
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「一週間、廊下や搬送ルートを見張ってた。第7病棟は地下。鍵付きエレベーターでしか行けない」
朝比奈が食い気味に問う。「内部は?」
「ナースステーション、患者部屋、奥に制限区域。薬剤保管庫と施術室があるはずだ」
光が低く告げる。《構造情報、一致率78%。裏付け可能です》
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「俺は証拠を集めて、外に出す。それだけだ」
声は乾いていたが、奥底に燃える執念が見える。
「だが、奴らは“内部証拠”を外に出さないためなら、人一人消すのも平気だ」
蓮司は目を細めた。「じゃあ……俺たちと目的は同じだな」
真鍋は短く頷いた。「敵は同じだ」
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光のアイコンがモニターに浮かぶ。
《内部動線と監視カメラ時刻の照合で、第7病棟の搬送パターンを割り出せます》
朝比奈が立ち上がる。「じゃあ、それを元に……次は“証拠の日”を選ぶ」
——第7病棟の闇を暴くための、最初の共闘が始まった。
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真鍋は机の上に散らばった資料を手際よくまとめ、蓮司と朝比奈に向き直った。
「……証拠はまだ全部じゃない。あと少しで——」
その時、廊下を踏みしめる重い足音がアパートの静けさを破った。
蓮司が眉をひそめる。「……誰か来たのか?」
真鍋は一瞬固まり、低く呟く。
「来るはずがない。ここは誰にも教えてない」
彼は二人を手で制し、目線でクローゼットの影を指し示す。
「——そこに隠れろ」
蓮司と朝比奈が息を潜める中、真鍋は玄関へ向かった。
ドアスコープを覗き、眉間に皺を寄せる。
「……誰だ」
チェーンロックをかけたまま、そっとドアを開けた瞬間——
ガンッ!と金属が悲鳴を上げ、チェーンが外れた。
外から伸びた黒い手袋が真鍋の襟を掴み、そのまま強引に引きずり出す。
「真鍋!」
蓮司が思わず飛び出そうとするが、朝比奈が腕を掴み、首を振る。
廊下には複数の黒い影——そのまま階段を駆け下り、夜の闇に消えていった。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




